時影、近代魔術を語る 143 ベルリンソナタ
『情熱』それは、ベートーベンの三大ソナタの一つとして語られる名曲だ。
この曲は、晩年、耳に障害がおきたり、色々大変だったベートーベンが、それでも作り上げた、テンポの早いピアノ曲で、楽譜にアップダウンと踊る、おたまじゃくしを見るだけでも、激しい曲だとわかる。
が、例によって、曲の題名をつけたのは、ベートーベンではない。
ちなみに、三大ソナタの一つ『月光』も、後の人物が名付けた、ベートーベンのあずかり知らない名前なのだそうだ。
『情熱』と呼ばれるこの曲は、ハンガリーで作曲されたと私は聞きましたが、ベートーベンが何を思いこの曲に何を見たのかは、永遠の謎なのかもしれません。
「時影…慰めてくれるのは分かるけど……、ベートーベンなんか引き合いに出されてもさぁ(>_<。)
そりゃあ、あちらさんは、私なんかより大変な人生を乗り越えながら、なお、名曲を産み出したんだろうけど……、
私は、突貫工事の作品をネット大賞に投稿するので精一杯なんだよ(T-T)
多分、『パラサイト』を締め切りギリギリにこっそり投稿して、なんとか気持ちを盛り上げるのが精一杯。本当、ちっぽけな存在なのよ、私なんて。」
作者は困り顔で私を見る。
「そんなつもりで弾いた分けでは…」
私は泣きそうな作者を見て、なんだか居たたまれなくなる。
我々は『ベルリンソナタ』という二次作を投稿しようと考えている。
それは、これから動かす『ノストラダムスを知ってるかい?』を作るにあたっての習作でもあり、世界観を安定させるために必要な行為だ。
ベートーベンの三大ソナタは、佐藤隆さんの『ベルリンソナタ』を検索する度にヒットするので、ソナタのイメージを広げるために弾いた。
「分かるわよ、なんての…『ソナタ』って奴を聴かせてくれようとしたのよね?
本当、昭和の少女漫画とか、推理小説だと、音楽用語が使われたもんね。
エチュード、バラード、スキャット、フーガ、セレナーデ、ノクターン……
言葉は次から次へと飛びだしてくるけど、意味、分からんもんね、エチュードとか。」
作者は少し楽しそうな苦笑をする。
その瞳を見て私の顔も少し緩む。
「ノクターンは、ショパンで調べてご存じでしょ?」
私は作者と訪れた空想のウィーンの日々を思い出す。
ノクターンは、夜想曲とも呼ばれ、舞踏会の終わりを告げる曲です。
'平たくいうと、デパートの『蛍の光』見たいな位置付けの曲の事なのね…'
難しい顔でそんな事をぼやいた作者を思い出してなんだか笑ってしまう。
「あら、『フーガ』も分かるわよ、『カエルの歌』みたいな奴でしょ?同じフレーズが追いかけてくる…
『ソナタ』は、奏鳴曲だっけ?
歌を重ねるカンタータの対義語で、楽器の音に、楽器の音を合わせる…(-"-;)
説明は何となく出来るけど、よくわからないわよね。
ベートーベンのソナタだって、聴いたらもっと混乱すしたもんね、
この音がポンポンせわしなくはぜるような『情熱』と、
月明かりを乳化させて、水晶のグラスに流し込んだような『月光』
この二つが同じ分類なんだもんね。
素人にはよくわから無いわよ(-"-;)
佐藤隆さんは……『ベルリンソナタ』にどんなソナタを描いたのかしらね?
この辺りを考えておかないと曲が映えないし、
物語もボヤけてしまうわ。
まあ…、今日のところはソナタの話はいいわ。
折角だから、佐藤隆さんの『カルメン』弾き語ってよ。」
作者はわらう。
私は黙ってそれに従ってバイオリンを持つ。
美しい踊り子に恋をした、切ない男の恋心を音に変え、作者に届けるために。




