第参拾捌話 衝撃
ちゃーーんとSBBと一緒に更新しました。褒めて。
???
第1演習艦隊旗艦 戦艦『大和』
艦橋
『船団に動きあり・・・30隻が南下、5隻が我が方へ近づく。的速10ノット、相対速度22ノット。』
「5隻・・・?何故そんな数で。」
上空のヘリが捉えている“敵情”は、不可解を極めた。
数十分前、主力と思われる後続部隊と合流した敵船団は、その行き脚を長らく止めていた。それが今になって動き出したのだが、こちらに向かってくるその数がわずかに5隻と言うのは、どういう事なのか。
ちら、と蔵斗が横目に伊藤をみると、唇を曲げ、顎に肘を当てていた。―――相手の意図を、図りかねているようだった。
「殿をおいて、人質を連れて逃げるつもりでしょうか?」「それであれば、すぐ追撃しなければ!囚われている国民を救助出来なくなる。」「いや、交渉役かも知れぬ。」
様々な意見が飛び交う中にあって、艦隊司令長官たる伊藤1人だけが、ただ悠然と構えていた。
「・・・。」
蔵斗の目には、彼が既にその心中で何らかの答えを導き出しているのだと悟った。(同時に、それが真に正解なのかを考えているのも理解した)
そしてそれを、伊藤の腹心である武塔参謀長も分かっていた。
「何か、考えがあるので?」
武塔は伊藤に耳打ちする。
「考えというより、考察だな。」
「そうですか。」
うむ、と伊藤は頷いて、彼は話を続けた。
「私はあれを、殿だと思っているんだ。数分前まで動きが無かったのは、人質や怪我人を別の船に乗せる為なんじゃないかと思ったんだが・・・武塔くんはどう思うね?」
話を振り、自身の参謀長である武塔の意見を求める。
「実は、私は交渉役では無いかと踏んでおります。足を止めたのは負傷者を載せ替えるためでは無いかと。あれだけ叩いておいて尚向かってくるなど、言葉は悪いでしょうが・・・それは馬鹿か阿保のやる事です。」
「私だってそう思う―――だがねぇ・・・。」
ふう、と一息吐いて伊藤は顎に手を当てる。
「“戦列艦”・・・。」
「は?」
突然そんな事を口にした伊藤に、武塔は驚きを隠さなかった。
「あの“敵船団”の多くが帆船・・・それも舷側に大砲を幾つもしつらえた戦列艦だった。」
伊藤は、無人機やヘリからデータリンクを通じてリアルタイムで送られてきた映像を思い出していた。
「確かにそうでしたが・・・。」
その映像に映っていたものの多くの船が、全長100mにも満たない船体の、両舷に砲煩兵器をこれでもかと並べた帆船であった。
その様は、確かに伊藤の言った様に“戦列艦”という“軍艦”そのものではあった。だが・・・
「あれは戦列艦というより、急ごしらえの戦船では無いでしょうか。海上武装強盗にしては重武装とは思いますが。」
「まぁ・・・そう言われればそうだ。ただし、どちらにせよ接触は避けられん・・・艦長!」
「はっ!」
「上空待機中のヘリ部隊を収容した後、1-4-0へ変針。接近中の船団と接触を図る。」
「交渉ですか?」
蔵斗は確かめるような口調で聞き返していた。彼としては、てっきり目標船団と交戦するのではと思っていたのだ。
「そうだ。・・・復唱はどうした?」
ビクッと肩が跳ねるのと「あっ」素っ頓狂な声が出るのはほぼ同時だった。上官の命令に対して聞き返すとは何と馬鹿な事をしたのだろう・・・。
「り、了解、針路を1-4-0に取ります・・・航海長、針路1-4-0、取り舵!」
「よーそーろー・・・。」
上官であるはずの蔵斗の、未だ幼いとすら思える年上の航海長は、笑いを堪えながら舵を切った。
その矢先・・・
『艦橋、こちらCIC!目標船団5隻、レーダーより消滅!反応ありません‼︎』
「何っ⁉︎」
