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茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
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時影、近代魔術を語る 124 アマデウスの迷宮

晴れやかな冬の青空の下、私と作者は目的もなく歩いていました。


ブルタバ川に近接した、レトナ公園です。

少し高台に行けば、美しいブルタバ川と絵はがきのような可愛らしいプラハの街並みが一望できます。


近年のプラハは、寒いとはいえ、日中は氷点下まで下がることはないそうです。

私たちは、厚手のコートに身を包み、人気のない散歩道を歩いていました。


「なんか、昨日は長くなって参ったわ……。」

作者は頬を寒さで赤く染めながら私を見た。


前回、軽く一話で終わらせる予定のモーツァルトの話は、書いているうちに面倒な事になっているのです。


1791年12月に、突然死したモーツァルト。


その死因については、いまだに決め手がないまま、急性 粟粒疹熱(ぞくりゅうしんねつ)と言われています。


「まあ…急性 粟粒疹熱(ぞくりゅうしんねつ)なんて、知らなかったですから。」

私はこの病気の症状を調べて混乱した作者を思って笑った。

「そうよね…もうさ、21世紀をがっつり感じたわ。

80年代を調べて拾ったネタなんだよ。モーツァルトミステリー。

基本、モーツァルトがフリーメンソンって話を軽く書いて終わる予定だったけど、

21世紀に入り、検索で何でも調べられるネットがあるから、

普通は調べない、急性 粟粒疹熱(ぞくりゅうしんねつ)なんて、チロリと調べられるもん。


で、漫画の設定みたいな、1551年…モーツァルトの時代から考えても、200年近く前に消えたような、怪しい病気を死因にするなんて、さ、気になりすぎるわ。」

作者は歩速を早めて、不満を体力で消費するように歩く。


「そうですね、でも、この話、そこを触っていると、いつまでも『魔法の呪文』に戻れませんから。」

「わかってるわよっ。うっっ…でもっ、これ、1551年…諸世紀の出版4年前に撲滅した病気で、

ゲオルグを始めようって、やっと設定枠を作ったところだから、気にならないわけないわ(T-T)


この一年、『パラサイト』の為に、ウイルスの本とか読んでたんだから、そっちから考えても、興味がぁ…

でも、やめるべきね。


モーツァルト、初めての推理ジャンルでつまる私には、色々と気になるところよ。」

作者はプラハの青空を見つめながらいった。

「そうですね。急性 粟粒疹熱(ぞくりゅうしんねつ)は、死因ではないと、現在では言われていますからね。

我々は、別の説を、フリーメンソンと『魔笛(まてき)』で語られる真相を話す予定でしたから。」

私は作者の気を引くように少し強めに『フリーメンソン』のワードを発した。


「ええ、そうね。今は、モーツァルト、そして、フリーメンソンについて話をしましょう。


私、この節を聞いたとき、フリーメンソンに殺されたのは、ゲーテで、モーツァルトは間違っているんじゃないかと思ったわ。


でも、ゲーテもフリーメンソンの会員で、それは別の話なのね(ーー;)


フリーメンソン、19世紀はなんか、アサシンキャラにされていたのね……。


まあ、80年代も、フリーメンソン陰謀説は面白かったけど、


まさか、21世紀に入って、中国の勢いに負けるなんて、思わなかったわ。」

作者は『春先小紅』の曲を口ずさむ。

「80年代は、日中友好のなか、日本でもチャイナブームでしたからね。

人民服の素朴な中国人なんて、現代の中国の子供たちからしたら、我々の侍のように、ファンタジックな存在でしょうね。」

私は、作者と調べた80年代の日中ブームを思い出す。

「まあ、ともかく、モーツァルトの死因についてだわ。」

「一説によると、水銀による中毒死のようですが。」

私はあるミステリー作家の説を口にした。


その人によると、モーツァルトは、『魔笛』という作品に、フリーメンソンの秘密を表現し、それを一般に知らしめた為に、殺されたと言うのです。


「中世の錬金術では、水銀を表す数字は8。

そして、色は灰色。

モーツァルトは、『灰色の服の男』と表現することで、水銀や錬金術について暗示していたかもしれない……っていうのかしら?


でも、自分の口から話してみると、どうもしっくり来ないし、嘘臭く感じるわ(ーー;)


SFミステリーの主人公って、ここを、押し売りするような勢いで畳み掛けないとダメなのよね。


私、なんか、やってはいけないジャンルに足を踏み入れてる気持ちになってきたわ(T-T)」

作者は照れたように苦笑する。

「でも、『魔笛』で検索すると、ワラワラとヒットしますからね。

フリーメンソンとモーツァルト。


皆さん、色んな角度でこの作品について発表されていて、調べるだけで面白いですよね。」

私は、当時、勢いをまして行くフリーメンソンの歴史を知って楽しくなります。

「確かに、みんな、凄いと思うけど、説がバラエティーがありすぎて、私には、どう結末をつけるべきか、混乱を始めるわ。

でも、プロセイン王フリードリヒ2世がフリーメイソンとか、なかなか興味深い情報も手にいれたわ。


まあ、それはともかく、プラハは錬金術の香りの漂う街で、

モーツァルトの時代から、錬金術やら、オカルトの世界が広がっているのはわかった気がするわ。」

作者はそう言って、高台の上につくと、ブルタバ川に向かって大きく手を広げた。


「で、モーツァルトの死因について、誰が犯人だと思いますか?」

私は作者に聞いてみた。

「フリーメイソン、ではないと思うわ。

『魔笛』と言うオペラにフリーメイソンの要素が含まれていたとしても。


遺体が見つからないから、決定的な事は言えないけれど、

仮に、毒を盛られたと言うのが真実なら、

私は、妻のコンスタンツェを疑うわね。」

作者はそう言って、ニヤリと笑う。


「コンスタンツェ…彼女は良妻だと、悪い噂はネットでは見当たりませんでしたよ。」

「そうね、でも、二時間ドラマなら、一番疑われず、利益を得るものが犯人だわ。

モーツァルトは、借金で苦しんでいたし、

それは、コンスタンツェも同じよね?

そんな生活を改善する知恵を、素敵な男性から入れ知恵されたとしたら、どうかしら?」

作者は口角を歪めて私を見る。


確かに、コンスタンツェは、モーツァルトが亡くなってから新しい男性と出会い、7年後に同棲をしている。

ゲオルグ・ニコラウス・フォン・ニッセンである。

その後、モーツァルトの版権をつかい、莫大な借金を返済し、貯蓄することに成功していた。


「でも、7年は長いですよ。」

私は、少し呆れるようにそう言った。

「確かに、でも、それは表向きの話だわ。

ゲオルグは、モーツァルトのファンだったようで、後に本を書いたりしているし、


モーツァルトの遺体を、何より心配しなければいけなかったコンスタンツェが、埋葬場所が分からないなんて、怪しいんだもの。


金の前には、愛なんて、脆いものよ。


彼女が、一番、モーツァルトに毒を盛れる立場であり、

遺体を隠せる立場でもあるんだもの。


親族は、借金まみれの身内の葬式なんて、基本出席したくないだろうし、


毒を持ったとしたら、

遺体が消えてほしいと考えるでしょうしね。」

作者は眉を寄せて苦笑する。


「錬金術より、女性が怖い……ある意味、当たっているかもしれませんね。」

私も作者の隣で、輝くブルタバ川を見つめた。


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