時影、近代魔術を語る 160 ベルリンソナタ
ミズキは歌います。美しい声で、身勝手で一途な哀しい愛を。
作者はそれを見ながら不機嫌な感じに目をしかめてケーキを口にする。
「私、慌てたわ。だって、時間はあんまりなかったし、今回はエタの沼に落ちたくないし。
しかし…『パラサイト』終わらないわ…もう、嫌になる(T-T)。
それはともかく、『土用の夜は』って題で書いてたのよ、小説をね。
で、乱歩のデビューの年を間違えたので、森鴎外との接点を必死に探したわ。で、森鴎外が肺結核で亡くなったのを知ったわ。」
作者は何かを噛み締めるように目を閉じる。
「そう言うのを現実逃避というのですよ。
『パラサイト』を今週でケリをつけるのではなかったのですか?」
私は、四連休をうまく使えてない作者にやきもきする。ネット大賞の一時選考の発表前に完結したいと言ってたのは嘘なのでしょうか。
「ふっ…( ̄ー ̄)、もうね、あっちも大変なんだよ〜もう、なんで、ここで新展開が繰るんだろう(T-T)
肺結核…もうさ、結核菌に泣かされるわよ。
カール・フォン・コーゼルの思い人も、肺結核だったのよ。この人の事件は1930年代の事だけど、
鴎外の亡くなった 1922年って、スペイン風が日本では猛威を振るっていたと思ってたけど、割りと、結核患者も多かったのね。」
作者はため息をつく。
現在、ミズキが歌う『ネクロの花嫁』は、カール・フォン・コーゼルの事件をモデルに作られた、と、ネットで書かれていましたが、実際のお話は、この歌のように甘いものではありません。
カールは初老のドイツ系移民のアメリカ人。既婚者です。
その彼が、年若い娘に恋をするのです。
娘の名前はエレナ。21歳の既婚女性。
しかし、結核を患って入院し、旦那さんは会いにも来ません。
カールはエレナにアタックし、医師でもないのに怪しげな治療をし、エレナが亡くなると墓までたててあげました。
そうして、とうとう、エレナの死体を盗んで同棲生活をするのです。
「でしたね。肺結核の薬、ペニシリンの登場は1940年代。」
「うん。ペニシリンって、昭和のドラマのチートアイテムとして良く見かけたわ。
フレミングと抗生物質。久しぶりに調べたわ。
それにしても、結核って、物凄く怖い病気だったのね( ̄〜 ̄;)
今までは、文学の偉い人みたいに森鴎外を見ていたから、昔なら、文学の事とか考えながら闘病したのかと考えたんだろうけど、この人、医者なんだよね。
しかも、ドイツまで疫病学を学びに行った。
結核に何を感じていたのかしらね?」
作者は渋い顔で私を見る。
「さあ、私にも分かりません。」
私は素直にそう答えた。
「そうね、わからないわね。医者として公衆衛生や治療について考えたのか、それとも、文学的に朽ち行く自分を見つめ続けたのか…。どちらにしても、フレミングの発見は、あと10年弱かかるんだもの。
でも、一途な愛繋がりでBGMに『宵待草』を選んだから、夢二もまた、結核を患って亡くなることを知るのよ。」
作者は頭をかいて面倒くさそうな顔をした。
「また、頭をかくのは上品とは言えませんよ。」
私は、作者をたしなめますが彼女はそんな私を無視して喚きます。
「はぁ…これは書ける。かけるのに…パラサイトは進まないわ(T-T)。
終わらないわもう。」
「落ち着いて。仕方ありませんね。赤ワインはいかかです?アイスティーに混ぜて。」
私は、誘うようにそう言った。