時影、近代魔術を語る 81
「それは盛りすぎです。暗殺なんて。」
私は眉がよるのを止められず、あからさまに不機嫌な顔を作者に見せる。
この辺りの西洋史はナチスドイツの話が絡んできますから、おかしな方向に物語が進まないように気を付けてあげないと行けません。
「私だって…面倒くさいわよっ。でも、仕方ないじゃない。通り魔の話、あの設定文、このシリーズなんだもん。
私だって、ハンガリー=オーストリア帝国の話に集中したいわよ(T-T)
あっちは、48年革命とプラハがっ…もう、それだけでも大変なのに、ドイツ皇帝の心配までしたくはないわよ。
でもっ。プリンセス・シシーがバイエルン王国の出身なんだから、無視もできないし、頭爆発してるわよっ。
でも『魔法の呪文』の話は東欧枠ですることにして、
こっちは『通り魔』の混乱を何とかしなきゃ(T^T)
はぁ…。
なんだっけ?ああ……
暗殺の話だっけ。」
作者は鼻にシワを寄せて投げるように私に言う。
「そうです。疲れているのはわかりますが、暗殺なんて。
フリードリヒ皇太子殿下は1887年に喉頭癌の診断を受けています。
ですから、ヴィルヘイム1世は、モルヒネを打ちながらでも最期まで執務をお続けになられたのです。
この陛下の強い愛情を暗殺などとふざけた話で汚しては、ドイツ国民にしかられますよ。」
私は近代ドイツ史の闇に作者が知らずに足をとられてしまいそうで心配になります。
少し前までは、ナチスとかユダヤ人の台詞が飛び出るだけてビックリしていたのに…。
「でも……、ここでイギリスが関わってきたんだから、一度はその可能性を考えないと。」
作者は渋い顔でサイダーをコップに注いで、ビーフィターをほんの少しそこに垂らしてあおる。
ビーフィターは、イギリスの有名なジンです、が、今はそんな事はどうでもいいのです。
「では、いますぐその可能性を取り消してください。 フリードリヒ皇太子殿下を毒殺なんてしなくても、長くはなかったはずです。」
私は事務的に作者に言葉を圧した。
作者は私を冷たくいちべつして、もう一口サイダーをゆっくりと飲み込んで不敵に笑った。
「別に……毒殺なんて…私も考えてないわ。
ただ、wikipediaに書いてある通りの事が故意にあった可能性を考えているだけよ。」
作者はタブレットを私に見せる。
「イギリスとプロセインの医師の勢力争いで適切な治療が受けられなかったって書いてあるでしょ?
この医師中に、生かすのではなく、殺したくて争う人物が居たとしたら、それはある意味暗殺だと思うのよ。」
作者は口をへの字に曲げた。
「わざと、医師を争わせた?」
私は誰に質問するでなく呟いた。
確かに、その後、ビスマルクは失脚してしまいます。
若いヴィルヘイム2世の方が扱いやすいと考えた何者かがいたとしてもおかしくはありません。
「まあ…よくはわからないけど、とにかく、ここでイギリス王族と関係が出来ると、切り裂きジャックの話だって、別の展開が考えられなくもないのよ(>_<。)」
作者は思わず頭をかきむしる。
ヴィルヘイム1世の誕生日は3月22日。
ほぼ春分点に近いときに生を受けた初代ドイツ皇帝。
我々は秋分点とともに切り裂きジャックを語っていたので、むしろ、ヴィルヘイム1世の方が当たっている気がします。
フリードリヒ3世は6月になくなっていますが、夏至に近い頃です。
そして、イギリス王室の関係者も切り裂きジャックの被疑者として疑われていました。
作者の考えも分からなくはありませんが、あまり、その方面で話を作ってほしくはありません。
混乱する作者の頭を整理して、なんとか違う方向へと物語を続けたい。
私はグレンフィデックで口を湿らせながら、去年の夏に作り出した短編『通り魔』の物語を思い出していた。