魔法の呪文東欧考察4
「6万よ…やっと、6万文字を越えたんだわ(;_;)」
作者はそう言って叫んだ。
私は、華やかな薔薇のジャムの紅茶をいれて差し出した。
「おめでとうございます。」
「うん。おめでとう。あと4万字頑張ろう。」
作者は嬉しそうに微笑んで、紅茶を一気に飲み干した。
「でも…、物語はまだまだ中盤ですから、気を付けないと。」
私は、紅茶を飲みながらこれからの事を考えていた。
予定したあらすじから、少しづつ変更されています。
初めの連載から三年目、何とか物語を続けて書いてはいるけれど、楽な道ではありません。
「うん。本当に死にそうだよね(T-T)
はぁ…まさか、ヴィーナオーパンバルが1877年からなんて、思わなかったし……。」
作者はため息をつく。
「そうですね。あれは変更までが大変でした。」
私は苦笑して作者に同意した。
「まあ、ね。それでも、いきなりファンタジーに殴り込まなくて良かったと、そうは思うわ(´ヘ`;)
世界って、物凄く複雑に出来ているんだもん。
10年違うだけで、状況は一変するんだわ。」
作者は顔をしかめ、私は、紅茶のお代わりを少し濃いめで熱くいれる。
「確かに、2年をかけたのは、webと言う変化の激しい世界では、良いことかどうかはわからないですがね。」
「ふっ…。web小説家はどうあれ、私たちには、2年は長いわ。
車を運転できるうちにお金を稼げなくては、意味がないんだから。」
作者はほろ苦いものでも口に含んだように、目を細めてテーブルを見つめた。
「………。まだ、そんな年でもないでしょうに。」
私は、少し言葉に詰まりながら、それでも、力を込めてそう言った。
作者は、何か、言葉を口にためているようだったが、最終的には紅茶と一緒に飲み込んだ。
それから、ため息を吐きながら天井を見つめて、右手で頭を軽くかいてなから、気持ちを切り替えて私を見た。
「まあ、2年前は七転八倒だけど、今は、七転び八起きにまでは成長しているわ。
更新が変則的なのに、ブックマークも減ってないし、終わりの文字を書くまでは、頑張るわ。
まあ、ジャンヌダルクにせよ、ジャンの話を作るにしても、オーストリア史を確認できたのは、良かったと思うわ。
やっぱり、何かしら、書いた方が、資料を読むより頭に入るもの。 」
作者はそう言って苦笑した。
「そうですね…。まあ、そう言うことにしておきましょうか。」
私も、そう苦笑で返した。
1877年に物語を設定するにあたって、私たちの最初の話が使えなくなったのです。
一番の失点は、ゾフィー大公妃の死亡でした。
当初、私たちは、エリーザベトとゾフィーの嫁姑問題に翻弄される話を考えていたのですが、1872年にゾフィー大公妃が亡くなっているので、使えなくなったのです。
「そう言うことって…。はぁ…。まあね。まさか、ゾフィーが死んでしまうなんて考えもしなかったわ。
まあ、落ち着いて考えれば、確かに、納得いく流れなんだけれどね。
アウスギライヒ、オーストリア=ハンガリー帝国の成立が1867年。
それから、約5年。大統領選挙が大体4年に一度にされてるんだから、何となく、政治が落ち着いて方向性が出来てきた頃よね?
そう考えると、ゾフィー大公妃の死因が、きな臭くも感じるのよ。」
作者は暗い顔で私を見た。
「確か、観劇の帰り、暑さのために薄着で眠って肺炎になるのでしたね?」
「うん…。で、その病に倒れた大公妃を看病したのが、エリーザベト皇妃なのよ(-_-)
昼ドラ好きとしては、やはり、ここはドロドロ展開を思ってしまうわ。」
作者は、天井を仰ぎ見る。
婚約当初から、いさかいあった嫁と姑。
その為に体調をくずし、ウィーンを逃れて旅歩いたエリーザベト。
彼女が、肺炎になったからと急に看病する、なんて言い出したら、周りの人間が警戒するのではないだろうか?
ハンガリーとアウスギライヒを結んで、やっと落ち着き始め、もしくは、問題点が出てくる頃だ。
そんなときに、バイエルンやドイツ系の人間の利益を守ろうとした王妃が急に病気になり、
ハンガリーの独立に尽力する皇妃が、急に看病なんて言い出したら、下の人間の思惑だって動くだろう。
しかも、老衰ではなく、急な肺炎なんて、
怪しく感じるのは、我々だけでは無いはずだ。
まあ、逆に言えば、そんな噂から、ヨーゼフ一世がエリーザベトを守るために看病をさせて、美談とした。と、言うのが一番落ち着く感じがする。
「まあ、確かに、色々想像は出来ますからね…。
でも、我々は、童話を作るのだし、皇帝陛下は登場しませんから、考えるのをやめましょう!
6万字ですよ。本当に、誰が評価してくれなくても、私は、凄いとおもいますよ。」
「うーん。まあ、問題だらけだけど。」
「でも、もう少しですよ。10万文字。
私は、あなたと、10万文字到達を喜びたいのです。
ファンタジーを重視して、駆け抜けましょう。」
私は、声に自然に力が入るのを感じながら、作者を励ました。
小説を書いていて、10万文字を書ききると言うのを例えるなら、少し高い山を上るようなものだと思うのです。
コツコツと積み上げた、文章のその先に、きっと、まだ見たことの無い世界が広がっているのかと考えると、ここで止まるわけにはいかないのです。
不安にかられて道を間違えたら、遭難してしまうかもしれません。
気をしっかりともって、10万文字を目指すのです。
「うん…。確かに、そうなんだけれど、ね。
マジで、この時代、ろくでもないのよ。
まだ、正確な時代を設定してないけどさ、
気を緩めると、第一次世界大戦の前に、1889年ルドルフ皇太子の死に引っ掛かるのよ(T-T)」
作者は、なんとも言えない渋い顔を私にした。
「ま、マイヤーリンク事件ですか………。」
私は、この時代の晴れやかさと闇を感じながら、困り顔の作者を見つめ返した。