時影、近代魔術を語る 43 西條八十7
「で、恥をさらして何が言いたいのかというと、
私、正月辺りで『パラサイト』を書いていたとき、私の頭の西條八十は、フランスに留学していて…
それが1919年の後半辺り立ったので、
夏ホラーで作った『通り魔』の物語と噛み合っちゃうわけよ(-"-;)
1918年11月に第一次世界大戦が終結し、浮かれていたろうフランス。
このとき、メイガースがスペイン風邪で命をおとしたの。
ここで、八十の『トミノの地獄』にスペイン風邪の要素を含ませて考え始めたのよ…私。」
作者は、ため息を一度ついて続けた。
「でもっ…。八十は留学してないし…、日本は1918年から少しずつスペイン風邪に犯されてきて…
誰かのblogに1918年に八十の知り合いがスペイン風邪で亡くなった、みたいな記事を見つけた気がするわ。
とんでもなく間違った事を考えていたけれど…
気がつくと、ゴールが同じだったのが不思議よね(-_-)」
作者は、ココアを口にしながら目を閉じる。
「結果オーライ…って、感じですかね?」
私は、暗くなる作者にわざと明るくそう答えた。
「うーん( ̄〜 ̄;)なんというか…
間違ってなかったら、1916年だったかな?とにかく、メイガースが生きている時にフランスに留学していたと知っていたら、
物語は、グンと魔術の世界に染まったと思うわ…。
それを知った現在、頭の中で、別の物語が走り出しているもの(;_;)
これ、他の人はどうか知らないけれど、結構、頭がふやける感じになるのよね…。
私、天才じゃないけど…、今、頭を凄く使っていると思うわ。
でも、物語の天才みたいに、同じように甘いものを爆食したら、太ってしまうのは悲しいわね(T-T)
頭を使ったら、甘いものを食べても太らないなんて、とんでもない幻想なんだわ。」
作者は私のいれたココアで両手を暖めながらぼやく。
「……。まあ、確かに、でも、貴女だって、私とこうして過ごす時間、
私の差し出すお茶やお菓子をいくら食べても太りませんよ。
そうですね。後でシュトルーデンでも焼きましょうか?貴女の好きなラムレーズンを沢山入れて。」
私は、穏やかに作者に微笑みかけた。
そうです、私と話して口にする物は、決して太ったりはしないのです。
私と一緒なら、ダイエットにだってなるのです。
でも、作者は、それを聞いて一気に青ざめて首をふる。
「………。いや、いいわ…遠慮する(T-T)
時影や私が、作るとなると、リアルで味を試すとか…口実つけて食べちゃうもん。とにかく、今は、お茶だけで。
まあ話を戻すけど、そんなこんなで、私の頭の八十は1919年、パリに留学し、奇しくもスペイン風邪の猛威と、今年の夏ホラーで、彼の物語の代わりにエントリーした『通り魔』の世界へと踏み込んで行くのよ。」
作者は、苦い顔で一気にココアを飲み干すと、自分と言う名の困った人のために苦笑しながら私にこう言った。
「アッサムをお願いできるかしら?」
「ああ…そうでしたね、アッサムも新シーズンを越しましたね。
去年、アッサムの話をしてから、一年が終わってしまったのですね。」
私は立ち上がり、作者に微笑みかけた。
この一年、話は横に増え続け、全く先には進みませんが…でも。
私には、楽しい一年間でした。
西洋の水質では、お茶を濃く抽出するのは難しいのすが、アッサムは硬質の水で淹れても、その存在感を無くしたりはしないのです。
深く甘い香りと色は、英国人をアルコールから、紅茶へと嗜好を変えさせて、
そして、新たな文化を作り出すに至るのです。
コーヒーショップが、19世紀前後に現在のインターネットのような紳士の情報交換の場になるなかで、
家に残された女性たちは、紅茶で社交を広げて行くのです。
クリスティの空想につき合うポアロのように、
私も、新しいアッサム封を切り、あの人と物語を仕切り直しましょう。