時影、近代魔術を語る 44 西條八十4
「君江先生の描く妖精の世界はとても素敵だったわ。
私、冬の童話も考えていたから、妖精のお話を考えていたのよ。」
作者は、嬉しそうに目を細めて微笑んで、少し、心配そうに私を見た。
「その話、少しだけしていいかしら?」
作者は私を見て、大丈夫だと理解すると、今回、作品化しなかった小さな童話の話を始めた。
「私、童話も考えないといけないし、信州と武田信玄も何とかしなきゃいけないから、冬将軍…から、アラクネのカオリの登場する短編を考えていたの。
信州には山や森が沢山あるし、日本の魔女とカオリの話を考えていたわ。
で、君江先生の語るイギリスの妖精をそこに合わせてみたのよ。
イギリスの妖精のピクシーとブラウニーは、裸ん坊の妖精でね、
家事を手伝ってくれるのだけど、服を貰うと家出するらしいわ。
私、両親が亡くなって、実家を壊す事にした女性が、長年、家を守ってくれた小さなブラウニーとピクシーに服を作る話を考えていたわ。」
作者は、嬉しそうに語りますが、やはり、少し変です。
「信州…日本なら、日本の妖怪でいいのでは…、
垢なめとか、小豆洗いとか…」
と、聞いてみた。
作者は、そんな私を批難がましくちらりと見て、
「いいのよ…。これは、ジャンと中央フランク帝国の話の習作でもあるんだから(;_;)」
と、嫌な顔をした。
そうでした。
信州と武田信玄は、中央フランク王国を考えるためのものでした。
「そうでしたね。」
私は、話の腰を折ったことを反省した。
「はぁ…。そうなのよね…。
私、冬の童話を考えながら妖精の本を読んで、
別枠で、パラサイトの続きを考えてるんだから。
冬は、頭が痛かったわ…。あのときは、私の頭がおかしいとか考えたけれど、意外とみんなそんなものかもしれないわね。」
作者は、ため息をついて、話を続けた。
「とりあえず、本を読みながら、童話を考えていたんだけど、
君江先生の語るイギリスの妖精の話は、なかなか興味深いものだったわ。
イギリスの妖精の世界には、いくら食べても肉が再生するブタが登場するけど、
北欧神話のワルキューレにもそんな猪が登場するし、
妖精の世界の食べ物を摂取すると、もとの世界に帰れないと、言うのもギリシア神話のベルセフォーネとハデスの話を思い出すわ。
こんなところに、人の行き来を感じたりして読んで行くとね、
既視感をおぼえたのよ。」
「それが、『トミノの地獄』と、言うわけですね。」
私が言うと、作者は頷いた。
「うん。この詩については、是非、図書館で西條八十『砂金』と言う詩集をさがして見てほしいわ。
ネットでも手軽に調べられるけど、図書館は、貸し出しの履歴とかで本棚か書庫行きがが決まるから、ぜひ、借りてあげてほしいわ…
ともかく、『トミノの地獄』の詩の内容なんだけど、
ネットでは、トミノは富野ではないかと予想されているわ。
でも、それだと、姉と妹も登場するから不自然なのよ。
この詩が書かれたのは大正。子沢山な時代だわ。
五人兄弟が珍しくない時代に、主人公だけを名字で言うのはおかしいと思うのよ。」
作者は、眉をよせる。
「トミノは外国人、と、言うことですか?」
「うーん(-"-;)分からないけど、和洋折衷の異世界なんだと思うわ。
この詩は、鴬が登場するけど、ギリシア神話を思わせる金の羊が登場したり、西洋風味がするのよね。
少なくても、日本の地獄とは違う世界観だと感じるわ。」
作者はそう言って、一度言葉を区切る。
「君江先生の妖精の話を信じるなら、
イギリスの妖精は、異世界に住んでいて、それは人間の世界と地獄の間にあるらしいの。
やはり、地下にあって、地面の下へと進むらしいのよ…。
それを読んでいて、私、トミノの地獄の世界を思い出したわ。
地下の世界へと向かうトミノ。
不気味な世界だけど、日本の地獄の残酷さが無いのは、妖精の世界のイメージを八十が取り入れたのだからだ、と、考えたのよ。
で、そこから、調べ始めるとね、八十は、砂金を発表したあと、フランスに留学しているのよ。
留学したと言うことは、西洋の文学も学んでいたはずだから、
あながちトンチンカンな話でもないと考えたわ。」
作者はそう言ってため息をついた。