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電脳戦争  作者: 影宮閃
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第四章 空振り

2034年 米、中国軍に対抗する形で脳波によるコンピュータ捜査部隊を設立。さらにより高難度のクラッキングを可能にするインプラントの研究に一億2000万ドルの巨費を投じる。


2036年 ジャパン、陸、海、空に続く第四の組織、電脳自衛隊を創設。


2040年 脳波で使用するコンピューターの市販開始。


2049年 米、脳波研究の第一人者、エドワード・クラーク博士が、脳波によるより高度なコンピューターコントロールのため、サイバー空間構築を提唱。


2052年 中国軍、再度米NSFのメインサーバーに攻撃を開始。

      米軍、南シナ海の航路安全確保を名目に中国の人工島へ攻撃を実施。一時交戦状態となる。(南沙戦争)

      ジャパン、海上自衛隊、米軍の後方支援として南シナ海へ部隊派遣。



第四章 空振り




十一月11日現地時間(北海道エリア)午前八時12分。すすきの第二アクセスポイント。

「うおぉ!」

 アクセスポイントから勢いよく飛び出した陣は、あと一歩のところで踏みとどまる。目の前には、街中に忽然と現れた真っ黒な穴。

「なんだあこりゃ」

 柴咲の言った通り、吹っ飛んでいる。地表にぽっかりと開いた大穴。周辺は爆風や飛んできた破片であちこち壊れている。

 穴の範囲はすすきの交差点付近の半径約100mほど、ニッカの電光掲示板は下半分がメキメキに壊れており、おっさんの顔がかろうじて見えるくらいだ。その対角線上のビルは半分以上がえぐり取られたようになっている。

 こうして現場を観察している間にも、方々から次々とサイレンが近づいてくる。上空には空撮用の警察ヘリやドローン。報道も混じっているか。

「武田!」

 黒い穴のちょうど反対側、柴咲が手招きして呼んでいる。

「はい!」

 陣は穴の崩壊に巻き込まれないよう、淵をつたって柴咲のもとへ急ぐ。

「どうなってんすか、これ」

「さあな」

 柴咲は穴の奥を見つめている。

「現状保存は今データを吸出し中。所轄が犠牲者の数と身元を調べてる。今判明分は26人だ」

 さっきより増えている。それもそのはず、範囲が狭いとはいえ、ここは北海道エリア最大の繁華街、観光客や仕事で訪れる人も多い。しかもここには地下歩道もある。犠牲者が26人で収まるものか。

「とにかくてんやわんやで収集がつかん。俺は機捜と現場対応することになってんだ。お前は高田(こうだ)班の指揮下に入れ」

「了解っす」

 高田班は柴咲班のとなりに島を構える捜査一課第二班だ。現在柴咲班が殺人事件を担っているため、こちらの爆破事件は高田班の受け持ちとなるようだ。

「高田班長」

 陣は鑑識と話し込んでいる高田に声をかける。

「おお、武田、悪いな」

「いえ。こりゃひどいっすね」

 高田は柴咲と対照的に、すらりとしたスマートな男だ。捜査一課で一番身長が高い。

「おう。今現状保存を吸出してんだ。うちは所轄から上がってくる被害者のリストアップで忙しくてな。お前ちょっと下に降りて見てきてくれるか」

「了解です」

「鈴木部長!うちの武田を行かせるんで!よろしく!」

 高田は地下街への降り口に立っている鑑識課の部長に声をかける。

「じゃあ頼むな」

「うっす」

 陣は駆け足で鑑識のもとへ向かう。

「よろしく、鈴木」

「お久しぶりです、武田さん」

 鈴木は警察学校時代の後輩だ。帽子のつばを頭の後ろに回し、ゴム手にマスクと完全防備している。

「おう、頼むわ。今来たばっかりで何にもわかんねえんだ」

 陣は鈴木に習ってマスク、ゴム手を付ける。髪の毛も落ちないよう、くしゃくしゃになった帽子を引っ張り出してかぶる。

「現状保存がそろそろ終わるんで、中の検証はこれからが本番です。地下街の損傷が特にひどくて、無事な階段が遠くのしか残ってないんですよ。ここは人一人が通れるくらい。課長が来たら危ないから使うなって言われちゃうでしょうね」

