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異界にはためく旭日旗  作者: お猿プロダクション
序章 終わりの始まり
36/54

第弐拾捌話 救護作戦開始

予定より1日遅れです…

 第弐拾捌話 救護開始


 ???

 第1演習艦隊旗艦『大和』

 同艦尾 格納庫内


『―――諸君らには、リスクの高い任務を負わせることになる。しかし、どうか実行し、成功させてほしい。今、危機に瀕している国民を助け出すことができるのは、我々だけだ。その中でも、最も速く救援を行える諸君らを先に行かす事になった。無論、諸君らだけにその責を負わせるつもりは毛頭無い・・・我々も、追って全速で向かう事になっている―――』

 伊藤中将の低くしっかりした声は、直接は耳に届かなくとも、拡声器や格納庫内で反響となって皆の耳に届いている。

 ―――かつて、この『大和』が建造された当時は、水上偵察機や観測機を収容するためのY字状に広がる広大な(と言っても、流石に機体を収容した状態では流石に狭い)格納庫となっていたこの場所は、今はその名称、主たる用途こそ大きな変わりは無いものの、その機能、汎用性は往時のそれを遥かに凌いでいた。

 固定翼機では無く回転翼機を効率的に運用する為、格納庫を扇状に拡張し、格納庫に沿って設けられたレールも取っ払われた。

 高度に自動化した飴色の格納庫の天井には、艦載機用の部品や機器がぶら下がっている・・・床に固定させるよりも、最初から吊るしておいた方が楽だと言う発想らしい。もっとも、普段鈍足なこの『大和』がごく稀に繰り出す高機動によって揺さぶられ、終いには落ちてくるのでは無いかと肝を冷やした整備員も居るが―――。

 その、吊り下げられた種々雑多な部品の下・・・海上での迷彩効果を狙ったねずみ色の塗装を施された、一見獰猛な姿をしたヘリ―――AH-1SJの横に佇む男が、ボソッと囁くように、隣に立つ別の男に言った。

「なーんで俺らが海軍(あちら)のお偉いさんの説教を受けなければいかんのだ?」

 彼の手では、HMDを装着ていない滑らかな曲線を描く、陸軍第六対戦車ヘリコプター隊所属であることを示す赤鷹の意匠が施された灰色一色のヘルメットが、白い電飾によってその表面に光沢を作っていた―――。

 加藤(かとう) 建也(たてや)中尉・・・それが彼の名であり、彼の持つ階級であった。

「乗せてもらってる側ですから、そんな事言っちゃダメですよ・・・。」

 ボソッと耳打ちするように言う、加藤の隣にいるやや大柄の男は老士田(おしだ) (すすむ)少尉。AH-1SJの射撃手(ガンナー)、もとい武器操作員だ。

 老士田は続ける。

「それに、お説教と言うよりはお願いみたいな感じじゃないですかね?」

「お願いねぇ・・・。」

 本来、上から下に“お願い”なんて殆どないと思うんだがな・・・そう思いながら加藤は即席のやや雑な壇上に立つ伊藤中将を見る。

 最初こそ「作戦概要の説明」ではあったが、途中から何やらよく分からない訓示の様になっているように感じた。

「どうだか。」

 加藤は、海軍が好きな方ではない。

 今はそれほどでも無いが、大東亜戦争以前の日本陸海軍の間柄は険悪、劣悪そのものだった。諸外国の陸海軍も大体似た様なものではあったのだが、日本陸海軍はそれに輪を掛けて酷かったとされている。

 その仲の悪さたるや、陸軍が航空母艦(に似た機能を併せ持つ揚陸艦)や小型潜水艦を保有したかと思えば、海軍は独自の先頭車両を調達するし、同じドイツ製のエンジンを使うのにわざわざ別個の会社に発注してライセンス料をも別々に払うという徹底振りだった。

 更には20㎜機銃(機関砲)弾、30㎜機関砲(30㎜機銃)弾などと言った同口径の弾薬でさえ共通規格では無く、別々の弾薬を使用していたのである。ブローニング機銃として有名な12.7㎜重機関銃をモデルとして造られた機銃ですら口径13.2㎜、12.7㎜とそれぞれ違う口径にすらなってしまっていた。(ただし海軍の場合、既に艦載用の同企画の機銃が存在していたという事もあったが)

 1942年に『帝国陸海軍統合運用本部』が設置されるまでその悪弊は続き、その後も幾らかの齟齬があったと言う。

 統合運用本部の設置以降、陸海軍(1948年から空軍も追加)間の武器弾薬の共通化や人員の交流などを進め、互いの弊害を何とか除いていた。

 だがそれでも、末端レベルでは完全には取り除くには至らず、それは現在にも僅かながら燻っていた。

 加藤も、その数少ない人間の一人であった。

『―――では、諸君らの健闘と武運を祈る。』

 伊藤中将の話が締めくくられ、かっ、と軍靴を鳴らし敬礼した。

 と、同時。

 ガッ・・・・!

