時影、近代魔術を語る番外
月の無い初夏の夜。
私と作者は2階の部屋の窓を開けて空を見つめていました。
「今日は少しスコッパーについて語るわ。
私は、書いてる話を全部終わらせて、最後に高校生天才スコッパーの学園もので書籍化を狙い、それでなろうを卒業する予定なの。
でも、天才スコッパーなんて、どんな人物か分からないから、少しずつ設定をしようと思うわ。」
作者はそう言って、サイダーにウイスキーを少し混ぜて一気のみをした。
「また、すぐ脱線するんだから。」
私は、少し呆れながら作者に苦笑いをむけた。
全く、もう夏が来ると言うのに、冬からの10万字の物語を仕上がってないのですから、ヤキモキするのです。
「仕方ないでしょ?私、頭悪いんだから、天才スコッパーなんて、思い付いたときに書いてみないと、なかなか上手く行かないんだもん。
それに、今回は、『魔法の呪文』と『近代魔術』にも関わってくるから、多目に見てくれなきゃ。 」
言い訳がましく早口で話す作者を見ながら、前回の宿題を思い出した。
「あれ…ですよね?違和感って言っていた。
正解は、近代魔術69の1871年の即位式の話ですよね?
『魔法の呪文』に興味の無い方には関係ありませんが、
キャラクターのフランクを1970年生まれに設定すると、物語の始まりのフランクの年齢が20才か21才なので1890年に確定して、1889年のマイヤーリンク事件を越してしまいますからね。
そうなると、マイヤーリンク前の世界観で書いていた物語に矛盾が生じます。」
私の言葉を作者はサイダーを飲みながら不服そうに聞いていた。
「なんで、そう簡単にバラすかね?」
「こんな問題…こちらの読者には解読不能です。」
「ふふっ、相変わらずサディストね…確かに、童話枠の『魔法の呪文』と歴史枠の『茶色いノート』を両方読んでくれる、ふりまじんのファンなんて、リアルにはいないと思うわ。」
作者はそう言って少しグレンフィデックを飲み物に足し、一口飲んで甘える猫のような笑顔で私を見ながら続けた。
「でも、私の頭の中にはいるのよ。
そんなコアで、少し変わった読者がね。
何しろ、一世一代のラノベとやらに挑戦するのだから。
私のような閲覧も少なく、ポイントも目立つほどはない物書きの話をどこからか探して楽しむ読者がね。
まあ、そうやって天才スコッパーをつくって行くわけだけど、スコッパーってて物語にするには、派手さが無いのよね(-"-;)
でも、今回の事で歴史ジャンルはチェスや将棋のようなバトル展開が可能なのよ!
この辺りは、書いておかないと、忘れちゃうからね。」
作者はスコッチと希望に頬を赤くしながら嬉しそうに目を細めた。
「つまり、歴史の場合、史実があるので、それに拘束される、
マイヤーリンク前に20才になる1970年生まれは存在できない、と、言うわけですね。
でも、これではただの年号の…算数の問題ですよ。」
私は少し呆れるようにため息をついた。
作者はあきれる私に、同じくあきれ顔で応戦した。
「ふふふっ(T-T)、アンタ、近代ドイツの歴史をなめちゃ〜いけないよ(;_;)
確かに、歴史を知らなきゃ、フランクの生まれたときを変えればいいと思うわね?
実際、私も、そう考えたもん。
3年ずらして、年下のメアリーを1870年生まれにしようとしたわ。
そうしたらね、次に来たのはヴィーナオーパンバルの年齢よっ。」
作者は面倒くさそうに顔を歪めていたが、どことなく楽しそうに話す。
「社交界デビューの年齢ですね。確か、18才でしたか…。つまり、1888年にメアリーがヴィーナオーパンバルにデビューする事で物語が始まると決まるわけですか。」
「ふふっ、マイヤーリンクの前の年よ(T-T)
あっはっハーン。
私、話を派手に盛っちゃったから、この年に事件がおこったとなると面倒なんだよね……(T^T)
赤毛の錬金術師って、何者なのよヽ(*`Д´)ノ
ああっ…、もうね、色々、別のオプションがこの年だと付加されるのよっ。
イギリスでは、ゴールデンドーンやら、切り裂きジャックで騒がしくなるじゃない?
