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茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
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時影、近代魔術を語る 102

静かな夏の昼下がり。

穏やかな風が、火照る体を心地よく撫でて行きます。


私は煮詰まり出した作者の様子を見て、コーヒーを入れる準備を始めました。

作者は無言でタブレットにかじりつき、ブツブツと呪いの言葉をはきだしていました。


クラッシュアイスを沢山入れたアイスコーヒーにするか。


私はアイス用のコーヒー豆でとりあえず、コーヒーを抽出します。


面倒と言えば、面倒ですが、こうすると薫りが部屋に充満し、作者の気持ちもリラックスするに違いありません。


私は濃い目にいれたコーヒーを氷の沢山入ったグラスに一気に入れました。


さらさらと心地のよい音と共に氷が溶け、グラスを冷気で満たして行きます。

私は頃合いをみて、作者にグラスを差し出しました。


「ありがとう(T-T)」

作者は本当に嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして礼を言います。

「ミルクとシロップは、必要ですよね?」

私は作者の嬉しそうな笑顔に満足しながら小皿に入れたミルクとシロップをさりげなくグラスの横に置く。

作者はストレスを解消するようにたっぷりとミルクとシロップをいれて、一気に飲み干した。


「はぁぁ( 〃▽〃)うまいわ。生き返ったわよ。

もう、パガニーニ、辛いわ〜

でも、こうして話してみてよかったわよ。

私、前回、イタリアのジェノバって書いたけど、

パガニーニの時代のジェノバは、どちらかと言うと、フランスのジェノバなのね(T-T)


ナポレオンの奴が…フランス皇帝になったから、ジェノバは、後にフランス領になったわ。」

「そして、ナポレオンの失脚と共に共和国として存続は出来なくなりましたからね。」

私は混乱する作者を見てなんだか笑ってしまいました。全くこの人は…どうして、こう動くたびに何かに引っ掛かるんでしょうか?


「(;O;)うん…もうさ、嫌になるわよね。

フランスのジェノバって…

マルコ…『母をたずねて三千里』の主人公、マルコも実はジェノバっ子なんだよね。で、時代的に本当にイタリアかどうかと思ったら、パガニーニの後の人だからイタリア人で良いのよ。」

作者はなぜか口を尖らせながら言う。

「で、なんでそんなに悔しそうなのですか?」

私の質問に、作者は口をへの字に曲げながら面倒くさそうに話はじめる。

「だって…、私の子供時代…まあ、今でも分かりづらいから、現代の国の名前でその土地を表現するのよ(-_-)


これ、とても混乱するわ。違和感半端ないの。

日本で例えるなら、戦国時代。

日本だって、この時期は天下統一なんてしてなくて、天皇がいても、大雑把に言っちゃえば、国で好きに自治権があって独立していたじゃない?

現在とは名前も、領地も全然違うじゃない?

それを名古屋の信長とか、山形の上杉謙信とか書いて歴史の物語をはじめるようなものなのよ。

上杉謙信は、越後の辺りまで領地を広げていたじゃない?

山形県の人と言われて、新潟辺りでの武田との戦いを話していると混乱するでしょ?


大阪の秀吉は良いけどさ、

家康を東京表記で表現したら混乱するでしょ?

ヨーロッパの場合は、歴史のベースが頭に無い分、地図的な土地を思い浮かべるには分かりやすいけど、

ノストラダムスの時代にドイツなんて国は無いんだもの。そんな書き方をされて子供の頃に刷り込まれると、近代ヨーロッパで頭がこんがらかるのよ(-_-;)

ジェノバはイタリアの都市だって信じてたわ。

共和国だったとしても、フランスとか考えた事は無かったわ。はぁぁ…

わかるわよ、当時、私に素敵な物語をくれた大人が、分かりやすいようにドイツとかイタリアとか、歴史を超越して表現してくれた優しさを。


当時の私も、学校の先生も、まさか、21世紀になって、私がヨーロッパの歴史物を世界に向けて、こんなに手軽に発信するなんて考えることもなかったんだもん。一般知識で軽く知っておけば良いって考えたのよね。

私だって、この歳でパガニーニについて、赤っ恥をかくことになり、

フランクとメアリーの恋物語に翻弄されるなんて、思いもよらなかったわ(T-T)」

作者は話ながら、少し自虐的な笑う。


「コーヒー、お代わり作りましょうか?」

私は少し穏やかな顔になった作者に聞いた。

「うん。ありがとう。

まあ、さ、でも、良かったわよ…

複雑で、調べるたびに止まるけど、お陰で19世紀のヨーロッパの様子がよくわかったもん。

パガニーニ…美しい曲を奏でるヴァイオリンの悪魔…

私にとっての『やさしい悪魔』なのかもしれないわ。」

作者はそう言って、キャンディーズの『やさしい悪魔』を再生した。


甘いイントロ部分に誘われて、彼女はジェノバの歴史を語り始めました。


共和国として栄えた海洋国家ジェノバは、ヴェネチアと地中海の支配者としてその名を馳せます。

1797年にナポレオンに進軍され、後にフランス領になり、

ナポレオンが倒れると、サルディーニャ王国へ編入されてしまいます。


この時、まだ、細かい国に別れていたイタリア半島をこのサルディーニャ王国がまとめて行くのです。


1861年、イタリア王国の建国が宣言されるわけですが、


サルディーニャ王国は、スペインに(ゆかり)があります。

1871年のドイツ帝国の建国や、

1898年レマン湖でイタリア人に暗殺されたエリーザベトの事件にこの事実がどんな陰影をもたらすのか…


やさしい悪魔の気まぐれな登場は、なかなか物語を始めさせてはくれないようです。


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