 鈴木の先導で階段を降りていくが、確かに危ない。爆破に巻き込まれたのであろう、本来横に三、四人は並んで通れそうな階段が途中で崩れ落ち、人一人通るのが精いっぱいの足場しか残されていない。

「発生は七時二分、今から一時間前です。朝の通勤ラッシュにちょうどかぶってました」

 鈴木の説明を聞きながら、陣は細くなった足場に恐る恐る足を乗せる。

「すぐにMP(メンタルパラドックス)の確認が取れたのが十八人。爆破の外側にいた人たちです。生体情報とアクセスログがすぐにとれたので……逆に爆心近くにいた人は遺体の損傷が激しく、まだ確認作業は難航しています」

 階段を降り切ると、天井や壁がところどころ崩れかけた通路にでる。

「爆発の原因は?」

「現状保存を見てみないと確実なことは言えませんが……この周辺に原因となる因子は何も無いと思います」

「誰かが……テロか」

「否定はできませんね」

 通路を進み、爆発の中心部に向かう。そこは天井がなくなり、上の方であわただしく動く捜査員や、ヘリが飛び交う曇った空が見える。

「あー、すげえな」

 ポケットに手を突っ込み、空を仰ぎながら陣はため息を漏らす。これはジャパン支部だけで収まる話ではなくなるかもしれない。果たして殺人の方に戻る時間があるだろうか。

「ここまで見事な爆破は珍しいですね。犯人のめぼしもついてませんし、鮮やかなもんですよ」

「自爆って可能性もあるぞ。仮に遺体が木っ端みじんになったらどうなるんだ」

「核爆発で蒸発でもしない限り、残留データが付近に残るはずです。現実で言うところの髪の毛とか汗のあとから出るDNA反応みたいなものですかね」

「探すのか、この中から」

「そうですね」

「ほーん」

 鈴木は肩にかけていたジュラルミン製の鑑識カバンを開き、中からごつい機械を取り出す。黒いグリップにディスプレイが付いていて、グリップの先端部分は電波を受信するパラボラアンテナのようになっている。

「何、それ」

「これで生体情報がわずかでも含まれているデータの痕跡を調べるんです。この辺は現実の鑑識みたいに手作業じゃないんで楽ですよ」

 鈴木はにっと笑うと、グリップを握ってあたりの検索を始める。

「僕が通った後なら、好きに見てもらって結構です。図面情報とか必要でしょう?」

「おお、そうだな」

 現状保存と合わせて、現場検証時のデータも後の捜査で必要になる。鑑識の尻にくっついて行けば、確実なデータが取れるのだ。陣は左腕の端末を操作し、保存の準備を始める。




 木下はビルの陰に隠れ、顔だけをわずかにのぞかせる。

 視線の先にいるのは例の男だ。検察庁での釈放手続き後、順調に追っている。男は何度かアクセスポイントを経由し、TOKYOエリア以外にも様々な場所を歩き続けている。今は上野周辺だ。

 おそらく、尾行をまくためにわざと遠回りをしているのだろう。たまに反転してくることもあるため、ばれないように距離を開けて追跡している。

 と、再び男がアクセスポイントに近づく。木下は男の姿が白い光の柱に消えるのを待って走り出す。アクセスポイントに左腕の端末を重ね、直近の通行データを調べる。アクセスポイントのログはすべて保存されているため、MCPの照会システムからたどることができる。個人ごとにリストアップされたデータの中に男の顔を見つけ、その行先を選択する。

「ん?」

 ふと、その行先に違和感を覚える。これは……

「マジかよ」

 まさに殺人のあった、トンネル前に続く繁華街。

 木下は動機が激しくなるのを感じる。あそこは男がいきなり現れてきた場所だ。現実世界に帰るための何かがあったとしてもおかしくない。

 眼鏡の位置を直し、急ぎ、自らも白い光の中に飛び込む。上昇に乗って駆け上がり、光の外に出る。つい昨日来たばかりの繁華街、表通りは人も多い。人波にあてられ、一瞬男の姿を見失う。

 どこだ、どこだ、どこだ……

 顔と目を懸命に動かし、男の姿を探す。

 いた!

