時影、近代魔術を語る 108
りーん…
りーん…
鈴虫の鳴き声を聞きながら私達は中秋の名月を眺めました。
気がつけば10月…雷無月となりました。
「神無し月…ではないのですか?」
私は、作者を見て聞いた。
「なんか、wikipediaによると、雷の無い月で雷無月とも書くって書いてあったわ。
私…『冬将軍がやってきた』を止めてるんだけど、
あれ、書くと天気が悪くなるんだもん。
今年は天気は出来るだけ良い秋を願いたいわ。」
作者は、悲しそうに言った。
私達は童話で強引な完結をさせた、『冬将軍がやって来た』の続きを書きたいと去年の今頃まで頑張っていました。
どういうわけか、連載を始めた当初、この話を投稿すると寒波が来るのです。
まあ、季節的なものだと思ったのですが、4月に雪が降って中断し、
夏ならどうかと、高気圧の話で練習していたら、
台風で千葉県が大変なことになり、そのまま中断しているのです。
まあ、そんな馬鹿馬鹿しい事を普通は真面目に考えないのですが、
ファンタジーの世界の話なので、やはり、げんかつぎは大切です。
「そうですね。Go Toキャンペーンも始まりましたし、少しずつ、景気が回り、実りのある秋になって欲しいですからね。
雷無月…秋晴れの素敵な秋になるように願いをこめて、そう呼びましょうか。」
私は、少し肌寒い秋風を頬に受けながら作者の横顔を見つめた。
作者は、月を見ながら何か物思いにふける。
「時影…鈴虫の発する音を『声』と認識するのは、日本人とポリネシア人だけなんですって、知ってた?」
作者が突然私に聞いてきた。
「らしいですね。でも、母国語を日本語で育たないと、虫の声とは認識しなくなるようですよ。
逆に、外国の方でも、日本語を母国語として育つと、虫の声を聞き分けることが出来るとか。」
「小泉八雲は、虫の声が聞こえたのかしら?」
作者は月を見ながら呟いた。
「ラフカディオ・ハーン。地中海のイギリス領、キシラ島に生まれた方ですよね?
どうでしょうか?
男は恋をすると、恋した女に影響されますからね。
妻の節子さんと、こうして月を見つめていたら、
異国情緒と恋情で、美しい恋の調べに聞こえたかもしれませんね。」
「……ろ、ロマンチックねっ(///∇///)アンタ…
私なんて、八雲は、キリスト教の世界観が嫌になって、世界をまわって、ブードゥとか、ドルイドとかに興味を持った話とか、思い出していたわ(^^;)
学生時代、彼の『怪談』とかを読んで、とても日本的で文学的な人物だと思っていたけど、
わりと、都市伝説とかを語る現在のユーチューバー見たいな、ハッチャケさんかと考えたりしてた(*''*)
はははっ。
ついでに、ファーブルは、昆虫記を書くくらい虫が好きらしいけど、秋の虫の声をどう聞いたのか…なんて考えてた…。」
作者は、なんだか慌てていますが、私の方が恥ずかしい。
「さあ…、どうなのでしょうか。」
私も適当な相槌で誤魔化していると、作者は、とても嬉しそうにニヤリと笑った。
「環境で、人間が音をどう感じるのか…
虫の声は、国単位だけど、世代でも違うと思うんだ。」
「年配になると、高音が聴きづらくなる…モスキート音とかの事でしょうか?」私は夏に蚊の話をしていた作者を思い出して聞いてみた。
最近では、蚊の音で目が覚めることは無いのだとか。
「違うわよ〜。いや、同じかなぁ。」
作者はそう言いながらタブレットを取り出して、アースシェイカーの『Radio Majic』を再生した。
アースシェイカーは、1978年に結成されたヘヴィメタルバンドです。
軽快な彼らの曲を愛する人たちは、いまでも絶える事はありませんが、
中秋の名月を見上げてまで、ヘヴィメタルをかけなくても…と、私は少しがっかりしながら月を見上げた。