最初に声を上げて反応したのは蔵斗だった。次の瞬間にはがっし、とマイクを取りとんぼ返しに聞き返していた。
「消えたとは 、どういう事だ!ジャミングか?もっと明瞭な報告をしろ!」
『明瞭と言われましても・・・!突然レーダーから反応が消えたんです。ジャミングではありません!』
「どういう事だ・・・。」
たかが海上武装強盗と侮ったか・・・⁉︎
しかし軍隊相手にECMを受けた結果であるならまだしも(それでも納得できる状況では無いが)、所詮はゴロツキに過ぎないはずの海上武装強盗がそんな高度な技術を持っているとは余りにも現実離れしていると言わざるを得ない。流石に、そればかりは彼らに非はあるまい。
「落ち着け。・・・ レーダーから消えたからといって、それそのものが消えたわけでは無い。先刻までのデータを収集し、目標の未来位置予測に努めよ。対水上警戒を厳となせ。」
何でそんなに落ち着き払っていられるんだ・・・⁉︎という心中の驚愕を内に留め、蔵斗は伊藤の命令を実行する。
「り、了解・・・CICは目標の未来位置を予測、レーダー各員も些細な変化を見逃すな。」
緊張の面持ちもそのままに、そして緊張した声色とともに蔵斗は指示を飛ばす。手に取ったマイクを置く手は、自分でも分かるほどに、ガチガチだった。凄まじいまでに緊張している。というかこんな状況―――目標が突然レーダーから消えるなんて言う非常識な自体―――になって緊張しない人間を蔵斗は殆ど知らない。
『―――“タイタン”各機、1番機より着艦開始。本艦12時方向距離0.3浬、高度300フィートより進入。』
そんな折に入って来た航空管制室―――『大和』の、かつて後部艦橋だった所だ―――の報告は、蔵斗に一瞬の安堵を生み出した。
非常識極まる報告(そも戦場は非常識だが・・・)を立て続けに受けた直後に、そんな普通の報告を受けると、こうも沈着になれるものか。
それにしても全く、こんな些細な報告に一々目くじらを立てたり安堵したりと、不甲斐ないというか意気地無いというか・・・これがよく親父が言っていた「精神力が足らん」という奴なのだろうか?
「軍人はね、適当に臆病なくらいが丁度いい。」
「!」
蔵斗の心中を察したか、伊藤はそう切り出した。
「気が強く勇ましいというのも良いが、あんまり過ぎると相手を侮り、軽んじることとなりかねん。まぁ臆病すぎるのも考えものだがね。」
「はぁ・・・。」
「君は新人だが、良くやっている。気負い過ぎるのは逆に己の視野を狭くするぞ。」
「は、はい・・・。」
バツの悪そうに頷く蔵斗を見て、艦橋の各員の口元は笑んだ。別に彼を嗤ったわけでは無い。戦艦の艦長とも言う位のある人間がまるで子供のように諭されている様を面白可笑しく感じたものもいたが、多くはそうでは無かった。軍艦という閉鎖された空間で、何処か和んだ空気を漂わせた所為であろう。
「―――長官、新人教育も結構ですが、流石に今では無いのでは。」
武塔が冗談半分、本気半分といった具合で伊藤に言う。
「まぁ、そうだがね。」
伊藤は視線を上げ、前方を見やる。武塔はそれを、彼がバツが悪く言い返せない時によくやる仕草であることを知っていた。
『―――目標の推定座標を算出・・・接触まで推定25分。』『上空警戒中のヘリからの報告は未だありません。』
そんなやりとりをする間にも断続的に入る報告は、特に大きな変化を告げる事もなかった―――しかし、事態というのは刻一刻と動くものである。だが変化を告げるその報告は、艦の中枢たるCICからでは無く、艦橋見張りからであった。
『こちら艦橋見張り・・・前方の景色が、歪んで?いる。レーダーでは何の異常は無いか?』『こちらCIC。対水上、対空レーダーに異常は無い・・・いや、カメラに捉えました。』
(なんだ・・・?)