 ビルの陰に進む後ろ姿を見つけ、走って追いかける。

 木下の読み通り、男は人気のないトンネルの方へ向かっている。絶対に何かがある。上司の陣ほど自信はないが、自分の勘がそう告げている。トンネル前最後のビルの陰に隠れ、男を観察していると、男は――入り口付近で一瞬あたりをうかがった後――トンネルの中に吸い込まれるように入って行った。

「よし!」

 自分に気合いを入れ、トンネルめがけて走る。中はたくさんの方向に枝分かれしている。見逃すわけにはいかない。

 素早くトンネルの中に入り、足音を立てないように細心の注意を払う。すでにトンネル内のインフラは復旧しており、昨日のように真っ暗ということはない。今振り返られれば尾行がバレる可能性もある。可能な限り息を押し殺し、100m先の男の姿をゆっくりと追う。

 男は壁づたいに歩いて行き、入り口から300mの最初の分かれ道を右に曲がる。木下は引き離されまいと少し速足で近寄り、通路の壁に背をつける。

 そのまま顔だけ出して右の通路を伺うと……そこには、

 

 男の姿がない。


「っ?」

 木下は思わず通路に躍り出る。

 そんなまさか。わずか十秒前までいたのに。まるで蒸発でもしたかのように跡形もない。昨日と同じ、まるで幽霊のように――


 バン、バン、バン、バン、バン


 突如、けたたましい音と共に通路の奥から順に電灯が消えていく。




「ふう」

「どうよ」

 陣は作業を中断した鈴木に声をかける。

「いやあ、これだけ多いとなかなか……ちょっと休憩させてください」

 鈴木は額の汗をハンカチで拭う。かれこれ三十分以上ぶっ通しで現場検証は続いている。

「残存データは結構あるんですけど……」

 鈴木は採取したデータをごつい機械で確認する。

「身元が判明した人のばっかり出てきますね……。すごく微細な被害者の肉片とかですよ、たぶん」

「ほーん」

 二人とも、肉片というワードに驚くには経験を重ねすぎた。かれこれ百体以上の遺体を見てきている。サイバー空間に様々な制約や安全装置があるとはいえ、首を絞めれば人は死ぬし、階段を転げ落ちればあちこち骨折もする。今重要なのは身元不明の遺体の情報や、犯人に繋がる手がかりだ。被害者のデータも必要ではあるが、優先順位を決めてやらなければ終わらない。

 手持ち無沙汰になった陣は、現場をぐるりと観察してあることに気が付く。

「なあ鈴木」

「はい?」

 鈴木は画面から目を離し、顔を上げる。

「これってさあ……地下の爆発だよなあ」

「はい。おそらく」

「それにしてはさあ――」

 陣は空いた天井から見えるニッカの電光掲示板を見つめる。

「素人目にだけど、地下と地上の損害の割合おかしくねえか」

 その言葉に、鈴木も天を仰ぐ。

「爆風で天井が吹っ飛んじまったのは分かる。でもよ、あの爆心に一番近いビルなんか半分以上えぐれてんぞ。硬いアスファルトに岩盤まであるのに、地下で爆破させたにしては威力が大きすぎる。そう考えると……地下はもっとめちゃくちゃでもおかしくねえよな」

「あぁ確かに……。これだけ地表に被害出てるのに、地上と地下で被害半径がほぼ同じってのは……ちょっと変ですねえ……」

 鈴木はうなずいて左腕の端末を叩く。

「爆心地はまだわかってねえのか?」

「現状保存が終わっていれば確認できるはずなんですが……。うーん、鑑識課の僕の後輩はまだ確認中でわかりませんって」

「上でもたぶん見てんだろ、ちょっと聞いてみるわ。お前現状保存のデータで被害範囲割り出して、爆心地、計算で割り出せるか聞いてみてくれ」

「いいですよ」

 鈴木が再び端末を叩くのを横目に見て、陣はスマホで電話をかける。

〘おう、どうした武田〙

「ああ、お忙しいところ申し訳ありません。高田班長、今現状保存ご覧になってます?」

〘今課長と見てるとこなんだよ。なんだ、どうした〙

「いえ、ちょっと不思議に思いまして――」




「そうか、ちょっと待てよ――」

〘すいません〙

「ああいいよ、そのままにしとけ。課長、ちょっとすみません」

 高田は現場本部に設置されたモニターの前に戻る。この忙しい時に、柴咲の部下は遠慮というものを知らないのか。しかし武田が優秀なのは高田もわかっている。この情報は無視できない。

