時影、近代魔術を語る 60 西条八十10
満月の淡い光に照らされて桜の花が滲むように白く輝いて見えます。
それはパール箔の薄紙で天使が作った花飾りのように涼やかで優しい光を放ちながら、時に風と戯れながらヒラヒラと舞い散っています。
私は美しいグリーンのボトルを手に取りました。
グレンフィディック…スペイサイドウイスキーの名品です。
少し昔の記憶ですが、グレンフィディックは、世界で一番飲まれているお酒だそうで、シックな黒ラベルのグリーンのボトルの入った丸ケースのそれは、少し大きなスーパーに行くと良い確率で見つけることが出来るでしょう。
私は、新しいグラスにロックで
作者は近所の名水をトールグラスになみなみと注いで、ティースプーン一杯のグレンフィディックをそこに混ぜる。
「………。よくそれで味が分かりますね?」
私は、色もつかない作者の水割りを呆れて見つめる。
「わかるわよ。ふふっ。
でも、お酒をたしなむ、ではなく、水の味を際立たせている感じかしら?
最近じゃ、こんな田舎でも外国の珍しい水とか買えるけれどね、ぶっちゃけ、水の味なんてわからないもん。でも、うまい酒を少し混ぜると、なんか違うんだよね。」
作者はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
「細かいのは別として、硬水と軟水はわかりますね。」
「うん。ちなみにウイスキーにも、醸造元で硬水と軟水を使っているところがあるそうよ。」
作者はそう言って一冊の本を取り出した。
知識ゼロからのシングル・モルト&ウイスキー入門
幻冬舎発行 著者 古谷 三敏
「これは、本屋で見つけて買ったの。」
作者はそう言って本を広げた。
「飲めないのに…好きですね。」
私が苦笑すると、作者は批判するように右の口角を少し上げて言った。
「ふっ。この本の作者、古谷先生はね、『レモンハート』って作品で、お酒の楽しみ方に流儀は無いと教えてくれたのよ。
私もお酒って沢山飲める人がすごい人なんだと思ってたけど、『レモンハート』のマスターに、自分の好きなように味わえば良いって教えてもらったの。」
作者は表紙に描かれている『レモンハート』のマスターを懐かしい知人を見るように微笑みながら目を細めた。
「まあ…、三日坊主でしたけどね。」
私は、あまり読まれてないその本を見つめて苦笑する。
「し、仕方ないでしょう(///∇///)
ウイスキーって高いんだからっ。
軍資金が必要なんだからっ。」
作者は膨れっ面でグレンフィディックのページを広げた。
「でも…、面白いわね。今は見たこともない読者にウイスキーの知識を披露して、喜んでもらえたら、一杯ごちそうになれるのだもの( ´艸`)
よく西洋の時代劇で、酒場で面白い話をしてお酒をご馳走してもらう、そんなオッサンが登場するけど、私もそんな事が出来るなんて、時代が変わったわね。」
作者は無邪気に喜んでいますが、それでは物乞いです。
「あまり上品とは言えないですよ。昭和40年代じゃあるまいし、自分で買えばよろしいでしょうに。」
私は肩をすくめる。
グレンフィディックが名品とは言え、スーパーで3,000円程度で購入できるのです。
そんな私を作者が呆れたように流し目で見つめてため息をつきました。
「はぁ…これだから。
この作中の北条が蘭子に渡したグレンフィディック25年。ミニボトルで5万円位するんだから。
お酒の好きな方が、あのざれ言記事を読んでいたら、酒を知らない奴だって笑っていたはずよ。
25年もののレギュラーボトルをプレゼントなんて!!」
作者は夢見るようなため息をひとつ、つく。
私は、呆れたようにため息を返す。
「1995年。まだまだバブリーな時代でしたからね。 銀座でドンペリをボトルで頼んだら…
桁が違いますよ。今、その時代の銀座を知ってる人が笑ってますから。」
「ど、ドンペリニョン…(-_-;)」
作者はドンペリに懐かしいバブルの時代へとバットトリップしたように寡黙にうなだれた。




