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茶色いノート  作者: ふりまじん
ダ・ヴィンチの偽コード
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ダ・ヴィンチの偽コード 22

さて、マルコの話を始めよう。


物語の現在1514年頃、破損が激しくなった「最期の晩餐」の改修の資金集めに特別に作られた免罪符の収益でそれは賄われる。


そして、激しく破損した部分を改修する為に、絵画の人物に似た人間をモデルとして使う事をそれとなく匂わせた。


で、マルコの故郷の町の長の娘も、「最期の晩餐」のキリストの隣に座るヨハネとおぼしき人物のモデル候補におどりでるのだ。


彼女の名前はマルガリータ。


もうすぐ、プロバンスの男の元に嫁ぐことが決まっていた。


戦略結婚の性格の強い結婚なので、里帰りは…殆ど望めなさそうだ。


だからと言うわけでもないが、マルガリータの父は、この絵のモデルに娘が選ばれる為に、大金を浄罪として差し出した。


この時のミラノを実質的に支配していたのは、フランスだ。


去年、ダ・ヴィンチはフランスにつれて行かれた。

マルガリータは、幸せになれるのだろうか?



しかし、実力者とはいえ、長い紛争で混乱していたミラノにおいて、彼の資金力では、いささか浄罪が足りないようだ。


週一度やってくる大司教の使いは、他の地区の娘の為に、免罪符を買い求める人数を速報で教えに来ていた。


あと、もう少し…


マルガリータの父親は、町の人たちに呼び掛けた。


そして、マルコも大金をこれにかけることにした。


マルコは…マルガリータをよく知らない。


話すことさえないほど、身分も違う少女である。


ただ、テレビや娯楽のない時代、教会の行事で讃美歌を歌い、美しい天使に(ふん)する彼女を夢を見るように遠くから見つめてはいた。


握手会はないが、クリスマスには、彼女は母親と共に地元の子供たちに砂糖がかかった甘い菓子を手渡ししてくれた。


それくらいしか、ふれあいはない。


それでも、ステージで輝く彼女の美しさを語りあう友人は沢山いた。


死んでしまった奴もいる。

結婚して、そんなものに関わる暇のない奴もいる。


そんな友人は、貯めた金貨を自分のものにもならない女の為に使う事をバカにしたように説教する。


「おまえ、もう、25才にもなって、いい加減身を固めろよ。馬鹿げた幻想から足をあらって、嫁と子供をもったらどうだ?」



まさに、リア充と言われる人間の正論だ。

彼は、18才には結婚し、すでに五人の子持ちである。

傭兵として土地を移動し、その日暮らしをしているマルコとは真逆の生活を無理なく手にした。


が、長い間、根無し草として生活してきたマルコには、そんな生活は今更出来るはずもない。


港町の酒場の女と、マルガリータが彼の恋人で、村の純朴な少女との接点なんて、考えることも面倒くさくなっていた。


クラーメルは、75才まで生きたとしても、この時代のマルコのような、一般人の平均寿命は30才。


その上、彼は、なんとなく、時代のきな臭さを感じ取っていた。


イタリアから外国の勢力を排除しようとしたユリウス2世は、去年の2月に亡くなり、よりによってあのメディチ家の人間が教皇に選ばれたのだ。


レオ10世である。



学者になった友人は、マリオを人殺しの野蛮人と愛のある皮肉をいった。


「マルガリータの姿を永遠に残したいだって?ばかばかしい。無知なお前にはわからないだろうが、あれは、ダ・ヴィンチの駄作だ。フレスコ画を描く技術もなく、あんな、テンペラで絵を描くなんて…。絵画にそれほどあかるくない私ですら、あの絵の危うさは感じていたよ。今、補修をしたところで…食堂なんかにあるかぎり、お前が死ぬ前にまた、崩壊をはじめるはずだ。」



学者の友人の理論的な正論は、マリオを不安にさせたが、こいつにも正確に判断できないこともある。


それは、マリオの命の長さだ。


確かに、最近は小さな紛争があっても、まだ、大きな戦争にはなってない。


相変わらず、フランス人にはうんざりするが、それでも、背中をざらつかせるような、死神の気配を感じるわけでもない。


それなのに、日毎(ひごと)につのる焦燥感をマリオは拭えなかった。


多分、俺は、マルガリータの死を知ることはない。

漠然とした自信が、彼にはあった。

天国があるかと聞かれたら、荒廃したローマを見てきたマリオには答えられない。が、自分が地獄へと…

マルガリータとは違う世界に消える身だと言うことは理解できていた。


免罪符なんて、あんな馬鹿げた紙切れが、今までの自分の退廃した生活を浄化してくれるとは思えないが、あのサンタ・マリア・デ・グラツィエ教会の食堂なら、例え悪鬼となってさ迷うことになったとしても、まだ、行ける気がしたのだ。


そんな酒場の馬鹿話を静かにベルフェゴールが聞いていた。


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