「んー、どうしたの?」

「ちょっと部下が気になるところがあるみたいで、よろしいですか?」

「んー、いいよ。やりたいようにやっちゃって」

 キャリアとして入ってきている課長は、実際に刑事の経験があるわけでは無い。はたから見ればただのゆるーいおじさんだ。大方承認の必要な業務は課長補佐が担っている。つまりこの人はお飾りのようなものだ。

 しかしお飾りとはいえ、MCPも警察である以上階級社会だ。上司の命令は絶対なのである。その点、この人は割と現場の好きにやらせてもらえるので(その点は)助かっている。

「爆発直前まで巻き戻せ」

 高田は端末を操作している部下に命じる。モニターに映されたすすきの交差点が、爆発の前、正常な状態まで巻き戻されていく。吹っ飛んでいった車やがれき、人影が元の位置に戻って行く。

「よし。地下の映像に切り替えて、爆発直後でいったん止めるんだ。0.1秒単位で進めろ。爆心地が知りたい」

 部下は映像を地下に切り替えた後、進み具合を0.1秒に調節し、カチカチとクリックして少しずつ進めていく。

 しばらくは行き交う人がわずかに動いていくばかりだったが、突然天井からまばゆい光が放たれる。

「そこだ!そこで止めろ!」

 高田は叫び、光る天井をじっと見つめる。

「どういうことだぁこれは……」

〘どうですか?高田班長?〙

 待ちかねたのか、電話口の向こうから陣が催促してくる。高田は画面を凝視したままスマホを持ち上げ、顔の横に持っていく。




 バン、バン、バン、バン、バン……


 ついに木下の頭上の明かりも消え、さらに入り口の方へ向けて消えていく。

「なっ」

 まずい。完全に昨日と同じ状況だ。あの男は――方法が全くの不明とはいえ――サイバー空間に干渉する力を持っている。暗闇、相手の位置は不明、そして応援は見込めない。このままここに長居するのは危険が伴う。

「まずいなぁ……」

 諦めて引くべきとこなのだろうが、でも、しかし、いや、あいつを野放しには……。そうだ。あいつを野放しにすれば、いったいどれだけの被害がでることか。それだけは絶対に許せない。許すもんか。逃がすもんか。

 木下は拳銃を取り出す。壁に背をつけ、極力隙をなくす。その状態で左腕の端末を操作し、ライトをつける。

「よし、ついた――あっ!」

 暗闇の一部が明るくなった瞬間。その明かりに男が照らされる。木下との距離わずか数m。

「うわっ!」

 叫ぶより早く、男が懐に潜り込んでくる。陣の教えで、普段から訓練を怠っていない木下も、不意を突かれてはどうしようもない。男の持つナイフが、腹部に深く突き刺さる。

「ゔぅぅぅ!」

 あばらの隙間を縫って冷たい塊が滑り込んでくる。肉と骨が焼けるような痛みに、悲鳴を上げそうになる。

「がっ」

 渾身の力で、男を振り払う。どうやったのか自分でもよくわからない。とにかく無我夢中だ。

「んー、んんんん」

 左腕を向けた方向しか明るくならない中、男の笑い声が反響する。

「んんん、ふふふ」

 血が流れ、視覚と聴覚が鈍る。不気味な笑い声と暗闇が拍車をかけ、木下は混乱していく。

「どこだ……どこだ!」

 銃とライトを同じ方向に構え、その場でぐるぐる回る。しかしどれだけ回転しても、男の姿をとらえることができない。自分の靴がすれる音と、男の足音が反響し、頭の中でわんわん鳴り響く。

