時影、近代魔術を語る 172 時代の新秩序
日が高くなり暑くなってきました。
我々はリトムニェジツェで1度上陸し、ランチを楽しむことにしました。
ここは『ボヘミアの庭園』と呼ばれた美しい自然に囲まれた小さな町です。
中世から近代まで、様々な戦いに苦しめられましたが、それでも豊かな実りは現在でも人々を潤し、
観光名所にもなっているワインセラーでは、美味しいワインが頂けるのです。
「空高く、美しい秋の空ですね。」
私は、天に向けて両手を伸ばしながら作者に小さな嫌みを投げた。
確かに、一次選考に通過して、受かれる気持ちはわかります。が、私をいつまでも忘れて居られるなんて酷すぎます。
「うん……素敵だね( ̄ー ̄)」
私の嫌みは彼女には、刺さらなかったらしく空を見上げて微笑んだ。
「………。それだけですか?」
私は、責めるように作者を見る。
「うん。それだけでいいじゃない。」
作者は私の右手を握って子供のように万歳をした。
「そんな事では誤魔化されませんからね。」
と、言いつつ、誤魔化されそうな自分を感じて苦笑した。
「何も誤魔化してないわよ?」
「では、ラドニチュニー・スクリーペクで、ランチはいりませんね?」
「それは別!なんか、肉が食べたいわ。そして、コーヒーも。」
作者は私の手を握ったまま早足になります。私は、引きずられる様に後を追います。
明るい日の光に、切なさを含んだ少し冷たい風が混ざりながら頬と胸を撫でて行きます。
ああ、戻られたんですね。
私は、握られた手を握り返して先陣を奪いました。
さあ、美味しいランチを頂きましょう。
デザートは何にしましょうか?
食事は穏やかに進みました。
店に流れるは、ドボルザークの『新世界』
北ボヘミア出身のドボルザークは、音楽の才能を開花させ、後にアメリカへと移住する。
『新世界』は、そんなアメリカでの生活で生まれた曲である。
「新世界…このフレーズ、いつか使おうと思うのよ。
大阪万博に向けて、大阪を舞台に最後の話を作りたいから、ブラームスの曲を派手にかきならしながら、通天閣をバーンって映してね、なんか、バトル。」
作者はコーヒーをそう言って口にする。
「なんか、バトルって…なんですか?」
私は、子供のような作者に苦笑する。果たして、この人の頭では、何が戦っているのでしょう?
「分からないわ。なんか、バトルのよ。二次選考の結果はまだ発表されないけど、もう、来年の話を考え始めないと(>_<。)
来年は、2月なの?5月かの?2月なら、間に合わないし、パラサイトは未完だし、泣くわ。」
作者は渋い顔で目を閉じる。
「まずは、『パラサイト』の完結からですね。間違いなく。」
私は静かに、それだけ言う。
「わかってるわよぅ…(T-T)
でも、あの話、なんだか知らないけど、登場人物が、みんな怪しげな陰謀を持ってくるんだもん…
私、雅苗の『モルゲロン病』について語ろうとしてたのよ、なのに、お父さんの雅徳さんが、今度はガイア理論でワンダラーなんだもん。」
作者はそう言って頭を掻きはじめる。
「チョコレートケーキ、食べませんか?」
私は、追加の注文を入れながら作者にきく。
「いただくわ(T-T)」
作者は頭を掻くのを止めて長身のウェイターを嬉しそうに見上げた。
私は、呆れながら肩をすくめて、ケーキとワインを注文した。
「それにしても、雅徳さんは、どんな人物なのでしょう?放浪者とは?確かに、何かの調査中に事故死をするのですよね?」
私の質問に、作者は少し、恥ずかしそうに頬を染めて、不機嫌に答える。
「1ドルよ、ワン ダラー。なによ、放浪者って。」
作者はブツブツ言いますが、検索したら、まずヒットするのは、こちらの意味ですから。