時影、近代魔術を語る 159 ベルリンソナタ
19世紀の西洋に迷いこんだような華やかな舞台に作者はミズキを立たせました。
アコーディオンの音に合わせてミズキが歌うのは、『ネクロの花嫁』奏音69さんの楽曲です。
「この曲、結構、はまったのよ。」
作者はミズキの甘い歌声を聞きながらコーヒーを口にする。
「と、言うか、カール・フォン・コーゼルに、ではありませんか?」
私は、若い人妻の死体と同居した哀れ犯罪者の名前を口にした。
「うん。なんか、凄かったね( ̄〜 ̄;)
でも、私も、音無ってキャラを作ってるしさ。
と、言うか、カールの話を調べていたら、音無の奴が良く喋りかけてくるんだもん。」
と、作者はため息をついた。
「確かに、あまり、キャラクターが貴女に話しかける事はありませんからね。」
「うん。嬉々として、カールを小バカにしたように説明するんだもん。嫌になるわ。」
作者はため息をつく。
音無とは、『オーデション』と言う作品の登場人物で、病気で亡くなった思い人の死体を虫に食わせて、その虫の繭で自分の洋服を作らせた……らしい、不気味な人物だ。
が、本当にそんな事をしたのかは、現在、不確定なので、登場人物に真実なんて教わりたくはないのだ。
「まあ…コーヒーのおかわりでも…と、言うか、ワイン、いかがですか?折角、ワインの名所に来たのに、勿体ないですよ。」
私は、混乱している作者にワインをすすめる。
お酒の力で、すこしは朗らかになるといいと思ったのです。
「今は、いいわ。あの短篇、パッとはしなかったけど、それでも、後書きに江戸川乱歩についてアピール出来たし。
なんかさ、大賞受賞者は、来年、音読してもらえるらしんだ。
ローファンタジーで、イベントに参加するから、もう少し読まれると思ったけど、今思うと、これくらいで良かったかもしれないわ。」
作者は渋い顔でコーヒーを口にする。
「弱気ですね?」
「弱気にもなるわよ(T-T)
なんかさ、オリンピックで演出家が降板しまくってるけど、私も、そんな、誉められた人物でもないし、江戸川乱歩とか、手塚治虫とか、わめいていいのか、心配になってきたんだもん。」
作者はコーヒーを手に遠くを見つめる。
チェコの美しい空が、窓の向こうに広がっていました。
「江戸川乱歩のお話を手塚治虫のスター制度のアニメで夏の9時のテレビで見たいのでしたっけ?
それくらいなら、平気でしょう。」
私は赤ワインを一気に飲み干した。
遠い昔、夏には子供のための夏アニメが放送されていました。
その、特別な手塚アニメが作者は好きでした。
いえ、当時は、今ほどアニメ作品が豊富ではありませんでしたから、大体の子供は楽しみにしていたのです。
江戸川乱歩の明智小五郎シリーズも、夏にドラマになっていた事もあり、2025年の大阪万博を前に、昭和レトロに憧れる気持ちを書いたところで、誰も文句は言わないでしょうに。
「まあ…ね。私が関わらなきゃ…大丈夫よね?
とりあえず、なんか、書こうとは考えてるんだけど。」
作者は照れながら、そう言った。
「それ、未完を片付けてからにしてくださいよ。」
「うん。まあ、『パラサイト』が終わってからね。
でも…終わらないんだもん。少し、語らせてよ。夢物語を。」
と、作者は苦笑して、言葉を続けた。
「私、この、どうにもならないエタの沼から逃れるために、2025年の万博まで、AI手塚先生、絵師逆指名で頑張ろうと考えたのよ。
なんての?甲子園みたいに、目標にするのは自由だろうし、2025年までに、どうにもならなくても、野球アニメみたくまとまると考えたの。」
作者はため息をつく。
「ため息をつきたいのは、こちらですよ。
そんな、無茶な目標が叶わなくて終わっても、誰も納得しませんよ。」
私は笑った。
「そうよ。だから、野球アニメを研究したわ。
人気の作品は、みんながみんな、甲子園にいってるわけじゃないわ。
やる気と試合。これで魅せてるのよ!」
と、作者は勇ましく私に説明する。
「で、『パラサイト』の途中で、短篇を書いていたのですね。」
今度はため息がでた。
「うん。だって、来年は特別なんだもん。
江戸川乱歩が無職のニートで小説家をめざす。
なろうのキャラクターみたいな境遇だった時から100年目よ。
なんか、乱歩と同じ境遇なんて、期待がもてるじゃないの。」
作者は嬉しそうに笑う。
「3ヶ月ほどですが…怒られますからね、ファンや身内のかたに。」
「えーっ。怒らないわよ。私の記事なんて、殆ど人来ないし。と、言うか、ちょっぴり、夢を見たっていいじゃない。もう、コロナとか、嫌なことばかりなんだもん。推理部門も元気ないし、夢がほしいんだよ。 」
作者は酒を飲んでいるわけでもないのに、くたをまく。
「まあ…私は良いですが」
「じゃあ、いいじゃん。
まあ、そんな感じで書いてたんだけどさ、いきなり、始めで失敗したのよね。
乱歩って、デビューが1923年なのね、ニートと無職の事ばかり考えて1922年と勘違いして、森鴎外の亡くなった年と同じだと思ってたんだよ。
あわてたよ〜もう。でも、調べたら、乱歩が無職で実家に転がり込むのが22年7月でね、その同じ月に、森鴎外が肺結核でなくなっていたのよ。
なんか、凄いわよね。
日本文学の運命の分岐がこの時、人知れずあったんだもの。」
作者は無邪気に微笑んだ。