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茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
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時影、近代魔術を語る 147 森鴎外

デザートは、イチゴのチーズケーキ。

作者はその濃厚な一口を最大限味わうように目を閉じた。

それから、夢から覚めるように目を開けて、ため息を一つついてから話始めた。


「そうね…、本当に、面倒くさいよね。

学校なんて、遥か昔に卒業したのにさ、この歳になって、森鴎外を調べてなにしようってのか…。

まあ、仕方ないわ。

まあ、仕方ないけどね、普通、森鴎外の話って言えば、独逸(ドイツ)留学と異人との恋よ。

何が悲しくて、ウイルスを語るんだか(T-T)」

作者はそう言って、コーヒーを飲む。

「多分、『パラサイト』の影響でしょうね。

まあ、普通、疫学と森鴎外を関連付けたりしませんから、この辺りは横に話を広げる貴女の長所、とも、言えますかね。」

私も、イチゴのケーキを一口食べる。

日本のイチゴより大きくて、少し、酸味が強い気がしますが、これはこれで濃厚なチーズクリームとよくあいます。

「そうね、ついでに、切り裂きジャックやら、何やらも合わせたりはしないわね(T-T)

しかし、さぁ、適当にさらったんだけど、まさか、ヴィルヘルム1世が病気になって崩御する時と、鴎外の留学時期が重なるなんて、ちょっと出来すぎよね。

私だって、ベルバラで遊んでなきゃ、そんな事、思いもつかなかったのだろうけど、本当に、歴史は一寸先は闇ね。」

作者はため息をついた。


穏やかな春の朝、遠くから小鳥のさえずりが聞こえてきます。

ついでに、ピアノの旋律も。

音楽を愛するプラハの朝が和やかにながれ、私は静かに目を閉じる。


「はぁ……。そう言えば、フリードリヒ3世の暗殺疑惑なんて話したじゃない?」

作者は渋い顔でノートを取り出した。

「そうでしたね、1888年3月にヴィルヘイム1世が崩御され、あとを継ぐ予定のフリードリヒ3世は喉頭癌に犯され、確か、ドイツとイギリスの医師が仲たがいし、治療が上手く進まなかったとか、言われていましたね。」

「うん。もし、フリードリヒ3世がもう少し長生きしていたら、ドイツの歴史も違っていたかもしれないわ。」

作者はノートに落書きをしながらぼやく。

「確か、宰相ビスマルクは、植民地政策には消極的だったようですからね。

ビスマルクをおろして、植民地を増やそうとしたヴィルヘイム2世の治世がもう少し遅かったとしたら、日本の歴史も変わったかも知れませんね。」

私は、作者と第一次世界大戦を調べた事を思い出す。

第一次世界大戦では、連合国側についた日本は、太平洋地域のドイツ領を治めることになる。


「まあ、歴史に『もしも』は無いんだけどさ。

まあ、その前に、日露戦争があるわけでね。

軍医の森さんは、何を学びに向かったのか?

1887年から、喉頭癌にかかったフリードリヒ3世。ドイツの皇室は、この辺りから揉めていたでしょうね?

船旅を楽しみながら、ドイツに着くまでは、森鴎外も、ただ、コレラと疫病について考えていただけかもしれないわね。」

作者は自分のほっぺを右人差し指で遊びながら、面倒くさそうに眉を寄せた。


「つまり、偶然、現地について、ドイツの状況から仕事が変わった…と、考えているのでしょうか?」

私は少し興味深く作者を見た。

「うん…まあ、ね。このネット時代ですら、分からなかった事が多いんだもの。19世紀なら尚更でしょ?

ここで、凄いのはドイツ皇帝も、ロシア皇帝も、ビクトリア女王の親族って事よね(-_-;)

第一次世界大戦って、ある意味、ヨーロッパの一族のバトルロワイヤルって所もあるんじゃないかしら?

私も、最近そんな事を知ったんだけど、森さんだって、現地で色々聞くうちに、新たな発見もあったんじゃないかしらね…。」

「つまり…森林太郎さんも、ヨーロッパのお家騒動を予見していた…と、考えているのですね?」

私は、複雑になる『ベルリンソナタ』の設定に不安を感じ始める。


どうして、この人は面倒な設定に自ら首を突っ込むのでしょうか?


「う、う〜ん(-"-;)分からないわ。

でも、何かが起こる予感がヨーロッパに漂っていた気がするわ。

で、それについて、森鴎外も調べていたんじゃないかしら?

ドイツで軍医としての講習とかにも参加していたし、そこで、ナポレオンのロシア出兵の話なんかも聞いたかもしれないわね。リケッチアの話とか。」


リケッチア…

ノミ、ダニ等から人間に感染する。

ウイルスより大きく、宿主が居なければ増殖することは出来ない。


1812年、ナポレオンのロシア遠征でも発疹チフスと呼ばれるリケッチアが流行し、ロシア遠征の失敗の一つとしてあげられる。


「そうですね。発疹チフスは別名戦争熱なんて呼ばれているようですから、軍の衛生管理と言う面でも学んでおく知識だったでしょうね。」

「うん…他にも色んなエピソードを聞いたかもしれないわね。当時を知る人もいたろうし。

そんな勉強をしながら、森鴎外は、芝居を鑑賞したり、芸術家と交流もあったみたいだから、その辺りで、様々な噂を聞いたのかもしれないわ。

森鴎外…なかなかミステリアスな人ね。上手くまとまるか心配になってきたわ。」

作者は口を結んで少し不機嫌そうな顔をする。


「まあ、これはまだ先の話ですから、ゆっくり行きましょう。」

なにも答えが見つからずに、私は月並みな台詞で作者を慰めた。


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