時影、近代魔術を語る 151 ベルリンソナタ
船に揺られて我々はムニェルニークへと向かいます。
そこはプルタバ川とエルベ川の合流地点。
そこから、エルベ川を下り、ベルリンへと向かうのです。
ミズキはギターを抱いて山口百恵さんの『謝肉祭』を歌っています。
「いいでしょ〜(T^T)久しぶりなんだもん、クラッシックなんて出てこないわ。」
作者は恨めしそうに私を睨んでいますが、私は何も言ってません。
私は、そんな作者にミルクティを差し出した。
「良いですよ。私は、貴女の側にいられるなら、なんでも。」
と、優しく微笑んでみたのですが、逆効果だったようです。ミルクティのカップを両手でつつんで、その温もりに癒されながらぼやき始める。
「えー、えー、ごめんなさいね、随分と放ってしまって…(T-T)
でも、フリマ倶楽部ふりまじんとして、なんか、活動しなきゃいけなかったんだもの。」
「それだけですかね?随分と楽しそうにシャドーボクシングなんてしていたようですが?」
私は、すこし皮肉をこめて作者に言った。
「ふふふっ…まあ、なかなか面白い話を拾ってきたわよ(* ̄ー ̄)
それについては、またの機会よ。」
と、笑い、作者は急に思い出したように驚いた顔をしてテーブルに伏す。
「ミズキぃ…お願い、『ピーターラビットとわたし』を歌って…。」
作者の絶叫がブルタバ川を流れて行きます。
ミズキは穏やかに微笑んで、朝に相応しい爽やかなメロディを世界に放つ。
『ピーターラビットとわたし』は、1982年、大貫妙子さんのアルバム『クリシェ』の収録曲です。
その名の通り、1902年ビアトリクス・ポーターの絵本の主人公として登場する、ピーターラビットと呼ばれる子ウサギをイメージして作られた可愛らしい一曲です。
「おかしいわ…おかしいわよぅ(T-T)
わたしはね、このなろうに、フリマの仲間とポーターのような、可愛らしくて、夢のあるお話を作りに来たのよ……
なのに…気がついたら、わたしの周りには、モレーだの、ジャンだの、ゲッペルスだの…むっさいのばっかり集まって…、きがつきゃ、森鴎外まで諜報員よ°・(ノД`)・°・
時影…私、確かに、はじめは『舞姫』でお話を始めていたわよね?」
作者は額をテーブルに擦り付けてゴロゴロ始めました。
私は、なんだかたまらなくなって笑ってしまいました。
全く…本当にこの人は…。
「あははって…そんなに笑うこと無いじゃない(T-T)
笑い事じゃない話よっ、もう。
真面目な話、これ、いつか、ファンシーな世界に戻るんかなぁ」
作者は諦めたように上半身を起こすと、額をこする。
「どうでしょうね?まあ、やるだけやらないと。
少なくとも『魔法の呪文』は、まだまだ、少女小説風味で止まっていますし、これはなんとかしませんとね?
さあ、ミルクティ、こぼす前に飲んでくださいよ。」
私は笑った。が、作者は不満そうな顔のまま、ミルクティを口にした。
「そうね、なんとかしなきゃね。話を完結させないと。未完ばかりが増えちゃうもん。
私、ちょっと、ボクシングについて調べていてさ、ホームズもボクシングが強かったらしいけど、1865年にルール改訂されるの、『クインズベリールール』って言うらしいけど、その辺りから近代ボクシングの形になってゆくらしいのよ。
ホームズの活躍した丁度その時代でね、私、また、殺伐としたキャラを増やすところだったわ(T-T)
少し、落ち着かなきゃね。」
作者はそういってミズキの歌を聞き入った。
「でも、ポーターがピーターラビットを想像し出すのも、19世紀の事ですよ。
『赤毛のアン』もまた、そうです。世界観は近しいはずですから、いつか……そう、いつか、よくなりますよ。」
私は笑いこらえて真顔で言った。
それは、作者が真面目に少女小説を目指しているのを知っているからおこる笑いだった。
「よくなるって…病気じゃあるまいし。」
作者は恨めしそうに私をみて、深くため息をついた。