表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第二話:目論見

 次の日の昼休み、舞台は再び屋上。一名の抗議はあったが、人目に付かないという理由と依頼された立場を利用して押し切った。

 役者も同じ。ただし、すでに学屋でササッと飯を済ましてるし、何より演目が違う。

 昨日はドタバタコメディ&アクション、今日はシリアスな会話劇だ。

 もっとも、どっちに転んでも、すぐにサイレント劇に変わるだろうけどな。


「さて、城崎さん。明日華からはどこまで聞いてる?」

 

 そう切り出す俺に、城崎が思い出すように上を向き、手にしたメモ帳に筆を走らす。渡された紙には、「ちょっと話したいことがあるとしか……」と丁寧に点々付きで書かれていた。

 軽く額に手を置き、明日華を見れば軽く肩をすくめるのみ。その視線は明確に、正通《お前》の台詞だと言っていた。

 事前に打ち合わせしとけよ。と、言いたいのは山々だが、如何せんつい昨日、屋上の件でお目こぼしを頂いた身だ。ここはおとなしく従うとしよう。

 ……依頼、前提、本題の順番で行って、あとはアドリブで何とかするしかないか。話すべきこと、話す順番、そして、話し方を頭のなかで雑にまとめて、口を開く。


「あーそうだな、まずは城崎さんに一つ依頼(お願い)がある」


 俺の言葉に城崎が首をかしげる。いきなり呼び出されて依頼となれば、そりゃそうだろう。

 お陰で俺が慣れない演技と長台詞を考える羽目になる訳だ。まったく、嬉しすぎて泣きそうだ。


「まぁ、昨日の件で分かっただろうが、あんたのいるD科のお友達は驚くほどに冷たい、冷血だ。ありゃ、ポンプの入った死体だな。だが、幸か不幸か――まぁ、不幸なんだが。そこに居る明日華は例外でね。とびきりお節介焼きなんだよ、君みたいなのには特にね」

「おい、正通マサ


 俺の言葉と、そして怯んだ城崎の表情を見てだろう。明日華が責めるように口を出してくる。が、それを無視して言葉を連ねる。俺の台詞は終わっていないし、俺に任せたお前が悪い。


「こんな言い方していてなんだが、別に責めたい訳じゃない。俺が言いたいのは、それを理由に遠慮するのは止めてくれ。以前にもそういう奴が居たんだが、明日華こいつは妙に鋭い上にしつこい。遠慮したが最後、本音で話すまで君から付いて離れないだろう。はっきり言って、時間と労力の無駄だ。もちろん、本当に嫌ならそう言ってくれ。それなら、明日華も諦めるだろうし、何だったら俺が止める」


 さすがにここで一息、間と言うのは大切だ。何より、これ以上は俺が酸欠で倒れちまう。

 明日華(監督)も不満そうに見てはいるが、俺に任せることにしたらしく、口を挟むことはない。


「回りくどくなったけど、依頼は一つ。城崎さん、正直に答えてくれ、オーケー?」


 大仰に首を傾げて尋ねると、城崎がコクコクと頷く。

 とりあえずは怯えてる様子はなさそうだな……やれやれ、前みたいにプレッシャーを与えないよう、努めてコミカルに振る舞った甲斐はあったらしい。

 内心でほっと息を吐きつつ、「良かった」と満足気に頷きながら、話を続ける。


「さて、ようやく本題と行きたい所だが、そうもいかなくてな。これは口外しないで欲しいんだが、俺は目の悪魔憑き……いわゆる魔眼持ちだ」


 俺の告白に城崎は特に動揺することもなく、話を続きを待つようにこちらを見てくる。

 内心、ここで断られる事も可能性を考えていただけに、この態度は拍子抜けだ。

 魔眼持ちってのは、忌避されるのが相場なんだが……一応、昨日は俺も手助けしたし、多少は信用されてるのかね。


「役所の登録名は、"目は口ほど物を言うアイ・コミュニケーター"。能力は読んで字の如く、アイ・コンタクトの強化版――視線での会話だ。当然、そこに声は必要ない」


 俺の言いたいを理解し、城崎が目を見開く。その近くで明日華は口元を隠しながらあくびをする。

 そりゃ、お前には退屈な話だろうが、そもそもお前の頼みで話してるんだけどな……!

