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茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
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時影、近代魔術を語る 116

静かな夜です。

隣の部屋から陰鬱(いんうつ)でロマンティックなヴァイオリンの音色が聞こえてきます。


暖炉の薪がはぜる音を聞きながら、私たちはホットティーを飲んでいました。

ワインを少し混ぜたホットティーとお互いの体温で温まりながら、作者は気持ち良さそうに私に寄りかかり、嬉しそうに目を細めて言いました。


「本当に、やられたわね。ルドルフ二世…。」

作者はあくびをひとつして、冷たくなった鼻先を温まった右手で押さえて言葉を続けた。

「錬金術に、魔術にゴーレム!

少女時代の好物にプラハを知っていると勘違いしていたわ(T-T)


でも、今回、プラハを調べて私にプラハの基礎知識が全く無い事に気がついたんだ。」

作者は、そこで一度紅茶を口にする。

「まあ、ゴーレムが登場しても、プラハが舞台になる物語はあまりありませんでしたからね。」

私は、80年代のオカルトブームの時代の漫画を思い出す。

大概、天才魔術師やら、金髪美形の魔女が転校してきたり、

エコエコアザラクのような、道を極めた日本人が、ゴーレムやら、ブードゥ人形を日本(主に東京)で使って騒ぎになるパターンだった。

「そうよ…。ルドルフ二世って、なんか、不思議なものが好きな王様でね、

魔術の他にも、天文学とか数学とか、錬金術(後の化学の基礎になる)なんかの学者とかも擁護していたらしいのよ。

だから、数学の参考書のコラムにボーデの法則と一緒に登場していたわ(゜-゜)

第十番惑星とか……面白かったなぁ。

でもさ、

ノストラダムスも秘密結社のおじちゃんも、まさか、冥王星が準惑星なんかに格下げされるなんて、思いもよらなかったのよね(^-^)


それとも……


秘密結社のおじさま達は、がんばって工作したけど負けちゃったのかしらね…。」

作者はそう言って爆笑した。


第十番惑星。


それは20世紀末の一つの夢でした……。


勿論、惑星Xの存在が予言される現在、先の事などわからないのですが。


「話が随分それてしまってますよ。」

私はそう言って、作者のもとを離れて暖炉に薪をくべに行く。


「そうね…。」

と、作者は呟いて立ち上がった。

それから、隣から流れ来る陰鬱な甘さのあるヴァイオリンの音色に合わせて、ふざけたように軽く一回転して見せた。


「昔、モーツワルトは貧しくて薪が買えないから、婦人とダンスをして寒さをしのいだそうよ。


小学生の時に先生からその話を教わった時にはね、

モーツワルトは、清貧な青年のように語られたわ。

でも、今は、YouTuberが小学生の夢なんだもの。

お金を稼ぐこと、

素晴らしい作品を残すこと、

そして、それに浮かれずに、先行きを考えて貯蓄する心構えの反面教師にされちゃうのかしらね?


そう言えば…このプラハは、ミロシュ監督の『アマデウス』の撮影現場になった街でもあるのよね。


様々な観光ガイドのサイトの人達が口々に教えてくれるわ。


かつての大戦でウィーンの街は変わり果て、

モーツワルトの時代の街並みを残す場所が探せなかったのだと。


プラハはね、幾度かの侵略を受け、その度に様変わりを遂げて行くわ。

異教徒が街を統治したときも

ヨーゼフ一世が統治した時代もあるのよ。

だから、プラハのお城は、様々な時代の名残を残しているんですって。


ミュシャの美しいステンドグラスが見られる教会があったり……」

と、ここで作者は言葉をつまらせた。

「アールヌーヴォーの画家アルフォンス・ミュシャがどうしました?」

私は薪をくべ、暖炉の火力をあげると、沈黙した作者の方を見た。


作者は、皮肉げに笑ってその場に座りなおると、ブランケットに潜り込んだ。

「何をすねているんですか?」

私がそばに行って聞いてみると、作者は口を尖らせながら言った。


「本当にもう…人間なんて、自分の事すら、本当は知らないのかもしれないわね。

私、こんな事をしなければ、自分がプラハについての予備知識が全くなかったことに気がつかなかったわ。

フランスやイタリアなんかの西側諸国は、旅番組で見ていて予備知識があるんだけれど、

プラハとかは……私の子供時代は鉄のカーテンの向こうの話で、旅番組とかも無かったから、全く頭に存在してない街…もしくは、空想で脳内保管された街だったのよっ…。


はぁ……もう、嫌になるわね。」

作者は頭を抱えました。

「鉄のカーテンって…」

私は、東西冷戦時に使われた比喩を思い出して、笑うべきか、憂うべきか悩みながら作者を見つめていました。


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