時影、近代魔術を語る 109
アースシェイカーの『Radio Majic』と共に、前回のちょい役、秀夫と哲也のその後の物語が走り出します。
ラウドネスに感化され、あれから一年。
二人は高校に進学し、バンドを結成することになるのです。
おこずかいをため、夏休みにバイトをし、
二人は、先輩のおふるのギターを格安で手に入れるのです。
そのギターを背中にしょって、二人は自転車で国道を走ります。
借り入れの終わった田んぼを横に見ながら、舗装された農道に曲がり、新しいメンバーの浩二の所へと急ぐのです。
浩二は農家の長男で、中学時代は柔道部に所属していた体の大きな少年です。
何となく、ボーッとしていて、ヘヴィメタルやら、ロックとは無縁の生活をしていた彼ですが、
バンドの要、ドラムをしないかと秀夫達に誘われたのでした。
バンドを組むと決めたとき、秀夫達を悩ませたのがドラムのメンバーでした。
何しろドラムは、大きいし、高い。
音もうるさいから、住宅地で練習なんて出来ません。
誰かの居ないかと探していたときに、一人でボーッとしていた浩二を見かけた哲也が閃いたのです。
彼を仲間にしよう。と。
走行していると、秀夫と哲也は浩二の家へとたどり着きました。
二人は、玄関先で浩二を呼びました。
待ちかねていた浩二は、すぐに出てきて、少し離れたところにある、今は使われていない納屋へと案内するのです。
「浩二、ドラム来たって本当か?」
秀夫はワクワクしながら浩二にききました。
浩二は、くたくたのTシャツとブルーの作業服にゴム草履で歩きながら、ちょっと誇らしさの混ざった照れ顔で
「おおっ。」
と、言う。
納屋の引き戸を開けるとそこには、確かに、ドラムがある。
「すっすげぇ…」
「ま、マジかよぅ。」
秀夫と哲也は立ち尽くして、ドラムの雄々しい姿を見つめていた。
「よく考えますよね?」
私は長くなりそうな小話が心配になる。
ここは歴史のエリアですから、いつまでもヘヴィメタルを話していては、良くない気がするのです。
「うん…長くなったね(T-T)
私ね、ただ、アースシェイカーの『Radio Majic』は好きだったのよ。
基本、ヘヴィメタルとか、得意じゃないんだけど。
で、ね、昔、誰かか、アースシェイカーとヘヴィメタルを語るのを聞いた記憶があるの。
哲也のような、バンドを夢見る奴に。
『アースシェイカーは、メジャーに魂を売ったんだ。』って(///∇///)
なんか…昭和の中二病ワードみたいで恥ずかしいんだけど。
でも、音楽の成績も良くなかった、にわかロッカーの奴は、何を根拠にアースシェイカーをメジャーに魂を売ったと感じたのか、
その音の違いの様なものを考えてみたかったのよ。
私にパガニーニやショパンの音のこだわりなんて理解できないけど、
哲也の感じるラウドネスとアースシェイカーの音の違いなら、理解できる気がするのよ。
実際、私もアースシェイカーの方が聴きやすいのよ。
何故かしら(; ̄Д ̄)?」
作者は懐かしい音楽に耳を傾けながら不思議そうに眉を潜めた。
「カクテル効果ではないのですか?」
「カクテル効果?確か、騒音の激しいパーティ会場でも、人間の耳は、話している人の声を聞き分けるってやつよね?」
作者は、オウム返しで不思議そうに私を見た。
「ええ…推測ですが、この『Radio Majic』は、歌詞が日本語で、内容が恋についてです。
美しい男声で、愛しい女性について語る歌ですから、女性でもその内容を知りたいと感じると思うのです。
ですから、曲を構成する激しい演奏が、彼女達にとって騒音だとしても、
カクテル効果で、男声に集中できるので、
英語の歌詞のハードロックより聴きやすいのだと思いますよ。」
「うーん( ̄〜 ̄;)なるほどね。
そんな考え方もあるんだね。
音やら、音楽の話って、まさか、こんなに広がるとは考えて無かったけど、
なかなか面白い考察だわ。」
作者は深く感心したように頷いて、音楽の余韻にしばらく浸っていた。