何をいっているかよく分からない報告の交錯に、蔵斗は眉を潜めた。
艦橋見張りは前方に不審な何かを見つけたようだった。彼もそれに習って身を乗り出し、前方に目を凝らす。ともすれば双眼鏡でも使ってやろうかと思っていると―――
「・・・何⁉︎」「「「⁉︎」」」
蔵斗ならずとも、その目は驚愕に染め上げられる。
空間に突然、五つの光が生じた。
光は光球となり、三つに分かれてグルグルと回転を始める・・・次第に、そのスピードは速まっているようだった。
回転する光球はもはや輪郭を失い、まるで光の輪の様になった。
『艦隊中央に正体不明の発光体を確認!』
ヘリからの報告に、この光景を目にしているは自分達だけではない事を彼らは認識した。しかし、だからと言って状況が変わる訳ではない。直径100mはあろうかという巨大な五つの光輪はなおも『大和』の針路を阻んでいた。
その後輪が一瞬、激しく瞬く。
「・・・!面舵ッ、面舵一杯‼︎主砲旋回、あの光輪に向けろ!」
次の瞬間には、蔵斗は命令を下していた。目もくらみそうになる強烈な光は彼の顔に深い影を落とし、その表情を一層に険しく見せていた。
「ヨーソローッ、面舵ーーっ一杯!」
ぐぐっ、と遠心力で傾く『大和』の中で、蔵斗は更なる驚愕を聞く。
『レーダーに障害!探知不能!』『全電子戦システムダウン!再始動できない!』
「はぁ―――ッ⁉︎」
もたらされた報告に、艦橋の誰もが言葉を失う。伊藤ですら、額に冷や汗をかいていた。
あの、光輪の所為なのか⁉︎
そう考える間も無く―――
ズウウゥウウウゥウゥ―――
この場にいる全ての人間が、腹の底から響く様な僅かな揺れを感じた。
7万tに迫るこの『大和』の船体が、微かに揺れている―――?いや、空間そのものが震えている・・・‼︎
「今度はなんだ・・・艦橋見張り、状況報告!」
『光の輪の中に、黒い物体を確認!どんどん拡大しています!』
「黒い物体⁉︎」
反射的に出た言葉―――それとほぼ同時に、彼は捻じ切れんばかりの勢いで首を前に向けた。
瞬間―――
―――パギィィィイィィンッッッ‼︎‼︎
耳を劈く激音と共に、閃光が視界を支配する。
「うっ⁉︎」
思わず目を手で隠し閃光から逃れる・・・がそれでもなお、目が恨む様な光が充満する。
『―――っ、艦橋っ!こちら艦橋見張り・・・光の輪に影が・・・あっ、あれは何だ⁉︎』
未だ耳が少し痛いが、何やら切迫した状況が迫っていることは容易に理解できた。
「こちら艦橋だ、どうした⁉︎何が見えたのか⁉︎」
『あれは船・・・船です‼︎船がリングの中から・・・‼︎』
「船だと・・・そんなバカな―――ウッ⁉︎」
閃光が止み、視界が戻りつつ世界で目を凝らす―――その視線の先には。
歪曲させられた周囲の景色の中に佇む五つの何重にもなったリングと―――
―――そのリングから飛び出して来たフネ―――
◆◇◆◇◆
数分前
東記暦681年 霧の大洋 外縁
カラブリァン皇国海軍第1戦列艦隊 第1航空分艦隊 第2戦列隊
旗艦『スペクター』
「―――風魔導石の風力生産をカット、全動力を帆全域へ。」「艦内全ての魔石を稼働、帆に全動力伝達。」「前方に魔力の収束を魔力振幅探信儀で確認、推定距離300リル(約360m)。」
「・・・・・・。」
コッリングウォードはマストを見上げる。まるでそれそのものが光に成った様に『スペクター』のマストは光の粒子に包まれた。
白昼夢でも見ているような―――幻想的とも言えるその美しい光景はしかし、この『スペクター』の死化粧となるだろう事は、誰にでも想像はついた。
「―――提督。各艦の準備、整いましてございます。」
「うむ。」
士官の報告に、コッリングウォードは短く返す。見渡せば、『スペクター』の周囲にいる4隻のマストも、明るい粒子に包まれている。
その光景を観ながら、コッリングウォードは思う。
“この魔法”を、自身の指揮の下に使う事になるとは、かつての彼ならば思いもしなかっただろう、と。
如何なる距離も弊害としない、空間を超越する古代魔法・・・一度使えば、全ての魔石はその様を足さなくなる諸刃の剣―――・・・余程の事態でなければ、その使用を禁じられている魔法―――
―――だが!