 格納庫内にいる全ての人間が一糸乱れぬ動作とタイミングで敬礼を返す。大多数の人間の靴底が床に叩きつけられ、音は反響となって格納内に小気味よく鳴り響いた。


 ◆◇◆◇◆


 数分後

 同 甲板


 離着艦誘導士官が発艦のサインを出した。

『“タイタン4”、発艦を許可する。』

了解(ロジャー)。“タイタン4”、発艦する。」

 AH-1SJに搭載された2基の高出力エンジンT700-IHI-402C2ターボシャフトエンジンは離昇馬力1,800馬力を誇る。

 ATA(空対空)S(スティンガー)blockⅡ Jを片側のスタブウィングの内側に4基、両翼合わせて8基。外側に230ガロン増槽を計2つ搭載し、かなりの重量となっている筈だったが、唸りを一掃に高めた2基のエンジンはそれを感じさせない程軽やかにAH-1SJの機体を浮かび上がらせる。

 機の真正面には『大和』の第3主砲塔が、威圧感すら伴ってその威容たるを彼らに見せていた。

 1基につき2500t以上。その46cm砲が一度火を吹けば、ありとあらゆる人工物はその原形を留る事は叶わないのに違いない。

 そんな物が(味方とは言え)これほども目の前にあると、どうにも緊張を強いられるのであった。

武器(ウェポンズ)システム、異常なし(オールグリーン)・・・いつでも撃てますよ。」

 前席の老士田が機首ターレット部のM197を指向させながら言う。

 M197とは、このAH-1SJに搭載されている機関砲の名称で、そのルーツはかの傑作機関砲M61機関砲、通称『バルカン』にある。


 ここで一つ勘違いが多いのだが、『バルカン』はM61系の機関砲を表す固有名詞であって、回転する銃身又は砲身を持つ機関銃、機関砲の事を指す言葉ではない。この場合は『バルカン』砲ではなく“ガトリング砲”と言うのが正しい。


 AH-1SJの離昇速度は加速することはあっても、それが減じることはなかった。体に少なからずかかるGを受けながら、ふと加藤は眼下に目を投じた。

「・・・・!」

 ―――雄大。

 真っ先に脳裏に浮かんだ言葉はその一言。

 艦隊は輪形陣を組んでいた。中央にはまともな戦闘能力を一切持たない多目的補給艦『本栖』が位置し、その艦尾を守るように数百m後方には戦闘力こそ高いものの手負いで速度の出ない『矢矧』が航行している。この2隻を中心とした全12隻の輪形陣だった。

 先頭はこの艦隊最強の防空能力を備える『響』が位置し、逆に殿―――つまり艦隊最後尾―――には、『大和』があった。

 さらには、最小限の哨戒用ヘリ以外、可能な限りの艦載ヘリが続々と各駆逐艦から飛び立っていた。その数、全8機。その何れもが、自身の腹に増槽と艦船攻撃用のAGM-114M『ヘルファイアⅡ』を抱えている筈であった。

 今、加藤らは、艦隊の最後尾から艦隊の全容をその目にしている。最早機体のほぼ真下にある殿、『大和』を中心に見えたその光景は、壮観そのものであった。

 そして―――


 ―――ヴァタタタタタタタ・・・・・!


 メインローターの生み出す轟音と共に視界の上方から現れた、尖鋭的で獰猛な輪郭を持った3つの機影・・・それは、先立って『大和』を発艦した、“タイタン1、2、3”のコードネームを割り当てられたAH-1SJの織り成すものだった。

 3機の織りなす強力なダウンウォシュに煽られないよう、コレクティブレバーで巧みに機体を操作しながら、3機の編隊に加わる。

「こちら“タイタン4”、現在高度(フライトレベル)1000フィート(10)・・・編隊に合流した。」

『こちら“タイタン1”編隊形成完了、指示を求む。』

『“YAMATO”了解。“タイタン”各機、高度そのまま、針路(ヘディング)3-3-4に取れ(3-3-4)通信終わり(オーバー)。』

了解(ロジャー)。』

 4機のAH-1SJは、隊長機“タイタン1”を先頭に見事なエシュロン隊形(梯陣)で時速280kmの巡航速まで加速し、北上を始めた。

 眼下では、休み無しに一隻、また一隻と視界から軍艦が後方へと流れ、消えてゆく。

『―――ズツーーッ―――』

「!」

 一瞬の空電音・・・。

 そして。

『行動中の全隊に告ぐ。』

 あの(・・)男の声だ―――遡る数分前、格納庫内で謎の訓示(?)をしていた、海軍の高官だと、加藤は瞬時に悟った。


『0835をもって、作戦を開始する。全隊、必ず1人たりとも欠けることなく民間人を救出し、任務を遂行せよ。』


 この言葉を聞き、ふと自身の手が小刻みに震えているのを今更ながらに自覚した。

 ・・・思えば、これが初めての実戦―――これまでに感じたことのなかった気味の悪い、腹に伸し掛かるような緊張が襲って来る。

 深呼吸―――

「ふぅ・・・。」

「どうしたんですか、溜息吐いて?」

 前席の老士田が加藤の深呼吸を溜息と勘違いして、訪ねた。

「いや、何でもない。」

 言って、意識を伊藤中将の話に戻す。

『―――間も無く開始時刻だ。4、3、2・・・全隊、行動を開始せよ。――――諸君らの健闘と武運を祈る。』


 ―――作戦は、始まった。

さてさていよいよ日本軍動き始めました(なお連載開始から約一年)

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