ミシェル・ノートルダム
さて、これから、複雑になる物語の建て直しを作中作者の奈美とやるか。
ま、普通の人にはつまらないだろうが、同じように小説を更新している人は、他人のプロット中の頭の中を覗いてみるのは、ちょっと面白いかもしれない…
私も、他の人のを見てみたいし。
今回は、キャラクターのレベルアップと作者と読者の共通知識を積む場所として、ここを使うことにした…
全く…時代物なんて、面倒なものに手を出してしまった…
と、文句を言っても仕方ないから、奈美を召喚する。
さすがに、ルネサンスの30代は、15才のミシェルと釣り合わないし、思いきって、見た目を20才にしてみる。
1517年の秋のサンレミ・ド・プロバンスにあうウエストをしぼったロングドレスをきせて、ボンネットを頭にかぶせて出来上がりだ。
次に、頭の画像ファイルから、見たことのあるサンレミを引っ張りだし、頭の3Dアイコンをクリックする。
すると、里外れの雑木林が出来上がる。
確か、南仏では林に豚を放し飼いにして、ドングリを食べさせて太らせていた…なんて読んだことがあるなぁ…
本当かどうかは分からないけれど、このイメージでドングリの林をつくる。
で、次に時のアイコンをクリック。
それで、そよ風が吹いてきて
蝶々が舞い、
小鳥がさえずり出す。
少し離れたところから、水が流れる音がする。
穏やかな初秋の昼下がりが出来上がった。
奈美をそこに歩かせてみる。
うーん。なんだか、段々ラノベを書いてる気分になるなぁ…
空想であるが、現代人が若返り、自分の知識で過去を変える…
やってることは、同じように感じるなぁ。
しかも、奈美は作者。全能の存在だから、これがよく噂されているチートと言うものではないだろうか?
チートなんて言われると、なんだか、今風の良く分からないものに思えたが、思い返すと、我々も作中作者の武勇ものやら
主人公無双の話を楽しんでいた気がする。
「教えて、奈美先生」
なんて題名だと、80年代風味だが、
「私のキャラがヘタレなので、これから作中にレベルアップに行きます。」
みたいな長い題名にすると、それらしくなるなぁ…
違うのかな?
まあ、いいや(^^ゞ
とりあえず、コイツが終わらないと、ラノベなんて夢のまた夢だ。
「全く…、どこにいるのかしら?」
奈美は眉をよせて、少し面倒くさそうに辺りを見回した。
砂利の巾1メートル弱の道をそれると、草が生い茂り、動物や昆虫…蚊等が隠れるのによい場所になっていて、田舎生まれの奈美はため息をつく。
夕方になったら、これは身体中に蚊がたかりそうで嫌だ。
早く見つけよう。
こんなとき、ドラゴンならぬ、ミシェル・レーダーが欲しいとか、おかしな事を奈美は考えたが、なんの、ご都合主義で林からミシェルが登場する。
日本ほど高温多湿ではないし、どうも、プロバンスの六甲おろし…ミストレルの影響で、それほどでは無いとか言うけれど、柔らかい肌のミシェルは刺されて痒そうだ。
「ボンジュール。白い人…あなたは天使?」
かわいい声で挨拶され、私と奈美はビックリする。
天使って…。確かに、奈美は20才に若返り、髪の艶や、肌の調子はあがり、少しふっくらとした頬が、あどけなくも可愛らしく私には感じるが、しかし、天使は言い過ぎだろう?
見た目は20才でも、心は30代の複雑な女心を抱えた奈美は、さぞかし怒るだろう…なんて構えていたら、予想外に奈美は、優しく微笑んでミシェルを見つめた。
「…あなたには、わたしがそう見えるの?」
いつになく、穏やかな表情の奈美に、私の方が意味もなく緊張する。
奈美は、とにかく、わめき散らすキャラだ。
私だって、ダ・ヴィンチの時に啖呵を切られてる。
奈美がこんな、菩薩様みたいなアルカイック・スマイルが出来るなんて!
などと、一人で驚いてもいられない。彼らの会話を聞かなければ。
「うん…。白く光って見えるよ。母さんは赤くて、弟は薄いグリーン。」
キメの細かいミシェルの白い頬に光がさして、私にはミシェルの方が天使のように見える。
ノストラダムスの予言の話は沢山読んできたが、髭面のおっさんのイメージしか無いので、なんだか、新鮮な気がする。
声変わりはまだなのか…高くて、透明感のある優しい声だ。
なんだか、ちょっと、変わった子供だが、剛と融合したとは思えない、そんな愛らしさがある。
「何をしていたの?」
奈美は、ミシェルの膝の泥を払い、優しい笑顔で尋ねる…
や、やれば出来るじゃないか…。奈美よ。日頃からそうやっていれば、作品の人気ももうちょっと上がるに違いないぞ。
「お腹が空いたから、食べられる草を探してたんだ。」
「雑草?実じゃなくて?」
さすがの奈美も、菩薩様の笑顔を消してしまう。
確かに、道に生えてる草を食べるって…
なんだか、怪しい方向に進み出してきて、ちょっとドキドキしてきた。やはり、剛との融合キャラは侮れない。
「うん。無花果とか、すぐりの沢山なっている秘密の場所があるんだけれど、食べ過ぎちゃったから、爽やかになる草を探してたんだよ。」
サラリとワイルドな発言をするミシェル。
「だ、大丈夫なの?毒がある草だってあるでしょ?」
子供の頃にヘビイチゴを平気で食べていた奈美が、不安そうにミシェルを見る。
「うん。大丈夫。毒のあるやつは赤いからわかるんだ。」
ミシェルは自信満々だ。
さすがに、この辺りにくると、ミシェルの口から出てくる色の話が気になってきた。
何の事だろうか?
私は、ミシェルの視界で辺りを見てみた。
すると、そこは、色とりどりの輝く世界だった。
確かに、奈美が白く輝いて見える。
草にはカラフルな色が、縁をかざり、時おり、深紅や紫に見える草が、どうも食べられないものらしい。
共感覚か…
私は、その輝く世界を見つめながら、なんだか楽しくなってきた。
長い年月、ノストラダムスのチート伝説は沢山聞いてきたし、へんなビジョンを見るシーンを良く見たけれど、私のノストラダムスは、どうも、そんなオカルトネタではなく、共感覚があるらしい。
共感覚とは、ひとつの感覚…例えば音に、別の感覚…色なんかが見える、そんな感覚の事を言う。
私のミシェルは、五感を使って集めた情報を、共感覚で色として認識するらしい。
もっと、悲惨な話になると思っていたのだが、意外な方向で話が進むのを、ミシェルのカラフルな世界の中で感じていた。