「今こそ、その事態・・・!」
言い聞かせる様に、コッリングウォードは言った。
ワイバーン100騎士という大戦力を短時間で叩いてしまう敵に、戦列艦だった5隻で一矢報いるには、彼にはこの方法しか浮かばなかった。
「出現座標の最終調整完了!」
「提督、そろそろ中に入られた方が。」
「ああ。」
ゥゥウゥウゥウゥゥ―――
空間そのものの振動を肌身に感じながら、コッリングウォードは艦内に戻った。
中に設えられた即席の指揮官席に腰を落とす。しばらくの間の後、彼は魔信士を呼び出した。
「は!ここに・・・。」
近くにいた魔信士が、コッリングウォードの前に跪く。
「そう堅苦しくしなくとも良い。・・・それより、一つ頼みがある。」
「何でございましょうか。」
「もうすぐ魔振も使えなくなる。その前に、こう打って欲しい。“我、汝らの魂を道連れにせし事深く謝す。我、汝らの魂の永遠に安寧なることを信ず。我、汝らの奮励努力に期待する。”・・・以上だ。」
「・・・・‼︎」
魔信士の目が大きく開かれた。
「どうした?」
“早くしろ”と言外に告げられた気がした魔信士は、復唱を済ませるや足早にコッリングウォードの下を後にした。
◆
「提督の号令一下、全艦、発動可能でございます。」
「分かった・・・。」
コッリングウォードは伏せていた顔を上げる。鋭い眼光と共に、彼は一声、命令を下した。
「全艦、ワープ開始ッ‼︎‼︎」
「魔力干渉帯に突入・・・ワープ開始‼︎」
ギイィィインッッ‼︎
彼らの視界は閃光に染まり―――
―――――――――
―――
―――――――――ッッ‼︎‼︎
ズドォォーーンッッ‼︎
「おおっ!」
艦底を押し上げるような衝撃!
同時に、閃光の埋め尽くしていた世界は急激にその姿を取り戻しつつあった。
「どうだ・・・成功か⁉︎」
「―――目視、魔法による確認作業を行いました・・・異常はありません!」
よし、と言ってコッリングウォードは次なる命令を下した。恐らく、今生最期の命令―――
「対艦戦闘用意。敵を発見次第、順次砲撃!」
忙しく水平が動き回る中、コッリングウォードもまた戦場に身を投じるべく、船室を後にした。
瞬間、彼は喫驚を覚える。
「――――――ッッ‼︎⁉︎⁉︎」
き・・・
(巨大・・・・・・ッッ‼︎‼︎)
彼とその部下たちの乗る『スペクター』のすぐ鼻先にある“敵艦”の姿は、彼の想像、想定を遥かに超越したものであった。
重厚感と圧迫感が同時に押し寄せてくる。
まるで・・・海に浮かべる要塞―――!いや―――
「―――まるで島だ・・・‼︎」
―――鋼鉄の城は、彼らを睥睨する。
戦列艦が「ワープ」するなんて聞いたことないダルルルルルロォォーーー⁉︎(慢心)
今さらですが、この小説のモットーは「誰も見たことがない(=俺が見たことが無い)日本転移もの」です。




