時影、近代魔術を語る 115
陰鬱な北欧の秋。
私達はプラハの石作りの屋敷の一室で暖炉を並んで見つめながらコーヒーを飲んでいた。
広い部屋全体を暖める代わりに、私達は毛足の長い温かいショールに一緒にくるまっていた。
隣の部屋から、鋭く光ながら溶ける氷柱のようなバイオリンの旋律が耳をじゃれつく子猫のように引っ掻きながら通り抜けて行きます。
あれは…『死の舞踏』
サンサース。1872年の作品です。
「さあ、そろそろお話を作り始めなきゃね。
『死の舞踏』は、フランス人の詩人の奇妙な詩からインスピレーションを受けて作られたらしいわ。
夜中に動き回る死霊が朝の気配に消えて行く様をうたったそうよ。
私たちも、早く物語の世界に戻らなきゃね。」
作者は遠い目で呟いた。
「そうですね。」
私は曖昧に返答して、今年一年を振り替える。
我々は決してノンビリとしていたわけでもなければ、忘れていたわけでもない。
終わりを目指し、
今年のネット大賞にエントリーすべく頑張っていた。
が、何故か、どういうわけか、先に進めずにいるのだ。
「とにかく、プラハまで来たわ(T-T)
なんか、雪だるま式に面倒が増えて行くけど、それでもっ、ここに来たのよっ。
今回の混乱を呼び起こし、これから『魔法の呪文』で明かされる赤毛の錬金術師の話をまとめなくてはね(T-T)」
作者はそう言って、むせるように咳き込んで、赤ワインを多めにコーヒーに入れる。
それを半分くらい飲むと、頬を赤らめながらしばらくしてから話を続ける。
「全く、頭が痛くなるわ。赤毛の錬金術師…
プラハの錬金術師なんて登場させたから、あっちこっち大変になるしさ(T-T)」
「むしろ、力量を考えずにアンコールがどうとか、話を続けた方が問題だと思うのですがね。」
私は、左肩に作者の腕の暖かさを感じながら言う。
そうです。『魔法の呪文』は、それだけで短篇完結した童話だったのです。
「( 〃▽〃)い、いいでしょ………。だって、なろう一年生だったんだもん。
なんか、根拠のない自信があったんだもん(;O;)
恥ずかしいけど、きっと、みんな似たような事をして成長するんだわ…。うん。そうよ。だからいいんだもん(T^T)
とにかく、完結よ。
プラハ…でも、今回は仕方ないわよ。
錬金術と言えば、プラハなのは昭和の物語のお約束なんだから。」
作者はそう言って笑う。
「ボヘミア=ハンガリー王のルドルフ二世ですね。」
私は昔夢中になって作者が読んだ本を思い出していた。
ルドルフ二世は、不思議な人物で、魔術や錬金術など教会が禁じるような事柄に興味を持ち、そして、彼らを擁護したのだそうです。
この不思議な王の存在があって、昭和の物語にもゴーレムや錬金術とプラハが語られる事が多かったのです。