時影、近代魔術を語る 175 時代の新秩序
メフィストの演奏が終りました。
それに続くのは、ベートーベン『交響曲第9番』
日本では合唱部分が年末に『第9』として歌われ、親しまれてきました。
「この曲、日本でも有名なんだけど……フリーメンソンゆかりの曲なんだね(-_-;)」
作者はそう言ってため息をついた。
「そんな、不景気な顔なんてしないで、ぱあっ、といきましょうよ。
はいっ、デザートワイン。ベートーベンも好きだったらしいですよ。」
メフィストは、グラスにトスカワインをなみなみ注ぎながら作者の肩をポンポンと叩いた。
全く…悪魔め。
私は、メフィストの注いだワイングラスを素早く奪う。
「飲め無い人間に、お酒を強要するのはいけませんよ。」
メフィストを睨んで一気のみをした。
メフィストは、少しつまらなそうに私を見た。
それから、何か、楽しいことを思い付いたように、嫌らしい笑いをしてから
さも、悲しそうな顔で作者の気を引く。
「残念です。折角、貴女に飲ませようと持ってきた、ベートーベンも好きだった安物のトスカワイン。
あれば、ボヘミアの名物で、別名、貴腐ワイン。こちらの方が分かりますかね?」
メフィストは、最後の方は気さくな感じで作者を見る。
「貴腐ワイン( 〃▽〃)
少女漫画で貴族が飲んでる、あの、高級なワイン?」
作者がしっかりと乗せられています。
それに味をしめて、メフィストは作者に寄り添うように近づいて行きました。
「そうです。その貴腐ワインの安物なんですっ。」
メフィストは、作者の両手を握りしめて、私を悪者を見るように睨んで来ました。
「ワイン好きの『おいしい』は、酒ぎらいの『まずい』
貴女の持論でしたね。」
私は、メフィストを無視して作者を見つめた。
この人、大人になったお祝いに二万円のワインを買って無駄にした事があるのです。
「でも…きふわいんだよ?」
作者は、諦めきれない顔で私を見る。
「そうですね、確か、誕生日に、20年もののワインをわざわざ注文して、デパートでグラスまで買って、一口飲んで、不味いと放った時も、そんな風に突っ走ってましたね?」
私は、作者の20歳の誕生日を思い出した。
作者も同じらしく頬を膨らませて不服そうにする。
「でも…無駄にはならなかったわよ?ワインが好きな人が嬉しそうに私の飲みかけまで飲んでたし。
本当に、うまそうに飲むんだよね(-_-)
でも、なんか、甘くないし、なんかスカスカな感じで、私は、不味いと思ったわ。」
「でしょ?ワインが好きな人が薦めているものが、貴女に合うとは限りませんし、アルコールに弱いのですから、気を付けないと。」
私は、サイダーにトスカワインを少しだけ入れて作者の前に置いた。
「貴女の場合は、これで十分ですっ。
それに、素性も知れない怪しい男から、ホイホイお酒なんて貰っては行けません!」
私は、そう強く言いはなった。
が、作者は聞いてはいなかった。
出されたサイダーをうまそうに飲んで、嬉しい悲鳴をあげながら、メフィストと女子会のノリでキャッキャうふふと楽しんでいた。