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悪夢物語

自殺スポット

作者: 暮 勇

 その駅は有数の”自殺スポット”である。

 渓谷の間に架けられた駅で、夜になれば駅員すら居なくなる小さな駅だ。

 しかし、田舎の町と町を結ぶ特急電車が通るため、夜遅くてもそこを”通る”電車はある。

 駅を通過する電車があるからか、それとも深い谷が駅の下にあるせいか。

 その駅では、特に若者がよく身を投げることで有名であった。

 皆10代の学生の様で、学生割引の切符を手や衣服から見つかっている。

 ”そこに行けば苦しまず、迷わずに一瞬で死ねる”

 そんな噂が立っていた。


 ある大学生の若者が、興味本位でその噂の駅に立った。

 彼は”自殺スポット”であるのと同時に、死んだ者が出てくるという所謂”心霊スポット”としても有名なその場所に肝試しに来たのだ。

 噂では、電車に轢かれ、あるいは渓谷に身を投げた者の体が千切れ飛び散り、谷の底で誰にも拾われずに放置される。

 それを恨んで、化けて出てくるという。

 本当であれば、自ら命を絶とうとしてここに来た者にしては何とも身勝手な恨みであるように思えるが、それがこの若者の興味を一層惹いた。

 物語として完成されていない不自然さが、妙な現実味を引き立たせていた。

 若者はしかし自殺志願者を間近に見るかも知れないということを懸念していた。

 死んでもいいと思っているのだ。

 もし鉢合わせしてしまえば、何に巻き込まれるか分かったものではない、と自分可愛さでの心配であった。

 そこで彼は一計を案じた。

 山の中、草木に紛れるように存在する駅である。

 駅の中にも自然と除去しきれない木立や草むらがホームに身を乗り出していた。

 彼は自殺志願者が少ないであろう昼間に行き、駅全体が見える角度の木陰を探し、そこにカメラを隠した。

 そのカメラで数日分の駅の様子を撮り、後日回収しようという魂胆であった。


 3日分の動画を撮り終え、彼はカメラを無事回収し満足した。

 早速家に帰り、その動画を確認した。

 初日・2日目は昼夜何も映らず、彼は肩肘をつきつつ、つまらない思いで画面を眺めていた。

 しかし最後の3日目に、あるものが写っていた。

 それは夜11時頃であった。

 夜電車から1人が降りたかと思うと、降りたホームの線路側とその後ろに広がる鬱蒼とした谷の方を行き来する男が映っていた。

 街頭と呼べるものがほとんど無いが、元々夜に撮影することを考え、夜間の撮影が可能な状態に設定していた。

 男は小柄で、カメラ越しに見てもその幼さが見て取れた。

 その男は考えあぐねている様子で、何本もの電車を口惜しそうに見送っていた。

 時間が12時を過ぎ、通る電車も無くなってきた頃、画面が動いた。

 男が谷の底を柵越しに覗き込んでいる時、彼の左脇の草むらが乱れた。

 かと思うと影が飛び出し、男の背後に立った。

 その影は男の影の3分の2程の背丈しかなく、屈んでいるかのように見えた。

 そして、異変に気付いた男が振り向いたかと思うと、2つの影が重なった。

 そのままもみ合ってい、遂に男は上体を持ち上げられ、柵の向こうに落とされた。


 カメラにマイクが付いていなくて良かったと、画面の主は目を瞑った。

 彼は幽霊どころか、殺人を見てしまったのだ。

 彼が呆然と画面を見つめていると、ホームに残った影が近づいてきた。

 ふらふらと吸い寄せられるようにカメラに小さな影が向かってくる。

 彼は画面ごしにも関わらず、腰を浮かせ後ずさる。

 そして画面いっぱいに、一瞬、顔が映った。

 皮膚が垂れ、皺だらけの顔がさっと横切った。

 彼の体が部屋の端の壁まで後ずさる。


 壁に背が着いた時、左手にある玄関のインターホンが、鳴った。




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