時影、近代魔術を語る 163 ベルリンソナタ
晴れやかな舞台の上で、メフィスト フェレスがタキシードを来て話しています。
先程のアコーディオン奏者が軽快に2回目の『ネクロの花嫁』を弾き始めました。
『土用の夜は』のキャラクター、メフィスト フェレスは、森鴎外が『ファウスト』の翻訳をした縁で、サブカルチャー風味の、細身の白い燕尾服に、今時の少女好みの端正な顔立ちでダンスを始めました。
「どうしたのです?」
私は、少し不機嫌に作者に聞きました。
作中のキャラが、こちらに登場するのは、あまり、好ましくありません。
それでなくとも、私の作者は物語をまとめるスキルが欠けているのです。
そんな作者に余計な影響を与えそうで、私は不安なのです。
「まあ…、『土用の夜は』の登場人物だし、彼の話は、向こうでは語ってなかったから。」
作者は、私の機嫌を伺うように上目使いで言った。
「そうですか?でも、それなら、ミズキに語らせても良かったのではありませんか?」
そんな顔をしても、ダメですよ。と、私は非難するように目を細めた。
「ダメよ〜。明日には、エルベ側を北上してドイツに向かうんだもの。
もうそろそろ、乱歩の話を書いてみたいし、ベルリンソナタに合うような、そんな語りが欲しいんだもの。」
作者はふくれます。が、まだ、『パラサイト』も終わらないのに……と、こちらも作者の呑気さにイライラします。
「それは、いいですけど…でも、まずは、『パラサイト』を終わらせるのが先ではありませんか?」
私の台詞に、作者は顔を歪めて泣きそうになる。
「それが出来ればね、苦労ないのよっ(T-T)
今、ノートに、読み返しながら設定や、キャラクターの名前とかを確認してるんだよ(T-T)
もうね、辛いんだから。
私だって、夏休みの宿題の苦しみみたいなのは、金輪際ごめんだわよ。
でも、見てくれる人がいるし、頑張るわよ〜
それに、もう、8月よ?来年のネット大賞のネタ、なんか書かないと、間に合わないわよ〜(>_<)
来年は、完結作品を投稿して、一次選考を通過するんだもん。来年は、どうなるのかしらね?2月か、もっと後なのか…、少し、考えても良いじゃない。」
作者は悲鳴のように叫び、私を困らせた。
確かに、来年の予定は予測不可能ですが、まずは、今年では。とも、思うのです。
モヤモヤする我々をよそに、メフィストは、ダンスを踊りながら、自慢のテナーをホールに響かせる。
「さあ、お客様。これから私がお話しするのは、20世紀の一途な男と歴史に残る美女の物語。
1912年。タイタニック号が沈没した年の事でございます。
とはいえ、この年には、一人目の主人公は、既に亡くなっていました。
遥か、悠久のナイルの流れと共に、三千年のある日、ある時、彼は身分違いの人妻に恋をし、彼女の美しさを永遠のものにしたのです。
アヌビス神に支える神官達すら難しい、永の美を…
名前は、トトメス。
しがない彫刻家の男です。」