時影、近代魔術を語る 46
困惑する作者を置いて、私は、ピアノの前に座りました。
チャイコフスキーの楽曲からワルツ「眠れぬ森の美女」を。
さあ、作者の中で眠るキャラクター達を起こして行かなくては。
私が一曲引いている間に、作者が混乱している『パラサイト』の軽い説明をしたいと思います。
『パラサイト』については、新型ウイルスの流行もあり、少し、内容を考えて書きたいと思うので止まっていますが、
これは、『オーディション』と言う作品のアンコールで即興で作り始めた短編でした。
即興で…と、書きましたが、この作品は我々の作品の中で、一番ブックマークを貰った作品です。
思い入れがありすぎて、軽くアンコールを書けなかったのですが、
この一年、構想は沢山していたので、
一万文字の短編を即興で作るのは、それほど難しくはなかったのです。
で、『オーディション』に登場する肉食の蛾の代わりに、繭を作る寄生バチの話にしたのでした。
ここで一曲引き終わり、私は作者の元に戻りました。
「素敵な演奏だったわ。ありがとう。」
作者は私を見て笑った。
「いえいえ。少しは気持ちが上がりましたか?」
私は、作者の席の向かい側に座って彼女に微笑みかける。
作者は私を見て、少し困ったように立ち上がり、
断ちがたい悪癖を告白するように照れながら言った。
「お茶を入れてあげるわ。チョコレート風味のフレーバーティー。
冬は、あれが恋しくなるのよ…。でも、あんまりお茶を飲むのは、あまりいい癖ではないわね。」
「そうですか?フレーバーティーは、いくら飲んでも太りませんよ?」
私は、不安そうな作者を見て、私がお茶を淹れるために立ち上がる。
「ああ…座っていて。
そうじゃなくて、私、話を切り替えるときにお茶のシーンを乱発していて、
いや、パラサイト…で、池上に無意識にそれをやって、池上に悪いことしちゃったから…、少し、やめないとなぁ…なんてかんがえてね。」
照れる作者に私は『パラサイト』の内容を思い出す。
確かに、コーヒーを飲むシーン乱発したのに気がついた作者は、中盤で池上を尿意で悶絶させていた。
「まあ………。でも、上品な怪物、音無の作成のために、こちらはこちらで使うのですから、
飲みましょう。フレーバーティー。
その方が、私たちの場合は話が弾むのですから。 」
私は作者を逆に座らせて、甘い香りのフレーバーティーをいれた。
「さて、パラサイト…の話を少しするわ。
八十の話を続ける前に、これが必要になるんだけどね。」
作者は、温かい紅茶を嬉しそうに口にする。
この人、昔から、旨いものを口にするときは、本当に嬉しそうで、それを見ていると、なんだか私も嬉しくなる。
「うまいわね。時影、アンタ、段々紅茶を淹れるの上手くなるわ。
ともかく、パラサイトを作るために、屋敷に登場人物を集める必要があったのよ。
初めての推理エリアなので、サスペンス要素をいれるために、7年と言うワードを取り入れたわ。」
「失踪宣告に必要な期間ですね?」
私の質問に作者は軽く頷く。
失踪宣告とは、家出など、家族が失踪し、法の手続き…結婚や、財産運用などに支障をきたさないように、ある一定の年月が経過すると、行方不明者を死亡と同じ扱いで、行政手続きを受けられるように出来る制度だ。
「うん。7年…、これにあわせて、ある期間で開花する…月下美人のような花。
7年に一度開花する花を検索したの。」
「で、ヒットしたのがあの花ですか…。」
「うん。ショクダイオオコンニャク…、ラフレイシアの次に…なんか、花芯なんかを合わせると、世界でもトップクラスの大きな花を咲かせる奴がヒットしたわ(-"-;)
月下美人のようなうつくしいのが希望だったけど…
まあ、仕方ないからこれで話を進めたのよ。
まさか、この奇妙な花が、とんでもない展開を引き起こすなんて、考えもしないでね。
実際、花は、登場人物を引き付けるだけの役立ったのだけどねっ。」
作者は嫌なことを思い出したように頭をかきむしる。
全く…
私は、少しこのしぐさを不愉快に見つめた。
私は、金田一幸助のような探偵ではなく、
アガサとポアロのように、上品な会話を楽しみたいのですが…
どうも、それは難しそうです。
ショクダイオオコンニャクを選択した作者は、
この花と共に、虚ろ舟からラピタ人まで話を広げて悶絶することになるのです。
北城と言う名の、パラサイトの登場人物に翻弄されて