時影、近代魔術を語る 178 時代の新秩序
カルロヴィ・ヴァリは、とても美しい街です。
温泉が発見されたのは、カール4世の時代、と、古いのですが、現在の街並みに見られる華やかさは、やはり、19世紀に温泉街として注目されてからのものかもしれません。
この街…いえ、山あいにあるので、町…の方があっているのかもしれませんが、氏族や著名人が頻繁に訪れて、華やかなエピソードに事欠かないのですから、やはり、ここは『街』の字を使わせていただきたいと思います。
食事も終わり、我々はこの静かな街を散策しました。
街の所々では、温泉水が飲めるスポットがあります。
街の人達は、マイカップを持参して、これを飲んでいます。
作者もそれを見て、カップを購入すると、温泉水を貰いにいきました。
「どうです?」
私の問いに作者は、複雑な顔で答えます。
「まあ…お湯ね。上手いかどうかと聞かれると…よくわからないわ。健康には良さそうだけど。」
作者は、そういって温泉水を飲み干しました。
「そんな時には、コレですよ。」
と、すかさずメフィストがポケットから、インスタントコーヒーのステックを取り出しました。
「まあ!その手があったわね。」
作者は、嬉しそうに笑い、それから、少し辺りを見渡して心配そうにメフィストに聞いた。
「ねえ、でも、そんな事をしていいの?」
「良いんじゃないですか?ほら、日本の温泉街でも、土地の水を使ってコーヒーを売ってるし。」
メフィストは、無責任に笑いかける。
「何でも良いですが、迷惑をかけることはしては行けませんよ?
ごみは持ち帰り、コーヒーにしたら、飲み残しの無いようにしなくては。
街を汚してしまいますからね。」
私は、呆れながらボヤいた。
カルロヴィ・ヴァリの条例がどうなっているかは知りませんが、ここは空想の世界ですし、最近、どこにも行けないのですから、
インスタントコーヒーにカルロヴィ・ヴァリの街をのせて、旅を楽しむくらいはお許し頂きたい。
「わかってるわよ。全く(T-T)
でも、今は、コーヒーが必要だわ…
もう、あっちこっちと、新事実が登場で、私、泣きたくなるんだもん。
西条八十編の間違いに気がついたし、
地獄だわ……。」
作者は、人目を気にせずコーヒーを作ると、丁度良さそうな石段に座り込んだ。
「そんなところに座らないでくださいよ。」
私は疲れる作者を見て、静かにそう言った。
しかし、それ以上、責める気にもなれずにいました。
今回の八十の間違いは、訂正の訂正…
格好悪すぎて悶絶して、まだ、訂正をいれられずにいるのですから。
「では、こちらにどうぞ」
メフィストは、小さな馬車を用意して作者に笑いかけました。
さすがに、白い馬の馬車を見ては、落ち込んではいられないようです。
「まあ…白馬の馬車。素敵ね。」
嬉しそうな作者を見ては、私も、メフィストになにも言えなくなりました。
「ついでに、御者もイケメンですぞ。」
と、瞬時に19世紀風味の御者のコスプレをしたメフィストが、恭しく作者の手をとりました。
「さあ、お姫様、ドライブはいかがですか?」




