作者、近代魔術を語る 31 通り魔
切り裂きジャックのイメージをある程度作り上げてみると、はじめの予定から随分と変わっていた。
悪魔のような、倒錯した一匹狼の殺人鬼から、複数犯になり、
病院を絡めなければいけないので、ここでジルと言う精神科の医師が登場する。
病院を調べているときに見つけたフロイトのエピソードから、催眠術が物語に加算される。
心理治療に催眠術が利用されていたのを知り、私は、昭和の冒険物語を思い出していた。
催眠術で患者を殺人マシーンに変える。
思った瞬間、「これはないわ。」と、自分突っ込みが入る。
が、それと同時に、子供の頃のワクワクを思い出す。
もう、元がなんだかわからない程、このパターンの話を見ていた気がする。
怪しい奇術師に味方の女性が、催眠術をかけられて探偵を殺そうとしてみたり、
哀れな兵士が味方に襲いかかってみたり、
ヒーローが悪の組織に洗脳されたり。
なんか、懐かしいなぁ( ̄▽ ̄)また、読みたいかも。
なんて欲求もつき上がってくる。
催眠術と同じくらい使われた設定に、改造人間がいた。
人工のエラがつけたれた半魚人やら、美しい人魚は、軍のマッドサイエンティストがもたらした悲劇的な物語で、美しくも物悲しい悲恋ものは、内容を忘れてしまった今でも、眩しい光の残像のように胸をときめかせる。
ちょっと、遊んでみようかな?
気持ちが少しだけ動いた。
サルペトリエール病院はパリにあるので、イギリスで似たような病院を調べてみた。
ヒットした。
ベスレム王立病院。
1247年に建設され、19世紀には、精神病患者が見世物にされたりした。
この病院の陰鬱な話は、1815年に新しい建物になる辺りから改善されて行くようだが、長い年月の嘲笑や悲鳴が染み付いているように、不気味なイメージが私の頭のなかで作り上げられていった。
催眠術をかけた人物をフランスからイギリスに渡らせるより、かける側のジルを動かしてみることにした。
半魚人の改造人間のイメージが、ジルを悪魔の実験に駆り立てる、怪しげな軍の悪役を作り出す。
ジルがマッドサイエンティストか、それとも、妹を人質に取られた哀れな天才か、その辺りを決めるまで、この設定は育たなかった。
まあ、仕方ない。
催眠の暗示では、人を殺させたりは出来ないからだ。
人は、心から拒絶したい内容には従わないし、暗示はかからない。
これが、現在の基本の考えだったと思う。
私が物語を投稿するのは、21世紀のなろうで、私がいまだに異世界のテンプレが良くわからないように、
ここの読者は、改造人間やら、催眠術のお約束なんて知らないのだ。
いきなり、切り裂きジャックの従来のイメージをぶっこわし、あげくに、昭和のお約束を引っ張り出して催眠術にかかった犯人なんて作り出したら笑い者になるだけだ。
ここで、最近の昭和の名作リメークがイマイチ気に入らなかった理由が分かった。
確かに、昔はそうだったとしても、その世界を構成する原理は、21世紀にあわせて話を作らないと滑稽で、話にのめり込めずにコメディ化するのだ。
つまり、作中のジルが、催眠術を使って、哀れな患者を殺人鬼に仕立てあげたとしても、作者の私は、21世紀の読者が納得する現代の理屈を匂わせておかないと、面白くないのだ。
面倒くさい…(-_-)
どうしょうか……。
モヤモヤしているうちに5話は書いていて、捨ててしまうのも忍びない。
さて、どうするか?
この辺りで、物語の分岐が複数みえて来ていた。
魔術の関連のエンディング
マッドサイエンティストのエンディング
サイコな風味の物語。
混乱しながら、私はふと考えた。
アンドレ、生きているんだろうか?
近年、心理学の発展は目まぐるしく変化してきていた。
ほんの一昔前、私は、オカルト関連の本で、多重人格とは、沢山の霊に取り憑かれた人だなんて話を見たことを思い出した。
悪魔つきや、狐つき、憑依現象が、まだ、心理学より認知度が高い時代だった。
その時の記憶がよみがえってきた。
心を病んだ人は、アストラル界に魂が浮遊しているんだ、なんて、馬鹿げた理論を思いだし、
私の物語の主人公は、果たして、精神病患者なのか、
それとも、審神者なのか、
判断がつかなくなってきた。
アンドレは、もしかしたら、事件に巻き込まれて亡くなっていて、それを思い出したら、存在できなくなるのかもしれない。
ジルは、陰鬱な歴史のある建物に集まる霊を催眠で患者に憑依させたのかもしれない。
そんな事を考えて、不思議な気持ちになってきた。
物語の終盤で、まさかの主人公、誰なんだ!?
と、混乱する私。