時影、近代魔術を語る 128
「さて、パガニー二について話しましょうか。」
おかわりのコーヒーで手を暖めながら作者が言いました。
「そうですね。この物語には、パガニーニの人生年表が必要になりますからね。」
私はスマホを取り出してパガニーニの経歴を開いた。
ニコロ・パガニーニ。
1782年10月生まれ、蠍座。
ニコロとは、パン屋や旅行者の守護聖人が由来らしい。
ニコライとか、ニコラス等の名前と同意のようで、ギリシア語で『民衆の勝者』の意味があるらしい。
彼が7歳になる頃に、フランス革命が勃発し、歴史が大きく動き出すと考えると、
親はそこまで考えて名付けた訳でなくとも、なかなか面白い。
が、音楽好きなら、ストラディバリウスを連想するかもしれない。
16世紀、名を馳せたヴァイオリンの制作者で、ストラディバリウスの師匠の名前もまた、ニコロ。
ニコロ・アマティと言うからだ。
しかし、確かに、どちらの意味も含めて、パガニーニの名前は運命的なのかもしれない。
世紀の名器として、未だにその音の美しさを語られるストラディバリウスは、宮廷などで限られた人達のために音楽を奏でるために製作された。
その為に、ストラディバリウスは、音楽の自由を手にした民衆が集う、大きなホールでは力不足になってくる。
その不満を解消するように登場し始める、少し大きめのヴァイオリン、グァルネリは、パガニーニの名と共に『カノン砲』と二つ名を貰い名器として名を馳せる。
時代は、文芸の女神、ミューズ貴族から民衆に微笑ませた。
パガニーニは、そんな時代に神業のような…新しい時代の旋律を世に広めて行くのだ。
神業……いや、彼と時代を共にした大半の人物は、その曲に悪魔を見いだしたようだが。
何にしろ、彼の曲とパフォーマンスは、後の芸術家に影響を与えたのは間違いない。
そんな彼の転機は1820年代。
病魔に襲われて、1840年にニースにて死亡する。
しかし、悪魔の噂は消えることはなく、
安息の地を探して、パガニーニの遺体はさ迷い続けることになる。
1876年、パルマの共同墓地が彼の遺体を引き受けてくれるまでは。
「本当、はじめは簡単な1万字程度の話を作る予定だったわ(-_-;)
1877年からヴィナーオーパンバルが始まるって知ってたから、気軽に乗っちゃったのよね(;_;)
パルマに遺体が安置されるその一年後のゴタゴタにまつわるそんな物語にする予定だった…(;_;)
思えば、あの時が一番楽しかったわね(T-T)10万の初の公募と、それを仲間達と12月に共有する夢が見られて…。
初めの公募は落選を想定して、ネット大賞で一次選考まで残る予定でさ。
夢が膨らんでいたわ…。
あの頃、何も知らなかった…
コロナも…
普仏戦争も…
ただ、少女のように恋物語を考えれば良いって…そう思っていられたんだわ。」
作者は、最後の辺りを芝居がかりながらぼやく。
「まあ…確かに、大変でしたけど、これで、こちらも読んでくださるかたもいらっしゃるのですから、
全くの無駄って訳でもないと思いますよ。」
私は、この一年を思いながら、懐かしいものでも眺めるように作者を見た。