 あとで絶対これをネタに責めてやる。そう心に決めながら、本題に入る。


「そこで、だ。城崎さんさえ良ければ、この魔眼《目》で通訳をしようかと思うわけだ。と言っても、先に頼んだ通り、基本俺はこの魔眼は隠してる。なんで、とりあえずはそこに居る明日華相手だけに――」

「もちろん、彼とお話しても良い。一見、無愛想だが、ここまで聞いて貰った通り、意外と話し好きだから、喜んで話してくれるだろう」


 ここぞとばかりに明日華が台詞をねじ込む。否定したい所だが、ここでゴチャゴチャそのしても面倒くさいので、何も言わず城崎の返答を待つ。もちろん、苦い顔をするのは忘れなかったが。

 やり取りを聞いて、城崎は俺の仏頂面と明日華の微笑を見比べるように三往復した後、マグネットボードにペンを滑らす。

 カンペに書かれた文字は四文字、良いの? だ。思わず、俺も明日華も苦笑してしまう。


「それはついさっきの俺の台詞だよ、城崎さん。大体、最初にお願いしただろう、どうしたいのか正直に答えるだけで良い。遠慮はなしだ」

「そうそう。どうせこの男は、部活にも入っていない上に友人も少ないお陰で、いつも暇してるんだ。優妃さんみたいな美少女とお話できる方が、その乾いた人生も少しは潤う」

「カッ、自分だって男の一人もできたことないくせ良く言う。乾いてるのはお前の肌だろ。と、話がそれたな、それで、城崎さんはどうしたい?」


 明日華に軽く言葉のクロスカウンターを入れつつ、反撃されないよう話を本筋に戻す。

 美少女と言われたからか、かすかに顔を赤めながら、「よろしくお願いします」と書かれたボードを俺に見せる。

 ……なんか、俺が告白されてるみたいで良いな。


「何をポケッとしてるんだよ、君は」

「告白された気分を味わってるんだよ。砂漠のような人生の数少ない恵みの雨だ。放っておけよ」

「口が過ぎたのは謝るから、話を先に進めてくれ」

「オーケー。それじゃあ、城崎さん。ちょっと練習してみよう、今から俺が魔眼こいつで、メッセージを送る。だから、聞こえたら……って言う表現はおかしいな。うん、伝わったら右手を上げてくれ」


 城崎がコクリと首が縦に振ったことを確認し、手早くその薄青色の瞳に視線を向ける。

 そうして、手を開くように、膝を曲げるように、息を吐くように、自然とそれを行使する。

 ピリリと痺れるような感覚も、熱ばむような感覚もない。ただあるのは手を握り、足を上げるのと同じ、それが成ったという確信めいた手応え。

 しかして、城崎が両手を上げる。そのおどおどした様子の瞳は、教師の質問に答えたときのような不安に揺れている。


「正通、また意地悪したな」


 しょうがない奴だ、とでも言いたげな瞳。と言うより、実際にその目は雄弁にそう語っていた。


「カッカッ! いや、悪いなー城崎さん。通じることは分かった、手を下げてくれ」

「城崎さん、怒っても良いんだよ。この男、こうやって確認するたび、口にした方の反対の言葉を伝えるんだ。さしずめ、左手を上げろとでも言ったんだろ」


 依然、不安げな様子の城崎に明日華がネタバラシをする。

 話を聞いてさすがにムッと来たのか、城崎が素早くマグネットボードからペンを取り外す。


「おっと、抗議ならこいつで頼むよ」


 書くのを邪魔するようにボードに左手を被せ、右手で自分の目を示す。

 言葉の意図をすぐに理解し、城崎が顔を上げて、俺をジトッと睨む――が、その視線をいったん躱す。

 チラリと横目で様子を見れば、睨むのに加え額にシワを寄せている。本人は精一杯やっているのだろうが、元が元だけにちーっとも怖くない。

 ただし、もう一人が洒落にならない表情になっているので、話をさっさと進めよう。


「ちょっと待ってくれよ、城崎さん。あと、明日華も落ち着いてくれ。この目で話すときに注意することがあるのは知ってるだろう」


 そう言って笑うのを止める。ここまで遊んでおいてなんだが、この話は割りと重要、不幸の原因となりうる。


「伝えたいこと、伝えたくないこと、この二つをちゃんと意識しておいてくれ。じゃないと、城崎さんのスリーサイズ、恥ずかしいテストの点数なんかも聞こえてしまう可能性がある。実例を言えば、小さい頃の話だけど、明日華の蒙古斑――」

「余計なことは言わなくて良いだ!」

「……と、このように当時も同じように俺は怒鳴られ、おまけに頬に手形が残った。お互いにとって良くない事になる訳だ。……そうだな、そこまで難しいことじゃないが、もし万が一が怖いなら……余計なお世話か」


 話の途中からまたこちらを睨み始めた城崎を見て、肩を竦める。

 やれやれ、外見や普段の素振りからは想像つかない度胸だな。

 そう思いながら、俺はほんのり鋭くなった瞳に対し、先と同じように目を向けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