時影、近代魔術を語る 183 時代の新秩序
作者が風の精霊を読んで、木漏れ日のハープを演奏させました。
ベートーベンの『月光』です。
「この曲…やっぱり、ハープが一番好きだわ。」
作者は目を閉じてそういいました。
「乙女ですね。でも、やはり私は、ピアノがそそりますね。
三十路のベートーベンが、14歳の少女を思って夜な夜な悶絶しながら作曲したと思うと、
おっさんが、必死に幼女に媚びようと頑張るトコロを想像して、ゾクゾクします。」
メフィストが、恍惚の表情を浮かべて言いました。
「いやぁぁぁ(>_<。)」
作者は、メフィストの台詞に耳を押さえました。
この曲は、1801年作曲されたと言われています。
14歳の教え子の公爵令嬢ジュリエッタを好きになったベートーベンが、彼女の為に贈ったと言われています。
「19世紀のエピソードを今の価値観で考えては行けませんよ。」
私が作者にそう言った。
「そうですか?古今東西、『坊主』とか『先生』なんて職業の人間は、スケベエだって、言い伝えられてますから。」
メフィストが、嬉しそうに話す。
「やめてよぅ…言い伝えとか(>_<。)怒られちゃうでしょ。
でもっ、いろんな不祥事が、最近、ありすぎて否定も出来ない自分もいるわっ(T-T)
女性の未成年に対するワイセツ行為のニュースとかをネットで目にすると、『24の瞳』とかに感動した昔の自分に戻れないわ…」
作者は深くため息をつく。
「まあ、昔は先生と言えば、『聖職者』と呼ばれていましたからね、少しでも、汚点があれば、大きく取り上げられますし、
現在は、『仰げば尊し』を卒業式に歌わない学校も増えてるんだそうですよ。」
私が作者をなだめる。
「まあ…そうよね(-_-;)
ベートーベンだって、『月光』なんて題を勝手につけられて怒っていたらしいし。」
作者は気持ちを切り替えるように明るく話す。
そう、元々は『幻想曲風ソナタ』と言うらしいです。
「人間なんて、みんな、そんなものでしょ?
ベートーベンだって、勝手に作り上げたイメージをナポレオンに押し付けて、『エロイカ』なんて曲つくって、ナポレオンが皇帝になると、ガチギレして題名変えたらしいじゃないですか。
この私、メフィスト・フェレスも、シェイクスピアや、加藤和恵に弄ばれ、手塚治虫には、受肉されたんですからね。」
と、シクシクと泣き出す。
「じゅ…受肉って…なに(・_・;」
「バ美肉ですっ」
メフィストが、泣くのをやめて作者を見る。
「ばびにく………。」
作者は怪訝な顔をした。
それを見ながら、メフィストは嘘泣きをやめて、ヤレヤレと説明を始めました。
「知らないんですか?もう、古いですね。
バーチャル美少女受肉…私の場合は、男ですから、小さくまとめて、
バ美肉おじさん。と、呼ばれてますね。」
メフィストは、なんだか嬉しそうに笑いました。
「バ美肉…おじさん?手塚治虫先生が、そんな怪しげな話を…書いていたかしら(-"-;)」
作者は疑惑の目をメフィストに向ける。
「ありますよ〜しかも、未完の遺作『ネオ・ファウスト』ですっ。」
メフィストは、深くため息をつく。
『ネオ・ファウスト』は、1987年から連載された手塚治虫の青年漫画です。
ゲーテのファウストをベースに、高度成長期の日本を舞台に物語が進みます。
確かに、この作品のメフィスト・フェレスは、女性でした。
しかし、バ美肉とは、主にネットなどの仮想世界で少女のアバターで話すVチューバーの事を示します。
ネットのなかった昭和の巨匠、手塚先生には濡れ衣の話です。
「やめてよぅ、あれは、女性の悪魔、アンタのバ美肉なんかじゃ無いんだからっ、絶筆された遺作を汚さないでよぅ。」
作者がメフィストに叫びました。
メフィストは、それを静かに聞いていました。
ふざける事なく、少し、悲しそうにうつむきながら、唇に皮肉げな笑いを浮かべ、
「だから、人間なんて、そんなものなんですよ。」
と、呟いた。