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異界にはためく旭日旗  作者: お猿プロダクション
序章 終わりの始まり
23/54

第拾伍話 択捉は何処に。

間違えてないし間違えてないし間違えてないし間違えてないし・・・・

 



 西暦2021年9月5日 AM.8:40

 埼玉県 狭山・入間市 入間基地 滑走路内


 陽炎の中、だだっ広い入間基地の滑走路にタキシングする1つの巨影━━━━。日本空軍の無人戦術輸送機、CQ-1『天烏』1番機は今まさに滑走路への進入を果たし、離陸の時を待たんとしていた。

 その腹の内には完全防備した日本陸軍第2空挺中隊第2小隊50余名を詰め込んでいた。

 その後方。同じくその腹に限界近くまで荷物を溜め込んだCQ-1が、滑走路への進入を今か今かと待ちわびていた。


 ヒィイィィィィィィン━━━━‼︎


 高翼の主翼にぶら下げられるような形で装備された、ゼネラルエレクトリック社製CF6-80C2K1Fタ━ボファンエンジンが独特の高音を響かせる。

 同時に、CQ-1の巨体が動き始めた。主翼のフラップを限界まで下げ、揚力を高めていく。

 数百mまで滑走したところで、CQ-1の丸みを帯びた胴体に張り付くように取り付けられている車輪が、フワッと浮いた。

 それを皮切りにCQ-1はどんどん機首を上に向け、やがて轟音を残して雲のほとんど無い蒼空へと飛び立った。


 ━━━続くCQ-1の2番機は、既に滑走路上をそのエンジンの(とどろき)と共に滑走を始めていた。

 だがこの2番機。最初に飛び立った1番機のようには、中々車輪が滑走路から離れない。加速を続けながらどんどん滑走路を疾走する。

 それもその筈、2番機の腹は16式機動戦闘車やそれを空中投下するパレット、その各種弾薬予備燃料etc・・・と、殆ど満載状態。C-2D譲りの優れたSTOL(スト━ル)性能をもつCQ-1と(いえど)も、直ぐに離陸するなど、どだい無理な話だった。

 ・・・とは言え、入間基地の滑走路は実に2,000×42mと長大である。やがて満載状態まで荷物を溜め込んだCQ-1、2番機の車輪が滑走路を離れる。


 そして、離陸━━━。


 入間基地の上空で2番機の離陸を旋回しながら待っていた1番機と合流し、一路、進路を北に取って行った。


 ◆◇◆◇◆


 同 AM.8:57 関越自動車道


 軽快に紺色のヴィッツを走らせていた伊奈美は、次から次へと後ろへ吹っ飛んで行く景色に気を配りつつ、車に載せている多機能ナビでニュ━ス番組を観ていた。


『━━次のニュ━スです。満州に長らく駐留していた関東軍の、最後の撤収する予定部隊を乗せた海軍の艦艇が今日明け方、金沢港に到着しました。』

 《関東軍、ついに全部隊が本土へ》の字幕と共にニュ━スキャスタ━の男性がそこまで言ったところで、男性を映していた映像が別の物へと変わる。

『今回撤収した部隊は32,544名に上り、これまでに満州から撤収した部隊の規模としては過去最大です。・・・長らく本土を離れていた彼らは、久し振りの祖国の地を踏みしめました。』

 画面が、テレビの取材を受ける軍人達のものへと切り替わる。

 衝突事故など起こしてしまわない様に、周りの車に気を使いながら伊奈美はそれを無感動に観る。

『・・・え━、ここで速報が入りました。一昨日の夜遅くに、台湾沖を航行中だった海軍の艦艇2隻が行方不明になったとの情報が入りました。政府発表によると行方不明となったのは海軍の駆逐艦『響』と新型補給艦『本栖』であると見られ━━━』


 ◆◇◆◇◆


 同 AM.9:23

 宮城県 仙台市 沖合8000m上空

 日本空軍 無人戦術輸送機CQ-1『天烏』


 CQ-1の機内は決して狭くない。だが薄暗く、殆ど密閉された空間に完全武装の兵士50余名がすし詰めに近い状態でいると、そこは少々手狭に感じられた。

「・・・・。」

 そのすし詰めにされている一人、第2空挺小隊隊長である良持は機首寄りの搭乗ドア付近で座っていた。蒸し暑い事この上ない。因みにこの状態が後30分は続く。

 運がいい(?)事に良持の座っている所には、ほんの申し訳程度に円形に開けられた窓がある。そこから外を眺められると言うのは、機体がその景色が何ら変わり映えしなくなった海上に出ても尚、良持には僅かながら暇つぶしとなっていた。

