時影、近代魔術を語る 177 時代の新秩序
コーヒーで落ち着いて、我々は静かにデザートを口にしました。
ベートーベンのピアノ曲が流れて、我々は無口にチョコレートケーキを食べていました。
「しかし…私は、貴女の気持ちに共感しますよ。
ワシントンは、ミステリアスで謎の多い人物ですからね。
アメリカのワシントンが宇宙人と交信していたらしいと、作家のウィリアム・ヘンリーさんは語っていますから。」
メフィストは真顔で話を始める。
「ネタ元は『古代の宇宙人』じゃないですか……。」
私は、ヒストリーチャンネルの人気番組を思い出した。視聴するのは楽しいですが、資料として扱うには、少し考察が必要な番組です。
「私も見たわ。ワシントンが、林で光る何かに南北戦争についてお告げを聞くのよね(T-T)
フリーメンソンの陰謀考えながら、宇宙人と交信までして、小説にするにはワシントンを考えると複雑になりすぎるわ。」
作者は、テーブルを見つめながら絶望的なため息をつく。
「宇宙人は忘れてしまいなさい。」
私は、短いアドバイスを出した。
「何を言うのですか!アメリカの陰謀と言えば、宇宙人との密談ですよ。
Xファイルを見れば、明らかではありませんか!」
メフィストは叫び、それから、悠々とコーヒーを飲む。
「それじゃあ、Xファイルのパクリって言われちゃうじゃない(>_<。)」
作者は頭を抱える。
「だから、宇宙人は捨てたらいいのですよ。
ワシントンの辞書に飛行円盤なんて単語はありませんから。」
私は、作者の左手を軽く握る。
「確かに、そうよね?フリーメンソンだけでも大変なんだもん。」
作者は、困った顔を少しだけ和らげる。
「言葉はなくとも、真実はひとつ!
貴女だって、驚いたはずだ、ベートーベンが交響曲第9の、『歓喜の歌』の初構想を思い浮かべた1792年の争乱について!!」
と、煽りながら、メフィストは『暴れん坊将軍の殺陣のテーマ』をスマホから再生して、なお、話始める。
「1792年、フランスは、革命の混乱の中でルイ16世を拘束します。
アメリカでは、ワシントンが、アメリカ大統領に再選し、後のホワイトハウスとなる米国大統領邸の礎石が置かれた年ですよ!
ワシントンはフリーメンソンの会員なのですっ。
そして、彼が、アメリカの街創りにメーソンの知恵を入れたのは有名なはなしですっ。
新たな大統領となったその年に、ホワイトハウスの礎石を置くのに、何かしないわけはありませんっ!!」
メフィストは、暴れん坊将軍のテーマに煽られて、暴れまくっています。
それに作者が引きずられて行くのを感じます。
全く、この人たちは。
私は、ベートーベンの交響曲第9番に曲を変えました。
そう、このカルロヴィ・ヴァリは、14世紀にカール4世が温泉を発見して以来の保養地であり、ベートーベンゆかりの土地なのです。
この土地には、やはり、ベートーベンが似つかわしい。
「馬鹿馬鹿しい。だから、なんだと言うのでしょう?
確かに、世界情勢として、アメリカとフランスは関係がありますから、歴史が関連して動いて行くのは当たり前ですっ。
それに、ワシントンが何をしたにしても、ベートーベンの作曲活動にも、貴女の創作活動にも、関係ありませんよ。
大体、貴女は、何を考えていたのですか?
『パラサイト』ですよ?
2019年の舞台のっ、
ネット応募作品なのに、まだ未完のっ、『パラサイト』にベートーベンもワシントンも関係ありませんよっ。」
そうです。仮に、『ベルリンソナタ』の考察だとしても、宇宙人なんて必要ないのです。