完結させた『通り魔』の短編にぶん投げた謎がこの物語にもにじみ出してくるわけよ。」
作者は深くため息をついて、はいた息の分を埋めるようにサイダーを飲み干した。
なるほど…。
私も何となく言いたいことが分かってきました。
『魔法の呪文』は、ファンタジーな童話でした。
魔法でお婆さんにされたメアリーが少女トトの願いで再び魔法をかけられる前の時代に戻るのです。
普通なら、運命の男性に再びあい、失敗を反省して結婚してハッピーエンドで終わりでした。
が、公募に参加するのと、読者への感謝を込めたアンコールの意味を含めた続編を作ることにして、現在に至るわけです。
「そうですね…、確かに、10万文字なんて欲をださずに2章の物語を終わらせておけば、綺麗に終われていましたね。
しかし、3章の内容を入れると、どうしても、この年に、はまりますね…。」
ふふっ…
私は、混乱するドイツを思いながら失笑してしまう。
1870年を外して、もう少し早くすると、普奥戦争に当たりますし、その前の事は、前回のヴィルヘイム1世のお話で語りました。
平穏なお話にするには、確かに、1870年にメアリーを誕生させるべきでしょう。
こうなると、宰相ビスマルクの政治手腕を思い知らされます。
「ね?凄いわよね…全く、意図してなかったのに、ピッタリとはまりこんできたのよっ。
この瞬間、すべてのキャラクターが頭にいる私は、『通り魔』の主人公がロンドンで新米刑事として働くところを思い、
ジルの開発していた『何か』を思わずにはいられないわ。
小さな行き違いでパリに飛ばしたトラウゴットの物語に微妙に絡むのよ(T-T)
なぜか、フランス生まれのジンのフェネジの意味も何か、得たいの知れないエピソードが加わってくるのよっ。
まあ、ね、
不思議と話がまとまってきたから、面倒でも、一気に話を作り上げて全部の未完が完結する希望もでては来たんだけれど…。
これ、一体、いつ、気がつくべきだったかを考えると、突き詰めるとはじめの童話の部分なのよ…。
この時、たまたまヨーゼフ・シュトラウスの話にしなければ、
ヴィーナーオーパンバルに憧れなければ、こんな話にはならなかったのよ…。」
作者はそう言ってため息をついた。
七転八倒して知ったヴィーナーオーパンバルの初回は1877年、それ以前には設定不可能です。
確かに、ヴィーナーオーパンバルを使った時点でこうなる運命だったのかもしれません。
「このエピソード、天才スコッパーで作るとしたら、公募に参加する文学少女とスコッパーの物語になるのでしょうね。
多分、童話を改編すると聞いた時点で、スコッパー君は不安に思うのでしょうね…。」
作者は占い師のように星空を見つめながら、未来の物語を追いかけているように見えた。
「でも…あなたの場合は、2章で完結させておけば、落選したとしても綺麗に終われたのですがね?」
私はグラスの氷に張り付くグレンフィデックを一気に口に流し込んだ。
そんな私の台詞に我に変えって作者は私を見た。
「確かにね、でもっ、私は、文学美少女でも、学園もののヒロインでもないわ。
私の終わらせなければいけないのは、ノストラダムスのお話で………。
1888年にヴィルヘイム1世が亡くなった事実で、こっちの話がきな臭くも動き出してくるのよっ。」
作者は不敵な困り顔をして私を見る。
「マイヤーリンク事件の前の年ですからね。
当時、心中と騒がれたこの事件も別の意味がにじんできますね。」
1983年、皇后のツィタは、この事件が暗殺だったとダブロイド紙に告白している。
フェイクニュースが話題になる現在、大衆紙であるダブロイドの記事にどれだけの信憑性をみるのかは、個人の最良である。
その5年後、同じく謎の死を遂げるルドルフ・ヘスは、この件をどう感じたのだろうか…。