黄金虫2
春の暖かい雨を私たちはしばらく並んで見つめていました。
熱を帯びたアロマポットからベチパーの香りが漂います。
少し、暗くなってきました。
私は灯りをつけようと席を立ちました。
「灯りはまだ、いいわ。」
作者が私のズボンを軽く引いて呟くように言いました。
「では、アイリッシュコーヒーをお入れしましょう。」
私の言葉に、作者のほほで蝋燭から放たれた光が、嬉しそうに揺らめきました。
私は会釈でそれに答え、そして、コーヒーを淹れます。
「それにしても、この話、終わらないし、新しい色々が増えるのよね。」
作者はノートを見ながらぼやきます。
「そうですね。本当に。」
私はコーヒーカップをテーブルに置いて作者のノートを見つめました。
様々なメモ書きが書いてあります。
それは、この5年の活動を思い出させてくれます。
『パラサイト』は、一万字予定の短い話でした。
それが、これだけ長く、結末が見えなくなるには、それなりの事情があるのです。
「私、金がほしかったわ…もう、昔の作品が積まれて、公募なんてテンションあげるために出しているだけで、一時先行で落ちるんだもん。
私に残された成功体験なんて、小銭稼ぎ位なんだもん…。
それに、剛の一周忌…花をお供えしたかったの。
ここで稼いだ金で買った花を!だから、頑張ったわ…頑張ろうとしたのよっ(T-T)
からぶったけどさ。」
作者は渋い顔をする。
「そうでもありませんでしょ?」
私は作者のとなりに座りながら、からかうように言った。
2019年が舞台のパラサイトは、既に出版を目指すには古い話題です。
きっと、いくらも見てくれる人はいないと思いながらの投稿でした。
去年の今ごろ、未完のまま一次選考を落選した作品。そして、それは剛さんとの別れの時でもありました。
改編はせず、このままで、あと少し、端数分を稼ぐだけの挑戦だったのです。
しかし、予想以上に閲覧があり、希望がわいてきたのでした。
ただひとつ…最後に一つ、伏線の回収はしようと考えた事を除いては。
「そうね…意外に読者が読んでくれたもの。
確かに、これであの『スカラベ』の秘密を華麗に披露して終われたら(T-T)
よかったのにね…」
作者は深くため息をつく。




