時影、近代魔術を語る 87 黒ユリ伝説
「『猿酒』のアンコール、ですか。」
私はまた、面倒に首を突っ込みそうな作者に聞き返した。
「そんな嫌な顔しないでよ。わかってるわよぅ。
『パラサイト』作るのが優先だって。
でも、今回、アクセスが増えたのは、『猿酒』の読者の方が、音声用に作り替えた『猿酒』にポイントをくれて応援してくれたからだわ。
素敵なアンコール作品でお礼をしたいと言うのは…」
「それを『パラサイト』でやっている最中でしょうに。」
私は作者の言葉を遮って言った。
本当に……。ふりまじんの集会までに完結なんて出来るのでしょうか?
私の心配をよそに不満そうに私を見る。
「わかってるわよ。でも、こうね…、横っ腹を叩けば順番に出てくるわけでも無いんだもん。
それに、黒ユリ伝説の話は、なかなか興味深いわよ。
さっきも言ったけど、『猿酒』の物語を思わせるわ。
黒ユリの花言葉に『呪い』と『復讐』なんて不気味なイメージを加えさせた人物がいるんだけど。」
作者は挑戦的な笑い顔で私を見つめた。
「佐々成政。秀吉の家臣の一人でしたね。」
この人物の名前は『無人駅』には書かれていない。
Siriが読めなかったのだ。
さ…なりまつり。と言う意味不明な祭りにしてしまうため名前は削除していた。
「うん。ここで秀吉の登場にワクワクしたんだけど、
今日は、その全段階のお話だけするわ。」
作者は嬉しそうに私を見た。
「それについては、少しだけ『無人駅』でも触れていますよね?
昔、佐々成政と言う戦国武将がいて、
織田信長の家臣として、北陸地方を攻め上杉氏と戦い、統治した人物で、
黒ユリ伝説は、その彼の逸話で、
成政の側室に美しい早百合と言う女性がいて、
その寵愛に嫉妬した人物が流したと思われるフェイク・ニュースが城下で炎上するのです。
早百合は、不義の罪を犯して、妊娠した子供は成政の子種ではない。と。
激怒した成政は、早百合を殺してしまいます。
それでも怒りがおさまらない成政は、早百合の一族まで皆殺しにするのです。
無実の早百合は、成政に復讐と呪いをこめてこう言うのです。
『立山に黒ユリが咲いたら、佐々木家は断絶します。』と。」
「なかなか、良い語りだったわよ。時影。
でも、この話、なんか変だと思わない?」
作者はそう言ってコーヒーを飲む。
「確かに、不義の噂くらいで一族を惨殺は嘘臭いですね。
大体、思い当たるフシがあれば、息子殺しを心配して出産してから確認の後に殺すのが合理的です。」
「合理的って(-"-;)
まあ、そうなんだろうけどね。
まず、名前が嘘臭いわ。
黒ユリ伝説だから、早百合とか。
あと、ひときわ美人って言うのも、このての話の盛りよね?
あの短期な信長に使えてるんだから、そんな、感情的に動く人物は、大成できない気がするのよ。」
作者は苦い顔をした。
「明智光秀は?」
「三日天下だったじゃん。
それに、あの武田信玄の統治した土地を手中にし、上杉謙信と戦うためには、冷静沈着でないと人はついて来ないと思うの。
立山がなんとか…なんて言うくらいだから、たぶん、早百合さんは、信州の名家の娘よね?
戦国時代、血縁同盟の意味もあるのだろうから、そんな短絡的な理由で殺すとは思えないわ。
信玄は、人を使ってこの土地を統治したのよ?
つまり、信州の武将は、情に厚く、不義理を嫌ったはずでしょ?
信玄だって…
『情けは見方、仇は敵』って言ってるもん。
突然、愛知方面からやって来て、地元の…しかも美人の妊婦の奥さんをよく調べもしないで殺したら、
敵を作るだけじゃない。
誰の子供にしても、生かしておけば、人質にもなりえるわ。
私も最近、インターネットのフェイクニュースで鍛えられてきたもの。
こう言う、あからさまな怒りを誘うエピソードは調べるべきだと思うわけよ。」
作者は自慢げにそう言った。
「まあ…伝説ですからね。事実ではないのだと思いますが。」
私は嬉しそうに謎解きをする作者をみて呆れてしまう。
現在、初の推理ジャンルの作品を未完で止めているのです。
そんな事を考える暇があるなら………。
私はヤキモキする気持ちを押さえてコーヒーを飲んだ。
「そうね、この話だけだと、そう言われるのだろうけど、後日談の黒ユリの話を、ねねと淀の女のバトルが加わると、なかなか、興味深い解釈が可能なのよ。
もうね……わたし、『無人駅』書きながら、こんなんまた、考えるんだよ(T-T)
もう、アンポンタンだって思うんだよ…私。
ここは、吐き出さないと『パラサイト』に集中出来ないわ(;_;)」
作者はそう言って皮肉な笑いを浮かべた。