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茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
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時影、近代魔術を語る 92 黒ユリ伝説

私の作者の中では、淀君は、この件に関しては一途で情熱的な女性だった。


今の石川県…越前の国に生を受け、二つの乱世、二人の父を秀吉に奪われようとも人生に逆らわず、しなやかに闘う女性だった。


そんな彼女が、正妻であるねねに、こんな無礼な行動に出たのは、

一重に成政への怒りでゆえだ。


成政は、柴田勝家と共に上杉氏と戦った仲だ。


しかし、成政は秀吉がわにつき、こともあろうか白山の希少な高山植物、黒ユリの秘密まで、ねねに渡そうとしているのだ。


神社の家系の織田家にあり、母の市と共に越前の国を愛した淀からしてみれば、これは引けない事案だったに違いない。


時代時代の美しい黒ユリ染めの着物を纏う、淀と側女に囲まれて、貧弱にも見える反物を見せながら、

ねねは、怒りより悲しみを感じていた。


それは、夫、秀吉による、日本国に大鉈を振り上げる大胆な政策のなかで、声もあげられずに消えて行く、美しくて、儚い、人ならざるものの最期の反旗のようで、胸が締め付けられる。


ねねは、この事態の原因を調べさせ、

成政が、山の民と土着の人たちを怒らせたのを知ったのかもしれない。


黒ユリ伝説で、小百合が予言したのは、

「立山に黒ユリが咲いたら、家が滅びる」

と、言うことだ。


立山と言えば、乱世において、成政はさらさ越えと言われる方法で、家康に会いに浜松へ向かったらしいが、その時のルートに立山山系をあげる人がいるらしい。


勉強不足で悪いが、わざわざ名前がつくくらいなのだから、それは、驚くべき方法…ハンニバルのアルプス越えのような雰囲気のある出来事のように思う。


なぜ、それが可能だったのか?


多分、ここに、山の民との友好関係があったのでは無いだろうか?


黒ユリは、高山植物で、寒いところで生息する。


西限は白山。

山の花なのだ。


早百合は、そんな居住地区に無い花を使って、成政に呪いの言葉を吐いたのは、

山の民が動く事を表していたのかもしれない。




作者はそこまで話して、一度私にコーヒーをねだった。


私は、黙って三杯目のコーヒーをいれると、作者は静かに喉を潤した。


「ねねは、きっと、この話から、成政が信州での信用を無くしたと判断したと思うの。


白山の神様は、女神様でね、縁結びの神様でもあるらしいわ。


まあ、それよりも…

美しい萌木色の打ち掛けを見せつける、淀の姿を見せつけられた事に怒りを感じただけかもしれないわね。


若向きのパステルグリーンに負けない艶のある真珠のような肌と、染め粉では再現できない艶やかな黒髪をその萌木色に映えさせながら挑戦的に微笑む淀に、

かつて、秀吉が憧れた市の姿を見たから。


旦那の若気の拗らせを見せつけられたようで、気分が悪かったでしょうね。


後に、九州で一揆を止められなかったことで成政は投獄されるわ。

そして、切腹するのだけど、これは、黒ユリの呪いと言うよりも、人間性の問題な気がするわ。


信玄の言葉がしみるわね。

人は垣

人は城

情けは味方、仇は敵。」

作者はそう言って、コーヒーを飲みながらしばらく物思いにふける。


「それにしても…この結末では、ホラー風味になりませんよ?」

私は話をまとめながら作者に言う。

「いいのよ…ホラーなんて、もう書いてる暇無いもん(T-T)

次はSFミステリーなんだから。


でもね、立山と黒ユリ伝説で思い出したんだけど、立山って、測量の基準点があるのよ…たぶん。


新田次郎先生の小説を映画化した『劔岳 点の記』って作品があるんだけどね。

なんか、思い出したわ。

この話は、近代日本地図作成のために登頂測量する話でね、

当時、難しいとされた劔岳の登頂に挑戦する測量士の話なんだけど、

ネタバレすると、登頂したときには、すでに先客が足跡を残していたの。

修験道の行者が、ね。


まあ、成政の時代にも、史実にはのらない、そんな偉人が沢山いたのかもしれないわ。


日本が西洋型の登山を始めるのは、19世紀のことでね、ドイツの山岳部が早くたったみたいだけど、

イギリス人が、精力的に山登りをしたみたいね。


点の記とは、測量の基準点の記録なんだけど、1888年から記録が保存されたらしいのよ。

1888年。ドイツ帝国で初代皇帝が崩御した年の事よ。」

作者はそこで、一度言葉を切った。


「さあ、1888年に繋げたところで、本線へと戻りましょう(^-^)」

作者はほっとした顔を私に向ける。


「そうですね。」

私も穏やかに微笑み返した。


初夏の風を受けながら、立山や白山の黒ユリを思い浮かべながら。


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