時影、近代魔術を語る 93
曇り空を見上げる作者が、和風の窓についている木製の出窓の部分に肘をつく。
「ねえ知ってる?私が触ってるこの部分、『書院甲板』って言うらしいわ(-"-;)
ネットで調べると、工務店関係のサイトで教えてくれるわ。
まあ、正確…とも言えないけど。
でも、こんな名称、普通の主婦は知らないじゃない(T-T)
この、『書院甲板』って場所、わりと良く使うじゃない?
書き物したり、座ったり…
でも、書くとなると表現が難しいわね。」
作者がぼやく。
確かに、日本の古い家の二階にの窓には、こうした長い出窓部分がある。
最近では、サッシの部分から30センチほどの幅の板を渡したところに障子の戸がついていたりする。
この渡し板の部分は、机がわりに使えるので(多分採光道具の少ない昔は、明かり取りの為に机として使われたのだと思う。)重宝するのだ。
「和室の出窓板。で良いのではありませんか?
まあ、『書院甲板』を知らしめるべく頑張るのも悪くはありませんけど、
でも、今は、そんな場合ではありませんでしょ?」
私は冷たい緑茶を入れました。
今年も新茶のシーズンです。専門店では烏龍茶、ダージリン、緑茶など、旬の香りを競う時期なのですが…。
残念ですが、通販で我慢するしか無さそうです。
「あら?これ、美味しいわね。」
作者は驚いたように私を見、そんな作者を見つめる私は、ちょっと嬉しくなるのです。
「静岡の…茎茶なのですが、とても香りがよろしいでしょ?」
「うん…なんか、マスカットみたいな香りがするね。」
作者はそう言って目を閉じて、鼻先に遊ぶ緑茶の香りを楽しんだ。
「お茶の原産地はインドなどで、主に高地での栽培が向いています。
体を温める作用があるので、ロシアやイギリスでも愛され、その土地独特の文化が花開きました。
イギリスでは、18、19世紀に大衆が飲み始めるようになります。
つまり…
メイザース達、近代魔術と同じ時代に文化の花を開花させるのです。」
私の芝居がかった台詞に、作者はため息をついて困り顔をかえす。
「わかりました。分かりましたよぅ。
近代魔術、いきましょう。うん。『魔法の呪文』を何とかしなきゃいけないもんね(T-T)」
作者は緑茶をイッキ飲みして茶色いノートを取り出した。