表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
279/499

時影、近代魔術を語る 156  ジャンニ・スキッキ

小さな物語が、穏やかなプルタバ川と共に流れて行く。


1920年代までの、わずかな…輝かしい時代を象徴するような彼女の笑顔が、場違いなボックスシートで輝いていた。

周りは年配の着飾った紳士淑女。

中産階級の彼女の自慢のドレスは、きらびやかなお金持ちの衣装の中で色褪せて見えた。

が、そんなものは、明かりが消え、舞台が始まってしまえばどうでも良くなった。

最近、勢いのついてきたソプラノ歌手フローレンス・イーストン。彼女の扮するラウリエッタが恋を歌います。


それは、ニューヨークとは全く違う、晴れやかで明るい地中海の空気にホール全体を変えて行くようでした。

彼女はすぐにオペラに夢中になり、デビーはそんな幸せそうな彼女の横顔の事で胸がいっぱいになるのです。

ほんの少し…1cm も無い距離にある彼女の小指の暖かさを感じた気持ちがしました。


手を握ったら……怒られるだろうか?


おおよそ一年ぶりの再開だと言うことをデビーはその微かな温もりに感じるのです。


彼がプロポーズの事で頭を悩ませる頃、

ジャンニ・スキッキは、娘の幸せのために一計を案じます。


ジャンニは、欲深な親族と結託し、死んでしまった大富豪ブオーゾに扮して、遺言書を書き換えてしまいます。


これで二人はめでたしめでたし…

詐欺を働いたジャンニは、地獄へと突き落とされるのでした。




「随分とあっさりと解説をおわらせましたね?」

私は、コーヒーのおかわりを作者に私ながら行った。

この物語は、ダンテの『神曲』の二次小説です。

と、言うことで、時代的にテンプル騎士団などとかぶり、いろんな事をぶつぶつと言いながら作者は考えていました。が、余りにもあっさりとまとめたので驚いたのです。

「うん…色々考えると疲れちゃうんだもん。」

作者はコーヒーをすすりながら、晴れやかな空を見つめた。

「二人は、プロポーズは、どうなったのですか?」

私は、穏やかな水の流れる音を聞きながらゆったりとした気持ちで聞いた。

「それ…聞きたい?」

作者は、不機嫌に上目使いで私を見た。

「はい。」

一応、変じはしたものの、嫌な予感がしました。

作者は、私を疑うようにちらりと見て、それから、話始めた。


「本当はね、リンカーン像とかでプロポーズさせようと考えたの。

でも、リンカーン像って1922年に出来たらしいわ。

来年が100周年なのね、結構新しくてビックリよ( ; ゜Д゜)

ついでに、現在のメトロポリタン歌劇場やリンカーンセンターを整備したのは1950年代…ロックフェラーさんが携わったみたいよ。

この時代、ニューヨークのオベリスクは、セントラルパークに既に建ってはいたみたいだけれど…キリスト教徒が愛を誓う場所では無いものね。

きっと、家の近くの公園の宿り木の前で、デビーに頑張ってもらうわ。」

「宿り木はクリスマスの誕生花らしいですからね。

花言葉は『キスしてください』ですか…。」

私は、昭和風味のロマンスになんだか、くすぐったい気持ちになりました。

「笑わないでよぅ」

「笑ってません。」

「心で笑ってるの、丸分かりだからっ(*''*)

もうっ、いいわよ〜昭和生まれなんだから、そして、1918年のお話だから、これでいいんだもん。


とにかく、デビーはおろおろしながら、頑張ったのよ。」

「宿り木の下で、女性はキスを断れないそうですからね。デビー、確信犯ですね。」

「『永遠の愛で結ばれる』のっ。」

と、ここで作者は悲しそうに笑いながら言葉を止めた。

私は、この先の二人を思って先を聞けませんでした。既にお気づきの読者もいらっしゃるでしょうが、この後、1929年の世界恐慌、そして、1941年の第二次世界大戦があります。


間接的な参戦だった第一次世界大戦と違い、太平洋戦争は、アメリカと日本との戦いになります。

若いデビーは、この過酷な時代をアメリカと言う国と歩んで行くことになるのです。


「そうよ、二人は結ばれて…皆に祝福されたわ。

色々あったけれど…子宝に恵まれて幸せに、ね。

細かい色々は、ジャンニ・スキッキと一緒に、私達が冥土までもって行きましょう。」

作者は不自然に明るくそう言ってコーヒーを飲み干した。


この時、フローレンス・イーストンは、プッチーニやワーグナーなどの歌劇と共に華やかに活躍していました。

反して、敗戦国となったドイツ、ベルリンで、一人の女性が薄汚れた酒場で歌っていました。


幼い頃に父親を亡くし、

大戦で継父は戦死。


それでも、バイオリニストの夢を持って、独学でフランス語を習得した頑張り屋の美人です。

が、その夢も…すぐに失うことになります。


絶望した国と男たちに歌を聴かせるこの女性は、音の無い世界で、フローレンスの代わりに…新たなニューヨークの女神として君臨することになるのです。


マレーナ・デートリッヒ。

『ベルリンソナタ』で歌われた、美しい女優です。


デートリッヒの最後の記述はダウト!にした方がいいかもしれませんね。

だって、アメリカでトーキー映画『モロッコ』で人気が出るのだから。

日本で初上映のトーキー映画とか、出てきた気もしますしね。

まあ、間違いとも言えないので、後書きダウトにしておきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