時影、近代魔術を語る 76 行進曲
静まり返るベルサイユ宮殿で、スーザが指揮棒がわりのステッキで空を切りました。
すると、号令を待ち構えていたスーザフォンが場の空気を足元から揺らし、トランペットの音色がアメリカ海軍の心意気を乗せて空へと飛び立ちました。
「しかし…行進曲って、わりと色々あるものね…。
作曲が軍楽士だし、WW2に実際に流れていただろうものが多いから、学校じゃ、細かい話は教わってないしね…。
でも、こうなると、音に対しての意味や感じ方も違うと思うのよね…。」
作者は緊張しながらも誇らしくステックをふるう少年スーザを見つめてため息をついた。
「音の感じ方?」
「うん…例えば、男女間だと、夜中に響く音でも、
女性は赤ちゃんの鳴き声に敏感なの
対して男性はパトカーなんかのサイレンの音に敏感なんですって…
社会的な役割からそういう傾向になりやすいって聞いたけれど、性差が少なくなった現在、それが今でも当てはまるとは言えないし、
うちのお母さんは、夜中に消防車のサイレンを聞くと音の方へと飛び足していったわ(-_-;)
木造家屋の密集した町だから、気になるのは正しいんだけど……まあ、野次馬なのよ。」
作者はお母さんを思い出してため息をつき、それから話を続けた。
「まあ、そんな感じで、生活環境で、音に対する反応も違うと思うのよ。
私には、『鍛冶屋のポルカ』を思い出す可愛らしい笛の音も、
普仏戦争を戦い抜いたピーフケには、違う意味合いを含んでいたのかもしれないわ。」
作者は困り顔で直立不動の美しい立ち姿で自分の出番を待つピーフケを見た。。
「それは、そうでしょうね。彼は、戦場の兵士の為の曲を作っていたのですから。
楽士は一見、自ら殺しあいはしませんから、弱そうな印象がありますが、音をならし、派手な衣装で砲弾や銃の前にさらされるのですから、相当メンタルが強くなければつとまりませんよね。」
「まあ、そうなんだろうね…。そんな事を考えていたら、ヒトラーの耳がドーベルマンみたいに感じてね。」
作者は困ったように眉を寄せる。
ドーベルマン。
wikipediaによると19世紀末に警備犬として交配されて生まれた犬種だ。
ブリーダーの名前をいただいてドーベルマンと名付けたらしい。
「ドーベルマン…まあ、時代的におかしくはないですがね、敗戦したとは言え、一国の総統をいぬ扱いは、どうなんでしょう?」
私が方をすくめると、作者は困ったようにため息をついた。
「ドーベルマンは、素晴らしい犬種だし、耳は勿論、人間よりも格段といいんだから、ヒトラーだって怒らないわよ…たぶん。
犬笛ってあるじゃない?人の聞き取れない高音域の音をならして犬の興味をひく…
訓練された犬にとって、その音には意味があるように、
戦場を駆け抜けたヒトラーやピーフケにも、高音域の音には意味があったのかもしれないって思ったの。
ピーフケは、フランスと戦う兵隊たちに、励ましと希望と激励を込めたと思うの。
wikipediaによると、ピーフケはポーランドのあたりの人らしいわ。
フランス革命からのナポレオンの登場で、ロシアを刺激されたり、神聖ローマを分断されたり、
48年の三月革命の流れだって、フランスからやって来たんだから、フランス人は疫病神の一面があったとおもうのよ。
ドイツ帝国が建国することは、中東欧の社会の安定にも大事だと思っていたのかもしれないわ。
だから、『ドイツ人よ、今こそ統一し、力を合わせて戦うときだ!!』的なメッセージがあったと思うの。
それを、ヒトラーが超解釈しながら、聞いていたのかもしれないなぁ…なんて。」
作者は最後の方は自信がなくなったのか、笑ってごまかしていた。
「ポーランド人が、ドイツの統一…ですか?」
私は肩をすくめてそう言った。
「ポーランド…っても、なんか、ショパンとピーフケは生まれた国が違うみたいなんだよ(-"-;)
それに、ドイツと一言で言うけど、私が子供の頃に聞いたような、そんなまとまった民族でもないみたいよ。
バイエルン帝国と、プロセイン帝国で、雰囲気違うし、
それに、プロセインは後にチュートン騎士団が土地を買ったか、なんかで住み着いて現在に至るので、21世紀の国境で考えると頭がこんがらかるのよ(●`ε´●)
ナチスは騎士団を作りたがったとかよく聞いたけど、
普通なら、チュートン騎士団に憧れるのが自然でしょ?
なんで敵国のアーサー王やら、ニーベルンゲン復讐騎士団なんだか、分からなかったわ。」
作者は、五島勉先生の著作に載っていた『ニーベルンゲン復讐騎士団』について思い出して不可解そうに眉を寄せる。
ニーベルンゲン復讐騎士団で検索しても、そんな騎士団はヒットしない。
それは、空想の騎士団なのか、
それとも、名前を掲載できずに超名前をつけたのか、
真実は闇の中だ。