時影、近代魔術を語る 85
「今年のホラーは駅かぁ…。」
作者は夜空を見上げて呟いた。それから、私を見てこう続けた。
「今年……参加しない方がいいかなぁ。」
「随分と弱気ですね。確かに、未完の連載がありますが、あれだけ複数の話を考えながら、夏ホラーも考えていたじゃないですか。」
私は弱気な作者に心配になる。
本来、この人はやりたくなったらやる人なのだ。
冬だって…、投稿作品が終わらないのに、明日のジョーの歌を聞きながら、短編を書き始めて未完にしているのですから。
あの話…『パラサイト』は短編一万字の予定でしたが、色々あって八万字の未完作品で現在に至ります。
勿論、未完とはいえ書き続けていて、
8月のふりまじんの集会までに完結させようと頑張っています。
完結させて、小銭が貰えるサイトに清書して投稿するのです。
この、仲間に良い顔をしたいと言う強い欲求が、作者にあるかぎり、完結を諦めることはないのですが…
「だってぇ……、さすがに思ったんだけど、
私、短編を書くたびに連載が増え続けるんだよ(T-T) 」
作者は禍々しいものの話をするように顔をしかめた。
「また、ひとつ再開させましたしね。
そうですね……今回は見逃しますか?」
私は少し明るい声でそう言った。
確かに、10万文字の連載候補は山のようにありますし、『パラサイト』に集中して完結させるのも悪くありません。
「もう、簡単に言ってくれちゃって…。
でも、去年の作品『通り魔』が、まさか、こんな感じで帰ってくるなんて……。
覚えてる?
サルペリエール病院。
はぁ(´ヘ`;)
ここを女子の精神疾患者の収容施設にしたのが、ルイ14世らしいのよ…。
ルイ14世…
ここでベルサイユ宮殿で始まるドイツ帝国の物語の隠し味として、『通り魔』を飾るんだわ…。
あそこはね、精神疾患者の収容施設で、
パリの売春婦も収容されていたわ。
魔女狩りの事を調べているとき、100年戦争の売春婦についても記述を見たわ。
王様が頼んでも、彼女達は売春をやめてまともな仕事につこうとは考えなかった、と、何かに書いてあったわ。
そんな事があったからか、ただの利権なのか、
後に、フランス革命の少し前、サルペリエール病院に収容された売春婦は、ヌーベル・フランスと言われる北アメリカのフランス領に送られたのですって。
パリにいてほしくない人物と
女性の少ない開拓地。
なんだか、黒い金の臭いがしてきそうじゃない?
そうして、新世界に送られた彼女達はどうなったのかしらね?
まあ、それはわからないけれど、ヌーベル・フランスは、ナポレオンによってアメリカ合衆国に売られたそうよ。
1803年の事ね。
色々、想像力が働くわよね…(-"-;)
なんか、いろんな方向に物語が拡散して、頭がこんがらかるわよ。
サルペリエール病院は、西洋の史実で、精神疾患者に鎖をつけることをやめた病院らしいわ。
夏ホラー、楽しいけど、なんか、開けてはいけない扉を開けるようで怖いわ。
今年は『駅』。
これもまだ知らない物語の種が埋まっているようなんだもの。」
作者はそう言ってため息をつく。
私は作者のグラスにサイダーを注いだ。
「それでも……、あなたは開いてしまいたいのでしょ?
サルペリエール病院の話も、なかなか面白いじゃないですか。
それに『茶色いノート』は我々の設定ノート。
好きに書き込めば良いんですよ。
駅。どんな物語を考えているのですか?」
私の問いかけに作者は目を閉じて奥歯を噛み締めて何も言わなかった。
それから、しばらくして、
「とりあえず、近代魔術…関係はやめておきたいわ。
短編が、最近、短編がかけないんだもの(;_;)
また、八万字なんてなったら、やりきれないもん。
とりあえず、今回は書いても短編完結できるやつにするわ。」
作者はそう言って、もう一度、きつく目を閉じてた。