時影、近代魔術を語る 72
ドラムを叩く音が、辺りの空気を破裂させて響いて行きます。
「笛…フルートかな?なにか、小鳥の鳴き声のように私には聞こえるけれど、
ドイツ連邦の面々と戦ったフランスの兵士には、恐ろしく聞こえたのかもしれないわ。
前に、ヒトラーを調べたときかな?笛吹男の話を見たのよ。
ちょっと検索できなかったけど、ヨーロッパの戦場には、指揮官の命令を音を伝える笛吹き男がいたんですって…。
この人たち、戦場で笛を吹き続けるだけなんだけど、評価は高かった気がしたわ。
一見、大きな剣を振るう騎士の方が強そうに見えるけど、
笛吹き男は、そんな猛者にも一目おかれていたって、記憶してるわ。
だって、人殺しと砲弾の飛び交う戦場で、丸腰で笛を吹き続けるのよ?
しかも、殺されるわけにはいかないわ。
指揮官の指令が届かなくなるもの。
これ、物凄いメンタルと状況判断力と、瞬発力、責任感が無いと出来ないわ。
多分、戦場の音に紛れないように、高音域の笛を吹くのだと思うけど、
命がけで、この職務を遂行する人って、ぽっと集めた人材では出来ないと思うのよ。
これは、ドイツ騎士団から…チュートン騎士団からの長い歴史のあるプロセイン、ドイツの兵士と、
新しく作り上げられたフランスの兵士では、違いがあったような気がするわ。
だから、『プロセインの栄光』に流れる管弦楽の高音の響きは、私には可愛い小鳥を思わせても、
普仏戦争の関係者には、勇猛果敢に聞こえたのでしょうね。」
作者は目を細めて体格の良い兵士の行進を見つめた。
イケメン…とは書きましたが、190cmの筋肉質な男達が、肩パットの入ったようないかつい革のコートを来て行進しているのです。
それは、とうてい少女漫画にはなり得ない風景です。
作者はそんな兵士を見上げて、何やらびびりながら、黒塗りのシックな白馬の牽引く馬車を見つけて私に笑いかける。
「プロセイン王…ドイツ皇帝陛下の馬車が見えてきたわ。」