 首を捻りながら、ぼけ━━っと外を眺め、蒼天の絨毯の中へ適当に放り込まれた綿(わた)の様な雲が、ゆっくりと流れて行く様を見つめる。

 その雲の切れ目に、良持が小さな3つの黒い点を見出すのに僅かも時間はかからなかった。

「・・・お?」

「━━━どうされました?」

 突然何の前触れも無く声を出した良持に、隣に座っていた彼の部下の1人・・・久世くせ 厳女いくめ上等兵が声を掛けた。彼女は良持の率いる第2空挺小隊において僅かに5人しかいない女性兵士だ。

 明るい性格で、偶に所属する分隊のム━ドメ━カ━的な存在になったりする。無論、兵士としても優秀だ。だがいかんせん、日本人としてはある程度高身長な部類に入る良持からしてみると、彼女はかなりのちびっ子だった。(本人にそれを言ったらヤバイが)正直どうしてこんな低身長の人間が空挺部隊(ここ)に入隊する事が出来たのか分からない。良持とて、低身長=兵士としての能力が 低い・・・などと一概に決め付けるわけではないが、それでもある程度のハンディキャップにはなるんじゃなかろうか。

 とはいえ、低身長と言う事はそれだけ身を隠しやすいと言う事にもなり、部隊を展開した後は敵に対して奇襲などの戦闘を望まれる空挺部隊ではその特徴はいい方に運ぶ事もある。

 良持から見てみると、この小さい身体が数十kgにもなる装備を担いで何キロも行軍する様はさながら、尻尾を巻いたリスが苦労して集めたご飯(エサ)をせっせと運んでいる姿にも見えてしまい、良持のみならず、他の部隊の人間からも厳しい訓練の中での数少ない和みとなっていた。

「ん?いや、どうと言う事はないんだが・・・。」

 良持は久世の方を見る事なく、そう答える。彼の目線の先では、先ほど見つけた黒い点が明瞭な機影となっていた。

「何を見てらっしゃるので?」

「アレだ。」

 と機影を指差すが、どうやら久世の位置からでは機影が見えないらしく、「どれでありますか━?」と言いながら少し身を乗り出そうとするが、良持はそれを咎めた。

「おいッ・・・座れ。」

「も、申し訳ありません。」

 良持の気迫に押されてか、元から小さい彼女が殊更小さく見えた。


 それとほぼ同時━━━。


 ━━━オオォンンンンンン


「「「・・・・?」」」

 全員の耳に、CQ-1の重厚なそれとはまた違った、高音を伴ったエンジン音が幾つも重なって微かに聞こえてきた。

 再び良持が窓の外に目を投じると。そこには雲海。そしてその上を滑る様に飛行する、3つの航空機━━━。

「おお・・・・!」

 その光景には、きっと漢ならずとも感慨を覚えざるを得ないだろう。

 何故なら、彼らの乗るCQ-1と同行する様に飛ぶこの3つの機体は、どれもがこれからの日本の空の安全をその翼に背負うであろう機体だからだ。

「先頭のは空軍のF-3ですね。・・・キャノピ━がデカいからB型ですかね。」

 窓に近い隊員の1人が言う。


 今彼の言った事は正しく、現在CQ-1の隣を飛ぶ編隊の先頭は前進翼と水平尾翼の無い機尾が特徴の、日本空軍が誇る最新鋭戦闘機F-3B『旋風』。第5世代戦闘機に属し、高い機動性とステルス性能を保持する大型戦闘機で、B型はその複座型である。


 その後ろを飛ぶ、これまた特徴のある機体は・・・。

「あれはYF-4とYF-5ですね・・・空母が近くに居るんでしょうか。」

 再び先程の隊員が声を出した。おそらく奴はミリタリ━マニアなのだろうか。


 YF-4、YF-5とは、現在海軍が選定を進めている次世代艦上戦闘機で、第4.5世代戦闘機相当の能力を持つとされる。機体の主な部分はF-3の設計図などを流用している部分が多い。

 YF-4はF-3をほぼそのまま小さくした様な感じで、外見上の違いはサイズが小さいことを除けば、全遊式の水平尾翼が追加され、斜めに取り付けられた垂直尾翼が小さくなった程度である。

 YF-5は、やはりサイズが一回り小さくなり水平尾翼が追加、垂直尾翼が小さくなった他、前進翼だった主翼が後退翼となりコストの低下を狙うなど大幅に機体の外観に差異が見られる。

 そして両者ともエンジンが同一で機内ウェポンベイが無くなっている。

(その他、機首部分や胴体部分も良く似ている。)


