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茶色いノート  作者: ふりまじん
近代魔術を語る
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時影、近代魔術を語る 64 西条八十14

月が天頂に近づき、私達を包む月の光が強く、廊下の奥の闇が深く感じられます。

作者は体育座りでコーヒーカップを両手で持ちながら私の横にいます。


やはり、寒さと闇の深さは人を近づけるのでしょうか?


「どこまで話したかしら?」

作者の左腕が私の右腕に軽当たりました。

酔っているのか、当たった部分が温かく感じます。

「金の羊が、牡羊座の事だと聞きました。」

「ああ…そうだったわ。

で、続けるわ。


この牡羊座説、あながち間違いでも無さそうなの。

牡羊座の金の羊は、継母に殺されそうな兄妹を背中に乗せて空を飛ぶわ。

でも、妹は思わず下を見て恐怖にバランスを崩して落ちてしまうの。


トミノの地獄では、妹の姿は書かれてないけれど、雨の中で、鶯が彼女を思って鳴くらしいから、

こちらも、あまり良い状況では無いと思うの。


で、鶯が鳴くと、地獄に花が咲くわ。」

「狐牡丹でしたね。」

私は西条八十とグレンフィディックに幻想的な酔いに誘われながら答えた。

「うん。何となく彼岸花のような赤い花を想像しちゃうけど、検索したら存在したわ。」

作者は感慨深く頷く。


キツネボタン…、キンポウゲ科の多年草で、五弁の黄色い花を咲かせます。


可憐(かれん)な黄色い花でしたね。」

「うん。でも、毒があるんだって。

名前の由来は諸説あるけど、なんか、キツネが名前につく植物は毒があるらしいよ(-_-;)

で、前に見かけた記事に、春の早い時期にキツネボタンが咲くので、放牧された牛がそれを食べて中毒をおこす事故が昔は多かったらしいわ。

ただ、それを書いたサイトを見つけられなかったから、曖昧な情報なんだけれど。


まあ、ともかく、春に咲くキツネボタンが毒草で、春先の植物が不足するなかで牛が誤食する事故があると仮定すると、


トミノの妹も、引き取り先で治療を受けたけれど、副作用で悲しい事がおこったと想像できるわ。


牡羊座の伝説のように、悲しい別れになったのかもしれないわ。


さて、ここで、この金の羊なんだけど、二重の意味があると思うんだ。」

作者は説明に少し困ったように私に苦笑いを向ける


「なんでしょう?」

月明かりをグラスで受けながら私は作者に聞いた。


こんな肌寒いこんな夜は、人が別れる話はより寂しく聞こえるのです。


「キリストさまは牡羊座のだったと思うのよ。

諸説あるけれど、キリストさまは、春分の日に生まれたって聞いたことがあるの。」

得意顔で自分の説に浮かれる作者を見つめながら、私は笑いが込み上げてきた。

グレンフィディックが、懐かしい思い出を含んで、甘さを増したような気がしました。


「なに笑ってるのよ(●`ε´●)

不敵な感じで…。気に入らないわ。」

作者は私を威嚇する。


私は鼻にシワを寄せて抗議する作者に微笑みかけた。

「ふふっ。失礼ですが、シュメールの話を忘れてしまったようですね?」

「へ?」

「キリストさまのシンボルは魚ですよ。

これも諸説ありますが、イエスさまの誕生した時の春分点の黄道宮が魚座だからと言われてます。」

私はそう話ながらウイスキーの甘い酔いに笑いが込み上げる。


「う、うそっ(○_○)!!

アクエリアンエイジとかなんとか、流行ったときに、牡羊座から変わってアクエリアンエイジになるって聞いた気がするわ。」

作者は頭を混乱させながらカップを床に置いて検索を始める。


「アクエリアン…宝瓶宮の事ですよね?

12星座の並びを忘れてしまいましたか?」

私の問いかけに、作者は嫌な顔をして考えはじめた。

「山羊座、水瓶座、魚座、牡羊座…だったわね(-"-;)

確かに、ジャンプしちゃうわね。


歳差運動で、地球の軸は回っているんだったわね。

黄道12宮を逆周りに二千年に一度、宮が変わるんだったわね…


と、アクエリアンエイジの説明で聞いたんだわ。


つまり、20世紀は魚座に春分点があって、

二千年前、イエスさまの誕生日を基準に作られた西暦のはじめが、牡羊座から、魚座に変わった時にイエスさまが生まれたって、そんな感じなのか…

それを、占星術のはじめの星座と混同して覚えていたわけね。私(-_-;)」

作者は眠いのと酔いで一度、あくびをして壁に深く寄りかかった。


「星占いでは、基本、歳差を考えていませんから、

白羊宮が、現在でも春分の星座になっていますからね。」

私も壁にもたれ掛かり、高くなった月を見上げた。


「牡羊座は星座で、太陽の軌道を12に分けてつけられた名称が白羊宮なんだっけ?


ああっ、面倒くさいわね。

ついでに、金の羊が天に飾られたって伝説なのに、白羊宮って…なんだかな。

ふふっ。頭が痛くなってきたわ…。


もう…やだぁ。」

作者は目を閉じて一人で楽しそうに笑いながら眠りについた。


私は彼女の肩の温もりを感じながら今しばらく月を見上げる。


彼女を寝室に運ぶべきか、

このまま起きるのを待つべきか…


グラスに残ったグレンフィディックともう少しだけ思案しましょうか。


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