「っ。どこだ!」

「ここだぁ」

 一瞬で、木下は羽交い絞めにされる。首元にはナイフ。

「ゔう!ああぁ!」

 ひるむことなく、肩越しに銃を後ろに撃つ。

右耳をつんざく銃声が五発響くが、木下を掴む腕の力は一つも弱まらない。

「うあっ!」

 作戦変更し、銃把を男のわき腹めがけて振り下ろす。

「んゔ」

 今度は成功した。男はうめき声をあげ、腕の力も幾分か弱まる。

「う!あ!」

 がむしゃらに銃を振り回し、繰り返し男に打撃を与え続ける。

「あぁ!うぅぅ」

 観念したのか、男の力が急激に弱まる。木下はここぞと踏ん張り、その腕から逃れる。

「はーっ、はーっ、はーっ」

 今度は姿を見逃すまいと、すぐさま振り返る。男は木下の目の前で、わき腹を押さえて――なぜか笑顔で――眉間にしわを寄せている。

 かすむ視界に抗うように、銃を男に向ける。なんとかEDRを使う隙を作らなければ……血を流しすぎている……。

 だが、そんな隙を与えてくれるはずもない。

「ははっ」

 男は頭を大きく振ると、一直線にこちらに突っ込んでくる。木下は抵抗のための体制をとることもままならず、地面に組み伏せられる。拳銃もむしり取られ、あっという間にその銃口を自身の顔に向けられる。

 なんとか逃れようと全身に力を籠めるが、体重で完全に抑え込まれている。びくともしない。

 男はしばらく抵抗する木下を見ていたが、興味がわいたのか、いきなり顔を近づけてくる。木下は気持ち悪く感じて顔を背けるが、男は嘗め回すように様々な角度から観察してくる。

 暗闇の中、男の独特の息遣いが耳にこびりつく。視界がない分、余計に。木下は痛みにこらえるため、そしてこれから起こることに身構えるため、ぎゅっと歯を食いしばる。しかし――

「んー、あーっ。なんだお前かあ」

 男は急に興味を失い、木下から顔を背ける。

 なに⁉

 木下は歯を食いしばるのをやめ、男の顔を(よく見えないが)まじまじと見つめる。

「巡査部長なら考えたが、お前じゃダメだ。全然ダメだ。はあ、やったと思ったのに……はあ」

 訳の分からない独り言に、木下はかすれる声で問いかける。

「何を言ってる……?」




「つまり、爆心地が映像じゃ確認できないってことですか?」

〘ああそうだ。地下にも、一応地上も見てみたが……爆弾を設置する奴も、自爆する奴も写ってない。いきなり光るだけだ〙

「あらかじめ設置されていたってことすかね……」

〘だったらどこにだよ。地表と地下街の間にどうやってそんなもの仕込む?ドリルで穴を掘るか?そんなことしたら一発で通報されるぞ〙

「そうっすよね……」

〘何にしろ、こりゃ大変なことだ。MCSL(マクシル)に空間の異常も調査してもらわねえとな。規制解除する前で助かった。よく気付いたな〙

「ああ、いえ。こっちはまだ現場検証残ってるんで、作業に戻ります」

〘おう、また何か気付いたら言ってくれ〙

 陣は通話を切り、鈴木に向き直る。

「やっぱり変なことになってるみてえだ。そっちはどうだ」

「送られてきたのを見る限り、これなんですけど」

 鈴木は計算結果が見えるように、左腕の端末をARモードにして映像を投影する。

「爆発の範囲、地面と天井の厚みを換算して、中心はおおよそこの辺り」

 鈴木は、立体的に投影されたすすきの交差点の地下空間、その地下街と地表の間を指差す。

「地下街でも地表でもない……現状保存の結果と同じか」

「そうですね。こんなところに爆発する原因なんて無いはずですが……」

 陣はホログラムの爆心地点をじっと見つめる。何もないのに爆発するわけがない。そんなのは超常現象だ。データと計算で成り立つサイバー空間に、そんなものがあってたまるか。何かカラクリがあるはずだ。何か……。

「おい、ここってもしかして――」

 鈴木に質問をしようと口を開きかけた時、陣のスマホがけたたましく鳴った。


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