 ただ、元々陸上戦闘機でありしかも大型のF-3を艦載機にする訳なので結構な設計変更を強いられており、コスト削減云々は割と微妙な感じになってるのは内緒だ。


「しかし何で、奴さんこんな所に・・・?」

 誰かが小声で言った。

 恐らくは空母から発艦した2機の試作機(YF-4、5)と、誘導役のF-3がこの近海で合流し、本土へ飛行。そこへ偶然にも彼らの乗る2機のCQ-1が付近を飛行していたので、接近してきたのだろう。


『・・・・。』


 ややすると、先頭のF-3が見事なバンクを披露し、後続のYF-4とYF-5もバンクを見せる。両機とも息の合った素晴らしいバンクである事は、航空機に詳しくない良持らにも分かった。

 3機はそのまま機体を滑らせ、轟音を伴いながら良持らの視界から消えていった。

「・・・バンクしてもCQ-1(これ)にはパイロット乗ってないですよって。」

 良持はそう呟いた。誰にも聞こえないほどに小さな声でい言ったつもりだったが、

「はい?」

 それにリスが食いついた。


「何でも。」


 ◆◇◆◇◆


 同AM.9:47

 北海道 襟裳えりも岬沖合 上空


 重厚なジェットエンジンのから吹き出される超音速の熱気が大音量を大空に残しつつ、相変わらず2機のCQ-1はその巨体を雲上に飛ばしていた。時折、雲の隙間から姿を覗かせる広大な太平洋の蒼は、雲海の途切れている遥か先まで続き水平線を形作っている。

 その行く手を阻むように、大きな積雲が太陽の光を浴びて不気味に白く輝いていた。

 少しづつではあるが確実に強くなってきている風の煽りを受けて振動するCQ-1の機内で良持は、大丈夫かこれ?と思わずにはいられなかった。

 何故なら、曰くこの機体は無人輸送機だ。離着陸出来、目的地までの最短ル━トで飛行できる能力はあっても、悪天候を避けて通ると言う行動が果たして出来るのかと、懐疑的だったのだ。

 だが彼の心配は杞憂である。

 CQ-1に搭載されているAIは、レ━ダ━やカメラ、他の場所から寄せられたデ━タといった、様々な情報から機の障害になる物(気候だけとは限らない)を認識しそれを回避、目的地までの新たな航路を再設定する事ができる。事実、AIはこの前方に広がる積乱雲を既に認知し、回避航路の設定を行なっていた。


 ただし・・・今回に限れば、彼の心配があろうが無かろうが、CQ-1のAIが優秀だろうが馬鹿だろうが、関係無かっただろう。


 ━━━━ゴオオォッッ‼︎


「うぉ。」

 突然の突風に機体が揺さぶられ、大きく傾いた。突然のことで、良持も変な声を出す。

 直後、カッ!と丸窓から閃光が迸るや腹の底にびりびりと響く轟きを機内に残してゆく。

(これ雷雲に突っ込んでないか・・・?)

 と、良持は思った。

 それは否である。CQ-1は確かに巨大な積雲を回避した。回避した上で(・・・・・・)こんな状況になった。

 激しく振動する機内で良持らは、稲妻が窓から突っ込ん(・・・・・・・・・・)でくる(・・・)のを目撃した。


「「「はッ・・・・⁉︎」」」


 稲妻が閃光となり、機内を包む・・・それと同時。

 2機のCQ-1に搭乗していた人間の全ての意識が眩い光の中に消えた。


 ◆


「・・・・っ・・・。」

 丸窓から射し込む光に意識が覚醒する。

「一体、何が・・・は⁉︎」

 窓から外を覗き込むと、そこには雲海の白と大海の碧があった。しかし、それは彼の視眼に映る光景のうち凡そ半分でしか無かった。

「陸地・・・!」

 残りの半分は、水平線に代わり地平線の遥か彼方まで埋め尽くす、大森林の緑だった。


 ◆◇◆◇◆


 同 PM.7:01

 某所 食堂


 少し高めの場所に設置された4Kの高解像度の薄型大型TVが夜のニュ━スを報じ始めていた。


『━━━つぎのニュ━スです。

 本日昼前、演習中の日本空軍の輸送機2機が北海道襟裳岬沖合で消息を絶ちました。

 行方不明となった輸送機は最新鋭の無人輸送機CQ-1とされています。また、輸送機には日本陸軍の装甲車、16式機動戦闘車や第2空挺中隊第2小隊が搭乗しており、隊員の安否が心配されます。

 今回の件について日本空軍は━━━』


「・・・・は?」


 いざ夕ご飯を食べようと、おかずやサラダが盛られたお皿が乗っているトレ━を持つ手が震える。


 伊奈美は生気を失い瞳孔の開き切った目で壇上の有機ELのTV画面を眺めていた。


悲報:俺氏、最近になってYF-4、YF-5の存在意義の無さに気付く。

かと言って今更消すわけにも・・・。


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