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茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
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時影、近代魔術を語る 157 ベルリンソナタ

川風を揺らしながら、アコーディオンが素朴で優しい音色を響かせ、『リリーマルレーン』が流れました。

戦闘機の話…ではありません。

これは、ドイツの古い歌謡曲。

デートリッヒの持ち歌としても有名です。


販売当初、原曲は売れなかったそうで、売れるきっかけは、ドイツ軍の放送から、兵士たちが口ずさむようになったからのようです。


歌の内容は、兵士が会えない恋人への恋情を歌うもので、この曲は、ドイツ軍の歌としての一面があり、ゲッペルスが士気高揚のために利用したようでもあります。

が、アメリカに亡命したデートリッヒは、アメリカ兵の慰問で歌ったりもしたそうで、その為、当時、デートリッヒは、ヒトラーを含めたドイツ人に嫌われたようです。


この曲がリリースされたのは1938年。



作者が私に笑いかけました。


無声映画(サイレント)の女王…なんて、私は聞いて育ったのよ?デートリッヒを。でも…なんて優しいハスキーボイスなのかしら?」

作者は、そう言って目を閉じ、困ったように口元を歪めた。

「でも、さすがに、この曲に思い出はありませんでしょ?」

古い曲ばかりを懐かしむ作者を私は、からかう。

作者は私を軽く睨んで、それから、ミズキを呼ぶと、こう注文をした。


「お酒を頂戴。ジンジャーエールもね。」


ミズキは、このいい加減な注文を理解して、一礼をし船内へと向かう。

作者はそれを見つめながら、ため息をつく。


「なんですか?さっきから。様子が変ですよ。」

私の問いかけに、作者はふて腐れた顔で答え、演奏を終えた『リリーマルレーン』の代わりに別の曲をかける。


始まった曲は、『As times Goes by』

映画『カサブランカ』のテーマソングです。


「うん。なんか、この辺りの記憶が曖昧で、私、デートリッヒが『カラブランカ』に出演していたと勘違いしてるのよ。」

「デートリッヒは、『モロッコ』ですからね。」

「みたいね…で、色んな記憶違いを整理したくなったわ。

私、デートリッヒって、サイレント中心の女優さんで、その後、音声つきの映画で色々あった人だと思ったのよ(-_-;)」

「確かに、それは間違いないでしょう。デートリッヒは、1921年映画学校に入学し、サイレント映画でデビューします。

代表作の『モロッコ』は、日本初の字幕映画として、音声つきの映画の幕開けを告げますから。」

「うーん( ̄〜 ̄;)

そうなんだよね…なんかさ、この時代、映画から、声が出るだけでビックリしたわけよ。

日本じゃ、弁士って、画像を解説する人がいて、その人の説明で動画を見ていたんだもの。

でも、技術が発達して、弁士は要らなくなるわ。


ここで、多くの日本人が初めて、海外の女優さんの声を聞くことになるのね。

例えるなら、コミックがアニメ化されるようなもんで、長く愛されたヒロインの声優さんが合わなくて悲しくなったりするじゃない?

トーキーへ変わる映画でも、そんな悲劇があったらしいわ。」

「イメージと、声が合わずに脱落する人が出てきた…と、言うことですか?」

「と、言うか、脱落する前に、吹き替えをしたらしいのよ。

日本じゃ、日本の声優が吹き替えるのに違和感無いけど、アメリカ人が英語の吹き替えをするのは、イメージが悪くなるから、声優の存在は消されてしまったらしいの。

誰が声を担当しようと、デートリッヒは、デートリッヒなのよ。」

作者は混乱するのか、頭を何度か傾げながら話をする。


この、サイレントからトーキーに変更されるまでの混乱について、コミカルに描いた映画がありました。

『雨に歌えば』です。


この映画の影響で、トーキーに変わる時期の女優と、声の担当として闇に消える女優の悲劇やらサスペンスのテンプレが、昭和に出回った事があるのです。


「そうでしたね。声を奪われて、女優生命を失った少女の復讐話なんて、貴女は好きでしたね?」

私は、少女時代の作者を思って笑う。

「笑い事じゃないわよっ。もうっ。あんまりテンプレ見すぎて、本当の話がなんだったのか、分からなくなってきたんだからっ。

もうっ。なろうのテンプレ批判、少しは納得したわ。

デートリッヒに似た女優、カサブランカから引っ張り出した舞台、雨に歌えばからのエピソード。

混ぜこぜの物語を長いスパンで色々見ていて、もとの話がわかんないんだからっ。嫌になっちゃうわ(-_-#)」

作者は膨れっ面で私を見て呟くようにこう続けた。


「『お酒を頂戴。ジンジャーエールもね。』って台詞、有名なものだって思っていたのよっ。デートリッヒのっ!!

でも、検索しても出てこないのっ。

引用文として、元がわからないのよっ(>_<。)


もうっ、いやんなっちゃうわ。知らないわよ。もう、これ、使っちゃうわよ。」

作者がやさくれ始めた頃、ミズキが飲み物を持ってきました。


「お酒と、ジンジャーエールです。」

ミズキがそう言って輝く笑顔でテーブルにおいたのは、

アメリカの有名なジンジャーエールとドイツの黒ビール。


それを見て、絶妙な取り合わせに私は、笑ってしまいました。


「おつぎしますよ。アメリカのジンジャーエールとドイツの黒ビール。

掛け合わせて作るカクテルは、シャンデー・ガフ。

英国生まれのカクテルです。


確かに、全てを飲み込んで永久に愛される…デートリッヒにふさわしい飲み物ですね。」

私が笑ってカクテルを作るあいだ、作者は悔しそうにミズキを見つめる。

「もうっ、大喜利じゃ無いんだから、オチはいらないのよっ。」

作者はそう言いながら笑った。


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