時影、近代魔術を語る番外5
夜がふけると、闇に辺りの空気がシックな重みをましてきました。
川の流れる音を聞きながら、作者は、不機嫌顔で私を見ました。
「お茶…ですか?」
私は、少しとぼけたようにそう聞いた。
小説が進まない話なんて、今はしてはいけない気がします。
それを聞いて、作者は泣きそうな甘え顔で私を見る。
「もうちょっと、パンチを頂戴!ハイボールとか(>_<。)」
作者は、たまらなくなったのか、立ち上がり自分で作り始めました。
いけません。
私は、急いで作者のグラスを奪いました。
船上では、揺れの分だけ酔いも回りやすいのです。
折角、書く気になったのですから、酔っぱらって貰っては困るのです。
「座ってください。私が、作りますから。」
私は作者にそう言って、シェイカーの蓋をあげる。
こんな時は、華やかなノンアルコールカクテルを作りましょう。
私は、作る間のBGMを映画(2015年)『シンデレラ』から、『Strong』を。
この映画は、実写版として作られたディズニーの映画です。
この曲は、21世紀の物語らしく、強く生きて行く…そんなシンデレラをイメージしたような詩になっています。
ソナ・リーレさんの力強い歌声に、作者がやる気が起きるように願わずにはいられません。
カクテルは、勿論『シンデレラ』
柑橘系のフルーツを使って作る、さっぱりとした味のノンアルコールカクテルです。
少し大きめのグラスに半分の量で作ると、作者に差し出しました。
「……ありがとう。」
少し、疑わしそうな顔で私を見ながら、それでも作者は、カクテルを口にしました。
そして、楽しそうに笑ってくれました。
「パイナップルジュースだね。うまいよ。」
「シンデレラ…カクテルです。ノンアルコールの」
まったく、作りがいのない作者なんだから。
少し、不満な気持ちで作者を見ていると、作者は、納得したように頷きました。
「ああっ。確かに、シンデレラ…かぁ(*''*)」
作者は、そう言って嬉しそうにランプの妖精を呼び出すと、バイオリンで一曲頼みました。
「やっぱ、『シンデレラ』と言ったら、この曲よね。」
と、彼女がリクエストしたのは、『いつか、王子様が』です。
ちいちゃな私の作者は、本物の王子さまを…私に見ていたようですが、現在の彼女の王子は『完結』と言う名の果てしない夢なのかもしれません。
古きよき、甘い旋律を聴きながら、私は作者にこう言った。
「その曲……白雪姫の曲ですよ。」




