時影、近代魔術を語る 117
「ごめん、ちょっと『魔法の呪文』のフランクについて話したいわ。」
作者は私に暖かいココアを入れて、隣に座るとそう言った。
「フランク…。確かに、彼が話を面倒にしたキャラですからね。」
私は貰ったココアを手に、脇役のフランクについて思い返した。
「そう。でも、彼が悪いとも言えないのよね(T-T)
私が、物語について慣れていなくて、初めの設定で、少女小説のタブーについて、考えが及ばなかったのがあるのよ。」
作者は遠い目で一年前を思い返していた。
「少女小説のタブー。
幼馴染みの恋人…ですよね。確かに、七転八倒していましたね。」
私は、その時の作者を思い出して笑った。
作者は私の笑い顔を不機嫌そうににらんで、
「笑い事じゃないわよっ。
大体、この話は、音無作のシュールな物語になるはずだったのよ。
トトは、魔法の呪文にとりつかれて、物欲に飲まれて潰れるはずだったんだもん。
メアリーだって、悪者の魔女…みたいな役だったのにさっ。
気がついたら、なんだか、ほのぼのエンドになるし…
私は、初めの年、ブックマークが剥がれない作品には、何か、アンコールを書こうと考えていたわ。
短編なんだから、読み終わったら、ブックマークを外していいと思っていたし、
その為の設定としてね、消してもいいって言いたかったのよ。
だから、一話目の『魔法の呪文』には、アンコール用の別のエンディングを用意していたの。」
作者は、少し懐かしそうに目を細めた。
「そのエンディングなら、私も知っていますよ。
数年後、トトが恋する乙女に変わる頃、
大好きなロマン作家から手紙がくるのですよね?」
「うん。トトは彼女にファンレターを送り、
作家はトトを屋敷に招待するの。」
作者は、そのエンディングを思い出して嬉しそうに目を細めた。
「招待されて訪れたスイスの屋敷で、トトが見た女流作家はメアリーなのでしたね。」
私も物語に軽く酔う。
この筋は、昭和によくあったパターン…テンプレと呼ばれるものでしょうか。
何度も使われた終わりかたではありますが、
最近のラノベでは、あまり見かけなくなったので、
昭和の少女漫画を愛する…少女戻りをしたかった作者には、懐かしさと共に刺激的な終わり方だったのです。
メアリーは、カールと結婚し、世界を旅して物語を書いて有名な作家になっていたのでした。
「そうね…(T-T)
確かに、そんな感じだったわね(T^T)
もう…使えないけどねっ。」
作者は悔しそうにぼやいた。
「カール……他の女性と婚約しましたからね。」
私は、物語を思い出してため息をつく。
「仕方ないでしょ…
あのエンディングは使えなかったんだもの。
フランク…彼を無視してこのエンディングで話を詳しく作るとなると、後味が悪くなるんだもの。」
作者は渋い顔をした。
「幼馴染みの恋人は特別…の法則ですね?
まあ、令和の少年少女には、あまり関係なさそうですが、我々は親に買ってもらう感じで考えていましたからね、
幼馴染みの恋人を丸無視するのは、あまり、よろしくないですからね。」
私の台詞に、作者は口を真一文字につぐんで奥歯を噛み締める。
「ええ。書いているときはフランクなんて名前だけしか無かったのよ。
書き終わってから、後読感とか、倫理について考えたのよ。
そう、夢見る少女の恋愛の世界で、子供の頃から主人公を純粋に愛し続けた少年を、名前だけで丸無視なんて、やっては行けないことなんだわっ。」
作者は、深くため息をつく。
それは、この一年の迷走の物語でもあるのだ。