時影、近代魔術を語る 144 ベルリンソナタ
プラハのホテルの一室で、佐藤隆さんの『カルメン』をバイオリンで弾いていました。
この曲は1985年リリースの楽曲のようですが、ネットではあまり情報が集められませんでした。
印象深く記憶に残る曲だったわりには、CMなどに使われていたわけでもないようです。
80年代は、歌謡曲の番組が充実していて、
夜のヒットスタジオ
ザ☆ベストテン
トップテン
など、音楽の高視聴率番組があり、
若者を中心としたラジオ時代でもありました。
ですから、CMなどに使われなくても、耳に残る名曲があった時代でもあります。
静かな部屋にバイオリンの音が響き、作者はノートを眺めながら呻いていました。
私は物語がうまく流れるようにと願いながら曲を弾きます。
「素敵な演奏だったわ。ありがとう。」
作者は私にそう言って暖かい紅茶を入れてくれました。
「ありがとうございます。」
私はバイオリンをしまって椅子に座りました。
夕闇が音もなく部屋を染めて行きます。
と、同時に、テーブルに置かれた小さなキャンドルが自己主張をするように、我々に暖かい光で話しかけてきます。
ニルギリの香ばしい香りが、春の思い出を連れて私にまとわりついてきます。
穏やかで、満たされたひととき…
それを作者のしかめ面が破りました。
「ふふっ……もう、泣けるわよね…この年で、また…また夏休みの最終日の気持ちを味わうことになるなんてさ。」
作者は深くため息をつきました。
それから、立派なチョコレートの箱を開けて、そこで眠っていたホムンクルスの少女に声をかける。
「出番だよ。さあ、お前のバイオリンで楽しませておくれ。」
作者の言葉に、少女は頷いてバイオリンを片手にキャンドルの下へと歩いて行く。
「まるで魔法使いのお婆さんのようですね。」
私は、蝋燭の暖かい光を浴びる作者に童話に登場する悪い魔法使いを連想した。
お婆さんといわれて、抗議をするように目を見開いて私を見ると、それから、作者は少し意地悪な流し目をしてこう言った。
「ふふっ…そうよ。きょうの私は性格の悪い魔法使いのバーさんなんですから、あまり、からかうとひどい目に会うよ。」
作者は子供を脅すような面白い声で私に言うと、ホムンクルスの少女に演奏するように言った。
曲はドボルザークの『スラブ舞曲』
もとはピアノ曲として、1875年に作曲された。
題名を知らない人も、曲を耳にすると、どこか懐かしいような、何処かで聞いたことのあるような、郷愁を誘う曲だ。
「カルメンの話を始めるなら、本当はブラームスの『ハンガリー舞曲』の方が言いとは思ったのよ。
『ハンガリー舞曲』は、ブラームスがジプシー音楽に影響を受けて作ったみたいだから。
でも、ブラームスの方が今の気分に合うし、1873年にプラハで演奏されているようだから、こっちにしたわ。」
作者はそう言って軽く苦笑した。
トラウゴットの事でも思い出したのでしょうか?
『魔法の呪文』の鐘の章でフランクの友人として設定したキャラクターのトラウゴット。
彼は、オーストリアでは人気の名前でも、日本の小説ではあまり登場しない上に、有名な小説のキャラクターと名前が被ったのが後でわかり、ビビリの作者は投稿したにも関わらず、キャラクターの名前を変更したり混乱したのでした。
「ブラームス。懐かしいですね。前にトラウゴットの混乱のときに聞いていましたね。」
「うん(;_;)私も、パクリとか言われたらどうしようとか慌てたよ…
でも、私クラスの作家にいちいち批判なんて来ないのね。
なんか、エッセイとかで色々言われていて、当時はただ、怖かったけど、あのまま書いていても、何もおこらなかったでしょうね。
ふふっ。馬鹿みたいだわ。
まあ、おかげで、ジプシーとバイオリンについても知ることが出来たわ。
ジプシー…差別用語として、最近では使うのがはばかれるらしいんだけど、
昔は、すくなくとも日本ではジプシーは、ボヘミアンブームと共にミステリアスで素敵な認識だったわ。
それに、ジプシーは、ジプシーの誇りがあって、ロマとは違うとか、自称ジプシーの日本人の占い師の人の本でかかれていたのよ。
70年代なんか、人気があったみたいなのよ。
ピンクレディーも『カルメン77』とか歌っていたし。それもあって、ジプシーとカルメンとピンクレディーが混在する昭和のイメージは、美しくて情熱的で神秘的なのよ。
こんな事をしてなきゃ、ジプシー音楽と言えば、ギターとか思っていただろうけど、東欧ではバイオリンがメインなのね。
森繁久彌さんが主演していた『屋根の上のバイオリン弾き』も、そんな流しのバイオリン弾きのお話らしいし…
ジプシーバイオリニストと自称され、動画をアップされている方も見かけたから、私は、ジプシーで書いて行くわね。
これは、近代魔術を語る枠だし、レビィーの昭和の著書では、ジプシーで彼らを語っているし、
元の語源が、エジプトから来た貴族の末裔…エジプシーから来たらしいから、ロマと書くとこんがらかるのよ(-"-;)
昔はねっ、すくなくとも、日本で記事を書いていた人は、ジプシーを誇り高き人達として紹介していてね、主にオカルト分野で。
ロマとは違うのを誇りにしていた…感じだったのよ…、
それに、ロマとジプシーを分けて表現されていたのには、それなりの意味があると思うのよ…説明は出来ないけど、
だから、昔、分けて語られた関係のないロマの人や文化に、ジプシーの話をロマとして書くのに抵抗と不安もあるのよ。
だから、ジプシーで書いて行くわ。」
作者は渋い顔をする。
閲覧が少ないとはいえ、見ている方がいるのだから、色々と説明が長くなるのは仕方ありません。