雨にも負けず
今年も終わりに来て、作者は、話を書き始めていました。
まあ、正月は少しは進めないと、終わりませんが。
「もうっ、なんか、書くたびに色々、拾って話が進まないわ(T-T)」
作者が泣きそうになりながらわめく。
「それをまとめるのが、小説家ではありませんか?」
私は呆れながら言った。
「だって…宮沢賢治。童話で引っ掛かったんだもん(T-T)」
そう、ぬいぐるみの物語を書こうとして、偶然、宮沢賢治の本を引っ張り出して混乱しているのです。
「見つけても…放置したらよろしいでしょ?」
私の言葉に作者は不機嫌にボヤく。
「でも…作家と名のつく活動をしていたら、きっと、足を止めずにはいられないわ。
宮沢賢治はね、今から100年前の1922年に本を出版したのよ。
それは、生涯ただ一冊の出版本なんだって…
なんか、惹かれずにいられないでしょ?
私、宮沢賢治は、教科書に登場するくらい有名な作家…と、しか思わなかったから。
でも、出版はただの一回…結局、作家では食べてはいけなかったのよ。
それをきいたら、賢治の悲しみがぐっと込み上げてきたわ。
一回出版で泣かず飛ばすって、なろうでもよくあるもの。
それでも…一回でも出版が決まる喜び…
その後、小説の評価に悩み、自分の才能を疑ったり…。
この気持ちは…きっと、作者になった人しかわからない気持ちだと思うの。」
作者は、そう言って目を細めた。
「確かに、そうかもしれませんね。」
私は、自分が落選した大賞受賞者を眺めながら、ボヤく作者を思い出していた。
憎らしさと、エール。
真逆の気持ちを秘めながら、何度、それらを見つめたことでしょうか。
「うん。悲しいし、勇気も貰えるわ。
後に、宮沢賢治は認められるんだもの。」
作者は、窓を開けてかな夜空を見上げた。
「そうですね。死んでなお、誰かが自分の作品を愛してくれる…それは素敵でしょうね。」
「そうね…でも、私は、生きているうちに認めてもらいたいわ。
その点では、ゴッホも宮沢賢治にもなりたくはないわね。
エログロ作家と言われても…私は、江戸川乱歩みたいな作家になりたいわ。」
作者は、そう叫んで、それから、ばつが悪そうに私に呟く。
「勿論、あんな一流にはなれないだろうけど…底辺なりにそっち方面で、と、いうことよ。」
作者のぼやきに、私は、赤いスパークリングワインで答えた。
「ええ。まずは明けましておめでとうございます。
今年も…頑張りましょう」
雨にも風にも負けずに…我々は完結を迎えられるのでしょうか?
まずは、そんな気持ちは忘れずに行きたいのです。