時影、近代魔術を語る 95
日が沈み、穏やかな夜の闇が世界を包んでいます。
夕飯も終わり、作者は冷房のきいた部屋でレースを編み始めました。
お気に入りの音楽が流れるなかで、私はその様子を畳に座ってみていました。
しばらくすると、曲が変わりました
山口百恵さんの『乙女座宮』です。
晴れやかな昭和の歌謡曲の雰囲気に作者は編み針を止めて、悔しそうに顔を歪めながら私のもとへとやって来ました。
作者は疲れたように私を見て、哲学の謎をきくように眉を寄せて悲しそうにこう問いかけるのです。
「ジョージはね、冬の童話のために作り出したポッと出のキャラでね、
この曲のように、純真な少女小説の登場人物をイメージしていたのよ(T-T)」
「知ってますよ?『パラサイト』に手間取って、時間がないから、『魔法の呪文』の世界とコラボしてつくりましたよね?」
私は冬の事を思い出していた。
あの時はまだ、現在のような状態になるなんて、想像もつきませんでした。
「うん……。まさかね…、この問題を8月に語るなんて考えもしなかったわ。
ジョージなんて、短編用の、ぶっちゃけ、アラン模様の伝説の説明のためだけに作った
キャラだったんだ(T-T)
百恵ちゃんの歌がはやった頃、
少女達が、アーモンドの丸ごと入ったチョコレートを恋人と分けあう事にトキメキを感じていた、
そんな時代よ。
チョコレートと同じくらい定番の恋のアイテムは、
『初めての手編みのセーター』
ふふふ、今じゃ〜呪いのアイテムくらい重い代物と化した、手編みのセーター(T-T)
昔はね?少女漫画にも季節があったのよ?
夏には海やら山にいくし、
バレンタインにクリスマスはマストでしょ?
極めつけは、外国の…ヨーロッパの話でも、正月はヒロインが振り袖と羽子板をもった
特別イラストが載るような、ぶっ飛んだそんな愛しい時代だったわ。
そんな、少女漫画が、少女だけの夢の世界を繰り広げた時代、
恋する娘は、高確率で編み物をしたものだわ。」
作者は辛そうな顔をしながら、何かをきっかけに爆笑をはじめた。
「そうですね…、多分、後のバブル時代の結婚式で新郎新婦がゴンドラで上から登場する趣向は、
この曲の憧れもあるのでしょうね。」
私は、変な緊張感を作り出す作者の自虐の笑いを聞きながら、当たり障りない話を返した。
「そんなの、あったわねぇー。
まあ、さ、そんなわけで、私も、冬の少女小説と言うことで
セーターの話を作る事にしたわけよ(///∇///)」
作者はばつの悪さを噛み殺すように歯を食いしばり、目を閉じた。
「でも、確か、作品では、少女メアリーが編んだのは、帽子ではありませんか?」
私は当時の作品を思い浮かべる。
確か、あの話にアラン模様なんて登場してなかった気がするのですが。