時影、近代魔術を語る 58
「あー、それにしても、書くって面倒くさいわね(-"-;)」
作者はウイスキーを片手にぼやきました。
現在、我々、三作くらいの話の設定をしてまして…
ここに来て動き始めた近代魔術の北条の話を動かす準備中なのです。
蘭子が夜の女性で、北条はジャーナリストで、
メイガースとクローリーの謎を追わなければいけないので、ウイスキーの知識はある程度入れる必要があります。
「物語を作るのが嫌に…
嫌になりましたか?」
私は、月明かりに染まるおぼろげな作者の姿に焦燥感を感じた。
終わらない話の続きを探して三年目、
まとまらない作品を抱えて、作者はいつも混乱ばかりしているのです。
「嫌に…なってもいられないわよ(T-T)
もうね、リアルの友人にも力強くいっちゃったんだから、なんか、小銭をかせながなきゃ、終われないのよ!
二万円…とにかく、それだけ稼がなきゃ…
いや、稼げなくても、やった感を見せないわけにはいかないのよ…
ネットだって…三年も、こんなの書いて、挙げ句に途中で逃亡したら、もう、誰も信用してくれないわ。
とくに『エターナル』(///∇///)」
作者は酔ったように少し潤んだ目で、懺悔をするように月を見上げた。
「そう…そうですね。」
私はグラスをみつめて、曖昧な相槌をうった。
丸い氷に月明かりが溶けながらボルモアに甘味を加えて行く。
「そうよ!うんっ。
逆に言えば、書ききったら、金はくれなくても、Pvはくれる人が出てくるに違いないわ。
まだ、夢を繋いで行けるんだもん。
頑張るわよ…。」
作者は唇を引き締めて、気合いを入れる。
「酒の知識…特に、ウイスキーについては、19世紀から流行り始めるダンディズムと切り離せないから、この時代の小説を書く人間は、必要な知識なのよ。
お酒は嗜好品であり、
アイデンティティでもあるわ。
登場人物の個性を表すのに、良いアイテムなのよ。
知って損はないわ。
現在では、少し大きなスーパーなら、ボルモアもおいてあったりするし、
この辺りから、私の作品を読んでくれる人が増えるかもしれないものっ。
少し長くなるし、寄り道ではあるけど、
思い付いたところから書いて行くわ。
ボルモア…アエラ・ウイスキーでディアドラの物語を思い出したの。
あれを…これからどうするか、考えどころだけれど、少し…話を聞いてくれる?」
作者は少し熱っぽく私に話しかける。
「ディアドラ…アイルランドの伝説に登場する女性ですね。」
私はアイルランドに生まれ、スコットランドの男を愛した伝説の女性をおもいうかべた。
「ディアドラ…アイルランドの…キリスト教以前のブリテンの伝説に登場する美女なの。
愛蘭土神話郡に登場する女性で、生まれたときから不幸をもたらすと予言者にいわれ、殺されそうになるの。
でも、美人になるって聞いたせいなのか、どうかはともかく、時のアルスター王に助けられて、箱入り娘として美しく成長するわ。
王さまは、自分のお妃にしたかったのでしょうけど、
若い娘のディアドラは、多分、イケメンの青年と恋に落ち、スコットランドへと逃げ出すのよ。
駆け落ちって奴ね。」
作者はそう言って、一度息をついて続けた。
「まあ…日本で例えるなら『矢切の渡し』ってところね。
矢切の渡しは利根川水系の船らしいけど、
アイルランドからスコットランドへと向かうには、アイリッシュ海…つまり海を越えるから、大変だったと思うわ(-_-;)
しかも、王さまのお妃候補を奪ったんだもん。
戦争よ( ̄ー ̄)私、リンダの歌を思い出したわよ。
本当にあるのね、恋のために戦争とか…。」
「山本リンダさんの『狙い撃ち』ですね。」
私は小さな時の作者を懐かしく思い出した。
「うん。リンダの曲って、なんか、今でもぶっ飛んでると思うわ…
自分をお嫁さんにするために戦争とか…激しいわよね(-_-)私は、小心者だし、絶対、そんなの面倒だし、嫌だけど…
リンダなら、そんな男性が出没しても仕方ないとか思えたわ…
と、言うか、ちょっぴりワクワクしたわ…。
いけない(´ヘ`;)なんか、ディアドラが、リンダに思えてきた。」
作者はお酒のグラスを置いて頭をふった。
それから、月の光を浴びて淡く輝く桜を見つめて、ぼんやりとこう呟いた。
「それにしても…不思議よね…
リンダの歌って、激しい歌だったけど、歌っても怒られたりしなかったわ。
でも、百恵ちゃんは怒られたのよね(-_-;)
少し不思議な気がするわ…。」